
新型A4実用上の最大のトピックは、インパネやインフォテイメントシステムといったドライバーとクルマを繋ぐインターフェイスの先進性だ。これはアウディが考える人とクルマの関係が凝縮されていると言ってもいいだろう。2016年春にお届けしたVol.54「アウディA4のすべて」の本企画ではセダンを紹介したので、今回はステーションワゴンの「アバント」を中心に使い勝手をチェックしていこう。
TEXT●工藤貴宏(KUDO Takahiro)
PHOTO●中野幸次(NAKANO Koji)
MODEL●芝 彰子(SHIBA Akiko)
※本稿は2016年11月発売の「アウディA4/S4のすべて」に掲載されたものを転載したものです。車両の仕様が現在とは異なっている場合がありますのでご了承ください。

取材車のプロフィール A4 アバント2.0TFSI
ボディカラー:タンゴレッドメタリック
インテリアカラー:アトラスベージュ
オプション:レザーパッケージ(ミラノレザー/デコラティブパネル オーク ナチュラルグレー/エクステリアミラー 電動調整&格納機能 自動防眩機能/シート電動調整機能〈フロント〉/シートメモリー機能〈ドライバーサイド〉/シートヒーター〈フロント〉)、Bang& Olufsen3Dアドバンスサウンドシステム、マトリクスLEDヘッドライトパッケージ(マトリクスLEDヘッドライト/ LEDリヤコンビネーションライト/ LEDインテリアライティング/ヘッドライトウオッシャー/バーチャルコックピット
荷室の広さがステーションワゴンの最大のトピックだが、ドイツらしい合理主義に基づいて作られたA4はそれだけで終わらない。荷室とキャビンスペースを隔てて荷崩れを防ぐネットやテールゲートの開閉に合わせて跳ね上がるトノカバーなど、実用性を高める装備や工夫が盛り込まれてワゴンとしての価値を高めているのだ。
4G回線を使う通信用の車載端末が標準で組み込まれているA4。それをホットスポットとして使い、スマホやタブレットをはじめとする手持ちの通信機器を車内でWi-Fi接続可能だ。また、インフォテイメントシステムを経由したオペレーターサービスにより、24時間365日、通話によるやりとりで選任のオペレーターが各種施設の検索やレストラン・ホテルなどの予約もしてくれる。〈運転席まわり〉開放的であると同時に視認性と操作性に優れた設計
水平基調で開放感を演出するデザイン。運転するとすぐに理解できるのは、運転中の扱いやすさを重視したレイアウトになっていること。センターコンソールはシフトレバーの前方にオーディオやナビ系のスイッチが集中配置されているが、これは手の届きやすい位置かつ手元を注視することなく操作できるよう配慮した結果だ。
プレミアムセグメントにおいて昨今のトレンドとなっているオンダッシュ型のディスプレイは、ドライバーが最小限の視線移動で表示を確認できることと、ダッシュボード上面を低くして開放感を高められるのがメリットだ。インパネのセンター部分、つまり空調操作パネルやその下にある機能系スイッチなどは乗員から距離があって空間の広さを演出する反面、手が届きにくいのも事実。しかしこれは「それほど頻繁に動かすことはない」という判断だろう。
センターコンソールは後方から電動パーキングブレーキ&ブレーキぺダルから足を離しても停止状態を保持するオートホールド機能(実に便利)のオン/オフスイッチ、シフトレバー、その左のオーディオスイッチ、統合コントローラー、そして最前部にスターターボタ ンとなる。手が届きやすく扱いやすいようにレイアウトが考え抜かれていることが、触れるとすぐに伝わってくる。数字が刻まれたボタンは好みに応じて登録が可能だ。
「P」へはボタンで入れる電子式のシフトレバー。ストロークは短い。上面がフラットな形状なのは、上部をパームレストとして使いながら前方のMMIコントローラーを操作できるように考えられているから。
