日本市場で初めて販売されるディーゼル+プラグインハイブリッド、メルセデス・ベンツE350deが10月末に導入され、このほど試乗する機会を得た。まだWLTCモード燃費は公表されておらず、今回のテストドライブで実燃費を計測することもできなかったが、環境性能を越えるドライビングプレジャーがそこにはあった。
REPORT●小泉建治(KOIZUMI Kenji)
PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)
シームレスかつ力強い加速性能が魅力
ディーゼルとプラグインハイブリッドの組み合わせと聞けば、やはりどうしたって燃費が気になるというものだ。だがE350deはまだ日本導入が発表されたばかりで、WLTCモード燃費はまだ公表されていない。
そして今回のテストドライブも時間が限られていたため、燃費は計測できていない。
だがそんな環境性能を抜きにしても、E350deには積極的に選びたくなる理由があった。それはともに低回転域を得意とするディーゼルと電気モーターの組み合わせがもたらす、圧倒的なトルクと加速性能だ。
本稿では、E350deのシームレスかつ力強い加速性能にフォーカスして報告したい。
E350deが搭載するのは直列4気筒ディーゼルターボで、194psの最高出力と、400Nmという強大なトルクを1600rpmという低回転域で発生する。これに9速ATを組み合わせるのだから、それだけでも強烈かつシームレスな加速が期待できるというもの。
さらにそこへ最高出力122psと最大トルク440Nm(!)を発生する電気モーターをアドオンし、システム最高出力306ps、システム最大トルク700Nm(!!!!)を発生する。
ちなみにE350deの「de」は、なんとなく「diesel」を略したものかと思っていたが、「d」は従来通り「diesel」で、「e」は「electric」を意味しており、メルセデス・ベンツではプラグインハイブリッドに付けられる。だからE220dはディーゼル、E350eはガソリン・プラグインハイブリッド、そしてE350deはディーゼル・プラグインハイブリッドということになる。
まずはエンジンだけの加速を試すために、チャージモードにセットする。バッテリーへの充電を優先するモードで、基本的にはエンジンだけで走行する。
予想していた通りエンジンだけでも十分以上の加速力で、アクセルをそっと踏んでいるだけでも9速ATはポンポンとシフトアップを繰り返し、気がつけばビックリするような速度に達してしまう。
次にEVモードに切り替える。エンジンが掛かっている状態でもディーゼルとは思えぬ静粛性だと感心していたが、言うまでもなくEVモードの静けさは別格だ。そしてアクセルを踏み込んだ瞬間に440Nmもの大トルクが立ち上がる。
もはや、どちらかがどちらかをアシストするのではなく、超強力なパワーユニットがふたつあると思った方がいい。
発進加速と静粛性に優れる電気モーターでできるだけ長い距離を走り、バッテリー残量が減ってきたら、その電気モーターに限りなく近いトルク特性を持つディーゼルエンジンが代わりを務める。そんなロジックだ。
ちなみに電気モーターのみでの航続距離は最大で50km(WLTPでの欧州参考値)とされている。
それはデフォルトであるハイブリッドモードで走るとわかりやすい。電気モーターで走れるときはエンジンが介入せず、エンジンが掛かっているときは電気モーターがアシストすることはほとんどなく、回生やエンジンからのチャージに徹している。
環境性能を隠れ蓑にしたハイパフォーマンスセダン
そして圧巻はアクセルを床まで踏んづけたときだ。EVモード選択時であればアクセルペダルに一瞬の抵抗を感じるはずで(これ以上アクセルを踏むとエンジンも始動しなければならなくなることを知らせる「プレッシャポイント」という機能)、そこからキックダウンスイッチのように踏み込めばいい。
するとエネルギーフローを表示しているモニターに「ブースト」の文字が出現し、エンジンと電気モーターが総動員され700Nmの極太トルクが解き放たれる。
その刹那、SF映画でワープに入る瞬間のように前方の景色がグワーッと迫り、身体がシートにめり込む。700Nm前後、もしくはそれを上回る最大トルクを誇るモデルにも乗ったことはあるが、ディーゼルエンジンと電気モーターがもたらす700Nmは、ガソリンエンジンのそれとはまた異なる。エンジン回転の上昇を待つ必要など一切なく、アクセルペダルの角度のみがパワー&トルクと速度を決めているかのようだ。
普段、北米専用のV型8気筒5.6Lを積んだオバケグルマをアシにしているカメラマンも「すげぇなこりゃ」と呆れている。
E350deは、環境性能を隠れ蓑にしたハイパフォーマンスセダンだ。それも超弩級の。メルセデスにはAMGの名を冠した超弩級セダンが数々あるが、E350deはAMGではないだけに、むしろ凄みがある。
そう考えると、これはW124における500Eのようなものだ。アッファルターバッハが手掛けたAMG E60ではなく、ポルシェが開発した500Eのほうだ。
E350deは現代に甦った500E───試乗を終え、記者はそう考えることにしたのである。
メルセデス・ベンツE350de アバンギャルド スポーツ
全長×全幅×全高:4923×1852×1475mm
ホイールベース:2939mm
車両重量:───kg
エンジン形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
排気量:1950cc
ボア×ストローク:82.0×92.3mm
圧縮比:15.5
最高出力:143kw〈194ps〉/3800rpm
最大トルク:400Nm/1600-2800rpm
モーター最高出力:90kW(122ps)
モーター最大トルク:440Nm
燃料タンク容量:60L
トランスミッション:9速AT
駆動方式:FR
乗車定員:5名
タイヤサイズ:Ⓕ245/45R18 Ⓡ275/40R18
WLTCモード燃費:───
市街地モード燃費:───
郊外モード燃費:───
高速道路モード燃費:───
車両価格:875万円