メガーヌR.S.トロフィーの最大のライバルとして真っ先に浮かぶのは、やはりホンダ・シビック・タイプRだろう。
メガーヌR.S.トロフィーRとのニュルブルクリンク北コースにおける量販FF車最速を賭けた熾烈な戦いではメガーヌが勝利しているが、日本の道をより速く愉しく走れるのは果たしてどちらだろうか?
TEXT : 斎藤慎輔 (SAITO, Shinsuke)
PHOTO : 中野幸次 (NAKANO, Kouji)
シビック・タイプRは2020年モデルの登場待ち
速さの上増し。これこそがルノー・スポールにとって求められ、そして自らも求めているもの。それは唐突でも突然でもなく、タイムスケジュールに則って、商品としての魅力と存在感を高めていく道筋ともなってきた。
量販FF車最速であることを証明する舞台となってきたニュルブルクリンク北コースにおけるセアト、VW、ホンダなどとのラップタイムバトルは、運動性能を鍛えあげることには大きく貢献するものの、ともするとレーシングカーの方向性にも近づきかねない。
それこそ、メガーヌRSトロフィーRは、日常性を投げ打ってでも最速のタイトル奪還に拘ったものだと捉えているが、メガーヌRSトロフィーは、本筋の量産FFスポーツとしての頂点を目指すものとして注目を集めている。
メガーヌRSのライバルの筆頭は、ホンダ・シビック・タイプRだが、実はすでに生産完了、販売終了となっており、2020年モデルの登場まで待ちといった状況である。
そのシビック・タイプRの開発は、当然としてメガーヌRSを強く意識して行われたはずだが、開発当時はまだメガーヌは先代モデル。ボクはシビック・タイプRの発売前に、ホンダの北海道・鷹栖プルービンググラウンドのワインディングコースでも試乗したが、ここは変化に富んだアンジュレーションと勾配を備え4速、5速全開のコーナーも配したニュルを模したコース。そこで、パワーはもちろん、圧倒的なスタビリティや、安定感を携えた旋回性能に感心させられた。開発陣からは「メガーヌRSではこう安定した動きは期待できないので、ドライバーのスキルも高く要求される」といった会話をした記憶がある。
先代のメガーヌRSではたしかにその傾向はあった。けれども新型が登場して、形勢は逆転したかもしれない、と思うようになっていた。それが、動力性能的にシビック・タイプRにより接近したRSトロフィーと乗り比べてみると、むしろ2車のとくにハンドリングの違いは明快に感じられ、なにより優れた車体性能、シャシー性能を備えた上でのメガーヌRSトロフィーの4コントロールの存在は、想像以上の効果をもたらすものと感じた。
ちなみに、RSトロフィーは、RSに対しては最高出力が21㎰向上した300㎰に、最大トルクは30Nm(EDC仕様同士において)向上の420Nmまで高められてきている。メガーヌRSのエンジンが、先代の2ℓから1.8ℓへと排気量ダウンしたのは、ルノー・スポールが望んだことではないはずで、開発時点でルノー及び日産が持つパワーユニットとコンポーネントの中での、今後の排ガス対策等を見越した上での選択であって、そこには量産車としての制約が見え隠れしている。
公道域での乗り心地に違いをみせる両者
足回りはRSのシャシースポールに対してシャシー・カップが標準となり、公表値ではスプリングレートをフロント23%、リヤ35%、ダンパーレートを25%、フロントスタビレートを7%高めたとなっている。これはサーキット域ではプラスとなるのは疑うまでもないが、心配は公道域での乗り心地に我慢を強いるようなことにならないかだった。
この点では、シビック・タイプRは電子制御アジャスタブルダンパーを標準装備しているので、ダンピングの自由度は高い。コンソール部にあるスイッチでコンフォートを選択すると、エンジンのスロットルや渦給の特性が穏やかになるとともに、足はバネレートに対して極端なくらいダンピングレートが下がる印象だ。突き上げ感や強い引き戻し感などが薄れるので乗り心地がキツい感覚にはならない。かつての、ひたすら耐える乗り心地のタイプRを知る身には、驚きですらある。
エンジンを始動した際のデフォルトとなるスポーツモードでは、少し引き締まり感が得られ、ワインディング等を駆け抜ける際でも姿勢コントロール的には十分だ。+R(プラスR)モードは、公道域で必要とすることはまずないが、その際のダンピングレートはより高められる。ステアリングの操舵力も反力もずっしりと重みを増して、フィードバックレベルも高いが、公道のワインディングでは時に手応え過多の感も生じる。
メガーヌRSトロフィーは、RSに対しては明確に足の硬さを感じさせ、とくに50㎞/hあたりより下の領域では、バネレートの高さとそれに合わせたダンピングレートゆえの、ピッチサイクルの細かい、そして軽い引き戻し感を伴う揺れは意識される。だが、ゴツゴツするとか、ガツンといった衝撃が伝わってくるものではない。スポーツモデルに乗り馴れた身には、むしろ頼もしさとして感じられるレベルのものではないかと思われた。ただし、気になったのは、路面状況により、主にタイヤのショルダー剛性に起因すると思われる強めのワンダリングが生じることである。
一方、高速域での安定感や本質的な直進性はどちらもまったく不満はない。シビック・タイプRは見るからに効果のありそうな、言い換えると、ちょっと気恥ずかしいほどの空力付加物を与えられているのに対して、メガーヌRSトロフィーがRSと何ら変わらず、仰々しさがないにもかかわらず、リヤ側もデンと座っている感が得られるのは、ボディ及びシャシー剛性の高さとともに、前後空力バランスが優れているということの証だろう。