全面を液晶とした「アウディバーチャールコックピット」は新世代アウディの先進性を強調するアイテム(ただしオプション)。「クラシックビュー」では左側にタコメーター、右側にスピードメーター、そして中央部がマルチディスプレイとなる。 左側のステアリングスイッチは画面内マルチディスプレイ部分の表示切り替えと画面に関連した操作を行なう。「VIEW」はメーター表示を切り替えるスイッチだ。ステアリング奥にはパドルシフトも装備。 | スイッチの数が多いのは、ステアリングから手を離さずに指先でコントロールできる項目が多いからだ。右側はオーディオ&ナビ関係のスイッチ。「*」のようなアイコンのボタンには好みの機能を設定できる。 |
クルーズコントロールは、レバーをONの位置にして先端のスイッチを押すだけで作動を開始する。 | ウインカーレバーの先端には「レーンキープ」の作動スイッチが組み込まれている。 |
アクセルペダルは吊り下げ式。ペダルレイアウトに関しては右ハンドルでもまったく違和感がない。
ライトスイッチはロータリー式。左上にある雲&雨マークのスイッチを押すと濡れた路面でライトの反射による 眩しさを抑えるモードになる。
ドライブセレクト(2.0ℓモデル以上に採用)やアイドリングストップシステムの停止など、機能系のスイッチがエアコン操作パネルの下に並ぶ。
大画面の液晶だから表示の自由度が高く、ドライバーの好みに応じてふたつのメーターを大きくデザインした「クラシックビュー」と右写真の「インフォテイメントビュー」を切り替えられる。加えて表示メニューを任意に選んで好みのメーターを作り上げられるのが特徴だ。先進性や美しさだけでなく機能性も兼ね備えている。

状況に合わせてメーター内の表示も変化。クルーズコントロールや渋滞アシスト作動時は、速度計の下側にアイコンが表示される。
「インフォテイメントビュー」で走行機能表示メニューを選ぶと、膨大な情報が確認できる。さらにナビの簡易表示も追加が可能だ。「インフォテイメントビュー」で走行機能表示メニューを選ぶと、膨大な情報が確認できる。さらにナビの簡易表示も追加が可能だ。
こちらは「クラシックビュー」。センター部分は走行情報、オーディオ、地図(写真)など任意に切り替えられる。落ち着いた雰囲気だ。
S4ではタコメーターを中心にしたスポーティな専用表示も用意。ラップタイムを計れるストップウォッチ機能も採用。A4のコクピットは操作系の随所に新しい仕掛けが組み込まれている。しかもそれは単に新しさをアピールするだけでなく、確実に操作性を向上させるのだから感心するばかりだ。ポイントは「指先の使い方」にある。
上下に動かすタイプの空調スイッチが確実な操作性を生む。スイッチ自体がセンサーになっていて、触れると液晶表示も変化する。
MMIコントローラーの円盤上部はタッチパッドで手書き入力が可能。日本語に対応しているのが素晴らしい。そしてヒット率の高さは驚異的だ。〈マルチディスプレイ・ナビ&空調〉インターネットにも接続するインフォテイメントシステム
8.3インチのディスプレイとMMIコントローラーを組み合わせたインフォテイメントシステムを全車に採用。ナビはもちろんのこと車両とも深く連携して、車両設定などのインターフェイスとしても機能する。もちろん日本語にもフル対応している。
空調は1.4ℓモデルに左右独立オート式、2.0ℓモデル以上は後席も独立した温度設定ができる3ゾーン式を標準装備する。温度調整がダイヤル式なので操作性にも優れる。
上部にタッチパッドを組み込んだダイヤルと最小限のスイッチを組み合わせた「MMIコントローラー」。最小限の指先の動きで多機能のインフォテイメントシステムを簡単に操作できる。直感的でシンプルなのが美点。
地図を表示し音楽を奏でるだけにあらず、車両設定からインターネット経由での情報収集まで幅広く機能する。
ナビゲーションの目的地設定はGoogle検索と連動し、インターネット上から該当する施設をピックアップすることができる。
手書き入力と予測検索を組み合わせたことで、検索の手間が掛からないのは大きな魅力。漢字も手書きで入力できる。
関連するグラフィックが表示されることでイメージが理解しやすい車両設定。細かい部分まで任意に設定可能だ。
通信端末は車両に標準搭載。インターネット経由でニュースや天気予報など最新情報をチェックできる。
フライトスケジュールも表示できる。実際に役に立つかというよりも、アウディらしい雰囲気の演出という意味合いが強い!?
