2019年から新戦力の投入で蘇った “ファンティック” 。創業は1968年だが、強く記憶に残っているのは、1980年代のISDE(International Six Days Enduro)や世界選手権トライアルでの活躍。オフロード系に強いイタリアのブランドである。キャバレロは50年前に人気を集めた50ccオフロードバイクから由来している。 REPORT⚫️近田 茂(CHIKATA Shigeru) PHOTO⚫️山田俊輔(YAMADA Shunsuke) 取材協力●株式会社サイン・ハウス
◼️ファンティック・キャバレロ500 フラットトラック.......1,130,000円
土とアスファルトを自在に駆ける、がキャッチコピー。 50年振りのブランド復活を果たしたキャバレロ。当初は2機種のバリエーションが登場した。スクランブラーとフラットトラックそれぞれに125/250/500の3タイプを投入。さらにラリー500が加わった。 スクランブラーはファンティックの原点回帰を担う。オン・オフで楽しめるレトロ・スタイルモデルだ。そしてラリーはアドベンチャースタイルを加味したモデル。 今回の試乗車はフラットトラック500。カタログのキャッチコピーを引用すると “リアルアーバン・フラットトラッカー” とある。以前にホンダがリリースしていたFTRと同カテゴリーのモデルである。 125/250/500いずれも基本的には共通サイズの車体にそれぞれ異なるエンジンを搭載。外観デザインや見た目の車格感はほぼ同じに見える。厳密に言うとフレーム形状やタイヤサイズ等に微妙な違いはあるが、ホイールベース等の寸法や、ブレーキ等の主要パーツは同じ。 エンジン排気量と車両重量が異なるだけである。ちなみに乾燥重量は125が130kg、250が140kg、500が150kg。税込み価格は125が81万円、250が91万円である。 クロームモリブデン鋼のフレームは角形ダウンチューブ下方で2本の丸パイプへと分岐するセミダブルクレードルタイプ。搭載エンジンは水冷SOHC4バルブ単気筒。ボア・ストロークが94.5×64mmと言うビッグボア・ショートストロークタイプの449ccだ。 前後サスペンションやブレーキも剛性の高いしっかりした部品が奢られている。丁寧に肉抜きされたアルミのステアリング・アンダーブラケットはφ41mmの倒立式フロントフォークを左右それぞれ3本のボルトで固定。前後のアクスルはボルトが左右にはみ出ない賢い設計も印象深い。 そもそもフラットトラッカーというキャラクター自体に希少性があるが、細部まで拘りのある造りとレトロチックなデザインもなかなか魅力ある1台である。
個性的な主張が楽しめる。市街地散策も快適。 幅の広いハンドルを握って身構えると、如何にもオフロード系の雰囲気が伝わってくるが、黒いテ-パ-ドパイプバーハンドルはそれほどアップされてはおらず、低く身構えても違和感は無い。 右側はアップマフラーの関係もあるが、両サイドカバーは膨らみが大きく、停止時にマシンを支える時に、足付き性が少々邪魔されてしまう。少し腰高な印象があり、ワイドハンドルと相まってサイズ的にはなかなか立派な車格感がある。 ライディングポジションは、ゆったりとした感じ。前後に標準装備されたチェコ製の太い19インチタイヤ(前130/後140の80偏平)の特性もあって、直進安定性に優れる落ち着きのある乗り味が印象深い。穏やかで安心感のある快適な走りが楽しめるのである。 バイクを眺めてみると、コンセプト通りレトロなスタイリングと斬新なデザインとの融合に、他にはみられない個性的な魅力が漂ってくる。 細部に使われる各部品やハンドルスイッチ周辺のデザインはどこか古さを感じさせる所もあり、一方で斬新なパーツも積極的に使われているあたりが新鮮。何よりも他に例のないオリジナリティの主張がユニークだ。 例えばダイヤル式のディマースイッチ。2本以上の指でつまんで回すと扱いやすいが、走行中の操作では親指に力がいる。スッキリと美しいシングルメーターは液晶表示式で電圧や時計表示もできる多彩ぶりだが、タコメーターの目盛りは1000rpm毎の表示で大雑把である。 エンジンは回してもせいぜい8000rpmレベル。タコメーターは14,000rpmスケールなので7000rpmスケールに変換してソフトを書き換えてくれれば500rpm毎の表示になるのにな~と余計な事を考えてしまった。 ただ、エンジンの出力特性はシビアな回転を知る必要がない程に柔軟性に富みとても扱いやすいものだった。実際、タコメーターなんて無くても良いのである。 