日本でしか販売されないガラパゴス的カテゴリーと揶揄されることもある軽自動車。だが年間190万台の市場規模は活発な競争を生み出している。二代目となったスズキ・ハスラーもこれまでの常識を超えた変更を実施。主力となる自然吸気エンジンを早くも世代交代させた。
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激戦の軽自動車市場で勝つためにカテゴリー破りの技術を投入
人気上位4車は月販1万台以上を軽くクリアするなど、登録車以上に激しい販売競争が繰り広げられている軽自動車マーケット。昨年12月24日に発表されたスズキ新型ハスラーは、ワゴンRと並んで同社のミドルハイト系の両翼を担う基幹モデルであり、今回のフルモデルチェンジでも注目すべき新メカニズムが投入された。自然吸気エンジンは新型となるR06D型で、実燃費の良さとストレスのない軽快な走りを目標に開発。なんとボア×ストロークはターボエンジンとは異なるロングストロークに変更されている。規格により660ccまでとなる軽自動車のエンジンは自然吸気/ターボで同じボア×ストロークにするのが一般的だが、熱効率のさらなる向上を目的として64.0mm×68.2mmから61.5mm×73.8mmに変更。生産ラインを考えてシリンダーブロック、ボアピッチ、バルブアングルなどは変えていない。
R06系エンジンは2011年の登場で、このときにボアストロークを前述の64.0mm×68.2mmに変更。それほど古いエンジンではないのに、約9年で機械寸法を変更するのはきめて異例。これは軽自動車市場において、自然吸気エンジンの性能競争が売上に与える影響が大きいことが理由だ。ハスラーのようなアクティブなイメージのモデルでも先代でターボの比率は2割を切っており、自然吸気エンジン性能向上は重要と位置づけ新開発を決断したという。
R06D型エンジンはスズキ軽自動車初のデュアルインジェクションも採用。圧縮比は先代の11.5から12.0まで高められた。ボア径が小さくなるということは吸気バルブ面積も小さくなり、最高出力・最大トルクの面では不利。R06D型エンジンは先代から最高出力で2kW、最大トルクで2Nmダウンしているが、低中速域の出力は先代同等をマークして日常域での走りの力強さはキープしつつ燃費を向上。実走行と近いWLTCモードで約8%の向上を実現している。
ボディ面での進歩も著しい。新世代プラットフォームHEARTECTをハスラーとして初採用しただけでなく、バックドア、センターピラー、サイドドアでそれぞれ環状構造を形成することでボディ全体の剛性を向上。それに加えてボディ部品のわずかな隙間を構造用接着剤で埋めるという、登録車でも数少ない生産方法を新採用。この工法は、同社では登録車も含めて初となる。
こうした数々の新技術を、コストや車両サイズなど多くの制約の下で量産化しているのが現代の最新軽自動車だ。激しい競争が生み出す各車の進化から、まだしばらくは目が離せない。