車両走行特性を切り替える「Audiドライブセレクト」を操作した際も選択画面が表示。「エフィシェンシ」は燃費重視モード。
バックガイドモニターはステアリング操作に連動して左右に振れる進路予想線も表示。右側のセンサー表示は、予測軌跡で障害物を避けて通れるか判断できる。
センターコンソールボックス内にUSB端子とオーディオへの外部入力端子が組み込まれる。今やスマホの車内充電は当たり前だから、USBの2個装備は便利だ。
センターコンソールの後方にエアコン吹き出し口があり、風量調節ダイヤルも備わる。3ゾーンエアコン装着車はここで後席空間の温度を設定可能。
注目はAピラー上部とダッシュボードに追加した4つのラウドスピーカーによる3Dサウンド。クリアで広がりを持った立体感は、ライブやアンプラグド音源との相性が抜群だ。
〈読書灯はタッチ式〉ランプのレンズに触れるだけで点灯/消灯するから、スイッチを探す必要がなく瞬時に点けたり消したりできる。
〈バニティミラー〉運転席/助手席ともにスライドリッド付きのミラーをサンバイザーに内蔵。リッドを開けると天井の照明が点灯する。
〈フレームレスルームミラー〉鏡のフチが薄いルームミラーを装備。鏡の端はキレイに削ってある。先進性と特別感を与える演出だ。
〈マトリクスLEDヘッドライト〉照射範囲を細かく可変し、対向車や前走車への眩惑を防ぐ。ハイビームとロービームの切り替えが不要となる(オプション)。
〈アドバンストキー〉身に付けているだけでドアロック/アンロックやエンジン始動ができる非接触式キー。テールゲートオープナーのボタンも備わる。〈居住性&乗降性〉低くてスポーティな運転スタイルがA4らしさ
先代よりもサイズアップし、その恩恵のひとつが拡大したキャビンスペースとなる新型A4。ステーションワゴンの「アバント」がセダンと異なるのは、後席頭上空間のゆとりが増していることだ。
A4のフロントシートは数タイプの形状が用意されるが、撮影車両はサイドサポートがコンパ クトで身体を包む感覚は控えめな標準シートだ。ヘッドレストは高さだけでなく前後位置も調整でき、後突時に頸椎へのダメージを軽減するほか、より頭部にフィットさせることで長時間座っても疲れにくい。 | Dセグメントのプレミアムワゴン(&サルーン)らしく、低く構えるスポ ーティな運転ポジション。お好みであれば、驚くほど低い位置まで座面を降ろすことができる。座り心地にドイツ車らしさを感じるのは、クッションが硬めで沈み込み感が少なく、表面に“張り”があるからだろう。 |
後席は3人座れるが、形状はふたり掛けを前提としている。中央席は背もたれが硬く、フロアトンネルが大きくて足元が狭いので長時間乗車はオススメしない。とはいえ中央席のシー トベルトも国産車にありがちな天井巻き取り式ではなく、背もたれ内蔵型。装着しやすいし、後方視界を邪魔しない。 | ゆとりあるボディサイズの恩恵を受けた後席。先代に比べるとレッグスペースが実質23㎜拡大されている。セダンに対するアバントのメリットは、頭上空間がゆったりしていること。座面は後ろ下がりの傾斜が強めについているが、気になるほどではない。この乗車姿勢がお尻を安定させて、姿勢が乱れにくい(お尻が前に滑り出ない)のだ。 |
低い着座位置なので、乗り降りの際の姿勢変化は大きめ。乗り込む際にはお尻を沈める感覚を強く受ける。後席は前席に比べると着座位置が高いので、乗降姿勢はやや楽になる。アバントはルーフが水平なのでセダンに比べて頭の出し入れはスムーズだ。
仕様により備わるシートポジションメモリー機能は、ドアにスイッチが組み込まれる。 | 電動調整機能のスイッチは座面脇に設置。運転席の電動調整は1.4TFSI以外はすべて備わる。 |
シートヒーターは空調操作パネルにスイッチがあり、3段階に温度を切り替えられる。 | センターアームレストはフラットな形状。 |
ISO-FIX準拠のチャイルドシート取り付け金具は、カバーを外すことでバーが露出する。装着しやすい設計に好感が持てる。 セダンのリヤシートはアバントに比べると頭上クリアランスに制約があり、居住性はアバントのほうが上だ。写真は「Sスポーツシート」を選んで表皮がアップグレードされた「S4」の後席。形状はどのモデルも同じだ。 | 「sport」「S lineパッケージ」そして高性能モデルの「S4」にはサーキット走行でも十分なホールド性が自慢の「スポ ーツシート」を標準装備。「S4」ではオプションとして、写真の「Sスポーツシート」も用意している。こちらはキルティングの入った表皮でデザイン性の高さが特徴。 |