ビッグシングルと言っても、ハッキリ言って乱暴者ではない。でも十分に豊かなトルクがある。言い換えると強烈な凄味は無いが、実に逞しく走ってくれる程良いパフォーマンスが好印象。吹け上がりのフィーリングが軽やか。ショートストロークらしくスムーズに伸びて行く。しかも不快な振動発生が無かった点も嬉しい。 前後19インチの太いタイヤも個性的な乗り味に貢献。S字の切り返しや旋回中でも終始落ち着きがある。操舵も軽すぎず、挙動もクイック過ぎず、穏やかな心持ちで操縦できる。Uターン等で強引にねじ込もうとすると立ちの強さが顔を出す場面もあるが、バイク全体の落ち着きある乗り味は心地よい。 ちなみにローギヤで5000rpm回した時のスピードは34km/h。6速トップギヤで100㎞/h時のエンジン回転数は換算値で約4900rpmだ。 トコトコと呑気に走るのも似合っているし、スプリンター的な走りを引き出すのも簡単。いつでもメリハリのあるスロットルレスポンスを発揮できる気持ちよさも好印象。逞しさと穏やかな乗り味の程良い融合具合と、他にない個性的なスタイルを主張できる所に見逃せない魅力が感じられたのである。
⚫️足つき性チェック(身長168cm) 足つき性はご覧の通り両足の踵が浮いてしまう。シート高は820mmでやや腰高な印象。車重は乾燥データで150kg。バイクを支える上で特に不安は感じられなかった。
⚫️ディテール解説 オーソドックスな丸型のハウスを持つヘッドランプ。レンズを使用したメインのLEDランプを囲むリングライトのデザインがユニークだ。
ロービームはこの状態。対向車の多い市街地走行ではこんな顔つきで走る事が多い。 一方ハイビームは大きさが異なるランプの5連灯に切り替わる。
φ41mmのフロントフォークは倒立式。車軸ボルトが飛び出さない設計がスマート。シングルディスクブレーキはφ320mmローターをフローティングマウント。ラジアルマウントされた油圧ブレーキキャリパーはBYBRE製対向4ピストンタイプ。ブレンボ系のブランドだ。
水冷ビッグシングルエンジンを搭載。ショートストロークタイプの449ccからは40HPを発揮する。
右出しツインアップマフラーをカバーするゼッケンプレートが勇ましい。
黒リムのスポークホイールに27,5×7,5-19 (140/80-19)チェコ製タイヤを採用。サスペンションはボトムリンク機構を持つカタルニア製のモノショックタイプだ。
スッキリとシンプルなハンドルまわり。黒のパイプバーハンドルはテーパータイプ。タンク上にはシルバープレートが採用されている。
ディマー用ダイヤル式スイッチの採用がユニーク。一番下がシーソー式ウインカースイッチ。中段左がホーン。右は長押しする事でABSをオフできる。パッシングスイッチは人差し指で扱う位置にある。 ハンドル右側スイッチは赤いエンジンキルスイッチと黒いスタータースイッチのみ。スロットルレリーズとグリップはイタリアのdomino製だ。
やや右側にオフセットされたシンプルな液晶表示メーター。デジタル表示の文字が大きく見やすい。タコメーターのメモリは1ブロックで1000rpm。
テールカウルまで一体感のあるダブルシートを採用。タンクから繋がるロングデザインが印象的だ。
パイプステーをあしらったナンバープレートホルダー。テールビューのデザインもなかなか個性的である。
主要諸元 エンジン形式:水冷4ストローク単気筒SOHC4バルブ 排気量:449cc ボア×ストローク:94.5×64mm 最高出力:40HP/7500rpm 最大トルク:43Nm/6000rpm 始動方式:セル式 変速機:6速 全長:2180mm 全幅:840mm 全高:1154mm シート高:820mm ホイールベース:1425mm 乾燥重量:150kg タンク容量:12ℓ フレーム:クロームモリブデン鋼セントラルチューブフレーム ブレーキ(前/後):φ320mmディスク/φ230mmディスク/ ABS:2チャンネル式(ABSカット機能付き) サスペンション(前/後):FANTIC FRSφ41mm 倒立フォーク/FANTIC FRSプリロード調整機構付き サスペンションストローク(前/後):150/150mm タイヤ(前/後):130/80-19 / 140/80-19 ◼️ライダープロフィール 元モト・ライダー誌の創刊スタッフ編集部員を経てフリーランスに。約36年の時を経てモーターファン バイクスのライターへ。ツーリングも含め、常にオーナーの気持ちになった上での記事作成に努めている。