シビック・タイプRと互角の加速感を見せるRSトロフィー
RSトロフィーのエンジン性能で、パワー、トルクが向上していると思えた理由は、以前にワインディングでメガーヌRSとシビック・タイプRを乗り比べた際には、上り勾配でのトルク感と加速力において、200㏄の差は少なくないなと感じさせたのに対し、RSトロフィーでは、過給が立ち上がるまでのほんの僅かな域を除き、シビック・タイプRと互角の加速感で車速を押し上げたことにあった。
より細かく言えば、メガーヌRSトロフィーでスポーツモード、シビック・タイプRでもスポーツモードとした際に、低回転域からアクセルを全開にした際の過給の立ち上がり、レスポンスではメガーヌRSトロフィーに分があり、排気量の差によるイニシャルトルクで低回転域のトルク感はシビックが勝る。トップエンドに近づいた領域でのパワー感でもシビックが勝るが、車重はシビック・タイプRが80㎏も軽いことを思えば立派なものだ。
メガーヌRSトロフィーはEDCと6MTが選べるのに対して、シビック・タイプRは6MTのみの設定だが、もはやレーシングドライバーであっても、MTでは変速スピードとなにより正確性で、出来の良いデュアルクラッチトランスミッションの動作には勝てない。メガーヌRSトロフィーにおいて、最速のシフトを行うレースモードを選択した際など、シフトショックはともかく、エンジン特性と車両の動きに合わせた文句の付けようもない操作を見せつける。自身のMT操作と照らし合わせ見事に敗北感に包まれることになるほどに。ローンチモードとすれば、最大効率での発進をも容易に可能にする。
そうした点はホンダも認めながら、シビック・タイプRでは変速操作そのものの楽しさや、自由度を重視しMTとしたそうだが、メガーヌRSトロフィーは、双方選べるのだ。
その上での4コントロールの存在である。メガーヌGT、RS、RSトロフィーと順にパワーが上がり、足が固められていく中で、一番マッチングがよいのが、このトロフィーのように思えた。固められた足と、HCCによるロール時のバネ上の動きの収まりの良さと相まって、体感的にも圧倒的に高い旋回スピードを実現している。とくに後輪が逆相域となる60㎞/h未満におけるタイトコーナーでは、それこそレールの上を駆け抜けるが如き正確性と速さを見せつけるし、トルセンLSDを採用したことで、旋回中のアクセルワークの自由度も増して、実に楽しいのだ。
シビック・タイプRは、こうした状況ではリヤの徹底した安定性追求が仇ともなり、少なからぬアンダーステア感は否めない。それでも、リヤ側の剛性に拮抗できるフロント側の剛性を持つことや、ヘリカルLSD 、そしてホンダではアジャイルハンドリングアシストと呼ぶブレーキによるトルクベクタリングなどの効力もあり、舵の効きそのものは保たれる。とはいえ、操舵量とともに心理面でラクに維持可能な旋回速度にも差があった。
高速コーナーでは、シビック・タイプRもしっかりとした舵の効きと極めた安定感のバランスで本領を発揮するが、そこでもメガーヌRSトロフィーは、操舵開始でヨーが発生し向きが変わるまでの一連の動きがさらに極めてスムーズで、かつロールへのつながり、収束も穏やかであって、後輪を操舵させているという違和感をもたせない。FFにおける後輪操舵のメリットを、ここまで引き出せているのは相当な走り込みの成果に違いない。
シビック・タイプRに対して、排気量でも車重でもハンディを抱えるメガーヌRSトロフィーではあるが、だからこそ、絶対に負けないというルノー・スポールの強固な意思が詰まっていると思えてならなかった。
RENAULT MEGANE R.S. TROPHY
全長×全幅×全高:4410㎜×1875㎜×1435㎜
ホイールベース:2670㎜
トレッド:F1620㎜/R1600㎜
車両重量:1470㎏(6EDC)
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1798㏄
最高出力 (kW[㎰]/rpm):221[300]/6000
最大トルク (Nm[㎏m]/rpm:420[42.8]/3200
燃料タンク容量(ℓ):47
トランスミッション形式:6EDC(6速DCT)
駆動方式:FWD
サスペンション:Fストラット/Rトーションビーム
ブレーキ Fベンチレーテッドディス:/Rディスク
最小回転半径(m):5.2
WLTCモード燃費(㎞/ℓ):12.4
タイヤサイズ:245/35R19
HONDA CIVIC TYPE R
全長×全幅×全高:4560㎜×1875㎜×1435㎜
ホイールベース:2700㎜
トレッド:F1600㎜/R1595㎜
車両重量:1390㎏
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1995㏄
最高出力(kW[㎰]/rpm):235[320]/6500
最大トルク(Nm[㎏m]/rpm ):400[40.8]/2500-4500
燃料タンク容量(ℓ):46
トランスミッション形式:6速MT
駆動方式:FWD
サスペンション:Fストラット/Rマルチリンク
ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク/Rディスク
最小回転半径(m) 5.9
JC08モード燃費(㎞/ℓ) 12.8
タイヤサイズ 245/30R20