〈室内の収納スペース〉前席にも後席にも大容量収納スペースを備える
前後に4名分用意するドリンクホルダーなど、快適な移動をサポートする収納を多く用意。センターコンソールボックスやインパネ右端のポケットなど、クラス水準を超えた大きな収納があるのも便利だ。

サンバイザーのチケットホルダーはクリップ式。サッとカードを挟める。

グローブボックス内はインフォテイメントシステムのユニットやETCが上部に組み込まれるが、容量は十分。内部にエアコン吹き出し口があるから飲み物を冷やすこともできる。リッドはキーによる施錠が可能で、裏側は植毛処理が施されている。
インパネ右端のポケットは、4.8インチ画面の大きなスマホを入れてもゆったりの大容量。底面はA5のノートとほぼ同じサイズ。
シフトレバー脇にも小さなポケットを組み込んでいる。ここはキーを置くのにジャストサイズだ。
センターコンソール前部には、ドリンクホルダーを横に並べて配置。アジャスター付きで細い形状の飲み物もしっかりとホールドしてくれる。その奥にはガムやタブレットを置くのにちょうどいいトレーを用意。
センターコンソールボックスはリッドをアームレストとする形状。深さはないがボックスティッシュがピッタリ収まる大きさなのはなんとも便利だ。
後席センターアームレストはドリンクホルダーとトレーが組み込まれている。トレーは車内での軽食時にテーブルとして使うのにも便利だ。
両側のBピラーにはシャツやジャケットを掛けられるフックを備えている。
シートバックポケットはネットタイプ。ネットが便利なのは、冊子だけでなくコンパクトデジカメなど立体的なものも入れられること。 フロントドアポケットのペットボトルホルダーは1ℓペ ットボトルも収まるサイズ。大きめの小物入れも併設。 | フロント同様にリヤドアポケットもペットボトル+小物入れ。こちらも1ℓボトルが入るサイズだ。 |
〈ラゲッジルーム〉アバントの荷室容量は5人乗り時で505ℓを誇る
セダンではなく「アバント」と呼ぶステーションワゴンを選ぶ理由は、多くのユーザーにとって荷室スペースの広さだろう。もちろん新型も期待を裏切ることはない。フル乗車で従来比15ℓ増の505ℓ、最大で1510ℓ(80ℓ増)という広い空間を用意し、高い実用性を誇るのだ。下の写真のように中型スーツケースを立てて、4つ並べて積載できる。

走行中の荷崩れを防ぐ荷室とキャビンを仕切るネットも標準装備。こういった配慮はワゴンを使い倒すヘビーユーザーにとってうれしいポイントだ。もちろん写真のように後席を倒した際でも、後席を起こした状態でも使える。
構造の違いにより荷室長はセダンに比べて30㎜ほど短い(後席使用時の床面で1040㎜)が、高さを有効的に使えるので積載性ではセダンとは比較にならないアバントの荷室。床からトノカバーまでの高さは430~460㎜。左右壁の間隔は1000㎜だ。
後席格納は左右と中央の3分割。身長167㎝の筆者にドライビングポジションを合わせた状態での奥行きは1900㎜だ。シート格納は背もたれを倒すだけのシングルフォールドで、荷室壁面のレバーで操作可能。シート格納時の床面に段差は生じないが、倒した部分は水平ではなく前上がりに傾斜している。
トノカバーも技あり。テールゲートが開くのに連動して斜めに跳ね上がって、荷物の出し入れを邪魔しないのだ。これは便利。 荷室壁面にはフック、ベルト、そしてネットと実用性をサポートする仕掛けを組み込む。 | 右側はネット収納部の左右幅(マチ)が広く、ボックスティッシュも置ける大型収納となる。 |
テールゲートの裏側に三角表示板を組み込むのはナイスアイデア。たとえ荷室に荷物が満載でも、瞬時に取り出すことができるのだ。
テールゲートに組み込まれる「閉じ」のスイッチはボタンがふたつ。右側を押すと、テールゲートが閉まると同時にドアロックされる。
後席背もたれの中央部分だけを貫通させて長尺物を積むこともできる。
電動テールゲートは全車に標準装備。両手が塞がっている時にも便利な、足をバンバー下に出し入れして(キックするイメージ)開閉する仕掛けも組み込まれている。開口部下端の高さは地上635㎜。
天地高ではワゴンにかなわないが、セダンでも荷室は広く床面積はワゴンよりも広いほど。後席使用時の奥行きは実測で1070㎜あり、これはメルセデス・ベンツCクラスやBMW3シリーズよりも大きい。また背もたれは3分割で折り畳める。リッドを支えるアームは左右のトリム内に収納されるので、閉じる際にも邪魔になることはない。