世界各国の主要な二輪メーカーで唯一、フロント1輪+リア2輪のトライクを正規にラインナップするハーレーダビッドソン。かつて日本では1930~50年代に同じホイールレイアウトの貨物自動車、いわゆるオート三輪が隆盛を極めたが、今ではそれを知る人の方が圧倒的に少ない。今回、ハーレーのCVOトライグライドに触れ、あらためてトライクに関係する法律と、メリット&デメリットについて考察してみた。
REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
道交法では〝自動車〟に分類される
運転免許を所持する全ての人が一度は覚えたはずなのに、牛馬や荷車と同様に現代の一般公道で見る機会が全くと言っていいほどないことから、記憶の彼方にある人がほとんどであろう三輪自動車。日本でオート三輪が最盛期を迎えたのは1950年代で、1965年まで三輪車の運転免許が存在したほどだから、70年以上も前には大きな需要があったのだ。
それではCVOトライグライドを例に、トライクに関係する法律についておさらいしてみよう。まず、道路交通法では「自動車」に分類されるため、普通自動車以上の運転免許を取得していれば一般公道で運転することが可能だ。このCVOトライグライドや、ベースとなったトライグライドウルトラが「普通免許で乗れるハーレー」などと紹介されるのは、この道交法に由来するものだ。裏を返せば、二輪免許のみでは運転できないということでもある。
続いて道路運送車両法について。ここではサイドカーと同じ「側車付きオートバイ」に分類されるので、購入時に車庫証明は必要なく、任意保険もバイクと同じ扱いになる。
高速道路での法定最高速度は80km/hだ
フロント1輪+リア2輪のトライクは、斜め前方への荷重移動に弱い。CVOトライグライドもその例に漏れず、急激にハンドルを切ったり、コーナリング中にフロントブレーキを強く握ると、相当な遠心力によってイン側のリアタイヤが浮きそうな気配がある。事実、昔のオート三輪はこれによってアウト側に転倒することが多発したらしく、私の両親やその友人の話によると、幼少のころは交差点で転がっているダイハツのミゼットなどを起こす手伝いをよくしたという。
路面のギャップによって上下以外にロール方向にも体が揺さぶられる、ハンドルを操作するのにある程度の腕力が必要など、2輪や4輪とは違った独特のドライビングスキルが求められるトライク。一方で最大のメリットだと感じたのはタンデム時の絶大な安定感であり、パッセンジャーがふらついたり立ち上がってもそれすら気付かないほどだ。また、バイクに不慣れな人がリアシートにまたがると、車体の傾きに対して無意識に上半身を直立させようとしがちなので、ライダーは曲がりにくさを感じるはず。トライクならそもそも車体は傾かないので、パッセンジャーを慌てさせることがないのだ。
タンデム性能は高い、低い?
タンデムツーリングがメインなら選択する価値大だ
このCVOトライグライドは¥6,380,000~、ベースとなったトライグライドウルトラでも¥4,717,900~という非常に高額なタグを付けている。そもそもトライクは2輪車を改造して生み出すカテゴリーであり、本場アメリカではキットパーツメーカーも存在する。それらを購入して組み込み、公認車検を取得するまでの手間と費用を考えると、前述の車両価格はむしろ納得の範疇なのだ。付け加えると、ハーレーはメーカーの責任の下に車両を開発しており、RDRS(REFLEXディフェンシブライダーシステム)と呼ばれる総合的な電子制御システムまで組み込んでいることから、圧倒的に安心できるのだ。
車庫証明が不要とはいえ一般的な駐輪スペースには置けないなど、誰にでも勧められるモデルではない。だが、タンデムでの安心感はプラス1輪以上の効果があり、そこに価値を見出せる人にぜひ試してみてほしい。