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所詮シングル、と侮るなかれ! ハスクバーナVITPILENはいい意味でヘンテコな良作だ。


ハスクバーナがKTMと一体となり、最初に登場した「ビットピレン」。独創的なルックスと独特なポジションで「これはなんだ?」となった人も多いはずだ。このスタンダードモデルを改めて試乗する。




TEXT●ノア セレン


PHOTO●山田俊輔

ハスクバーナVITPILEN……1,380,100円



ハスクバーナといえば「モタード」?

 人によってイメージは様々だろうが、ハスクバーナといえばオフロードイメージが強いメーカーという感覚でいる人は少なくないんじゃないかと思う。モタードという競技が市民権を得た頃も、ハスクバーナはオフロード車をベースとするこの競技で活躍、その後スタンダードなロードモデルを展開した、というハナシはなかった。




 似たようなメーカーがKTM。基本的にはオフロードが得意。近年になってロードモデルにも力を入れている……これらメーカーがタッグを組むのは不思議ではない。KTMにとって、モタードベースではない、初の「普通の」ロードモデル、690DUKEをベースに、ハスクバーナもロードモデルを展開するのは、ある意味自然なことかもしれない。ハスクバーナはKTMとの協力のもと、ハードな競技志向のメーカーから(少なくともロードの分野においては)おしゃれなロードスターを展開するメーカーへと転身したのである。

おしゃれロードスター第一号 ビットピレン

 本来はVで始まるヴィットピレンだが、ここではビットピレンと書いておこう。このモデルは基本的に今では絶版になってしまったKTMの690DUKEをベースにした派生モデルと考えて間違いはない。フレームやエンジン、足周りも基本的には共通で、エンジンも吸排気系の変更により数値上のわずかな違いのみ。逆にスタイリングは大きく変わり、あわせてポジションも違うものになっている。特に特徴的なのはシートの高さだ。DUKEはわりと低めのシートだったのに対して、ビットピレンはかなり高いシートを持つのにステップは逆に低く、そのおかげで膝の曲りはとても緩やか。そのぶん楽かと思いきや、シートはとても硬くて快適とは言えず、また下半身はこんなに余裕なのに上半身はセパハンでそれなりに前傾しているという……何ともヘンテコなポジションを持っているのだ。




 しかし、DUKEシリーズを見てみると、125、250、390共にみなDUKEの他にフルカウルでセパハンのRCシリーズが用意されているのに対して、690はセパハンバージョンが無いのである。アップハンからセパハンに変わるとライダー重心位置が変わるためハンドリングが変わることも珍しくない。ビットピレンはその独特なスタイリッシュさだけでなく、走りの面でも690のバリエーションモデルと捉えてよさそうである。

パンチを満喫

 走り出すと独特のポジションに面くらいつつ走り出すと、3000rpm以下では多少ガクガクするもののそれを越えたら軽やかに回っていくエンジン、とてもスムーズでクラッチを切らずともシフトしていけるミッション、コントローラブルでよく効くブレーキ、軽量でなんとでもなる車体など、690の魅力を色濃く受け継いでおりストリートでも楽しみやすいパッケージだと実感する。




 そしてセパハンだが、これが見た目ほどキツくないことが分かった。シートが高いこともありけっこうキツめのポジションを覚悟していたが、KTMのRCシリーズがそうであるように特別苦しいような場面は現れない。そしてアクセルを大きく開けるようなときはしっかりとフロントに覆いかぶさることができるためこれが楽しい。700ccとはいえ所詮シングル、なんて思っていると痛い目を見るパンチがあるため、不用意なワイドオープンは気を付けたいところだが、セパハンにしがみついていればそれも楽しく、DUKEよりも積極的にアクセルを開けていることに気づいた。このエンジンの魅力的な部分に、より頻繁にアクセスしたくなるような、そんなポジションなのだが、ステップの低さだけが最後までしっくりこず、バックステップを投入したくなってしまった。アップハンのスヴァルトピレンの方では慣れることができたのだが、同じステップのままセパハンというのはやはり少し難しいように感じた。

誰もが振り返る

 これほどまでに大排気量&ショートストロークのシングルであることや、軽量な車体など機能面では文句なしに楽しめるバイクではあるが、それとは別にビットピレンの大切な魅力はやはりスタイリングだろう。特にスクランブラーなどが流行ったことで現在のバイク業界ではクラシカルさとモダンさを合わせたようなデザインが潮流のようだが、ハスクバーナはその中でも独創的なスタイルを見出しており、他に似たものがない。様々なデザインが出尽くして、何をやっても過去の模倣となりそうな現代においてそれを成し遂げたのは凄いことだろう。




 事実、ストリートを走っていても注目度は高い。見たこともないスタイリングと多くの人は聞いたことのないメーカー。そもそも大きくハスクバーナと書いてあるところもない。実にスマートでしゃれたバイクである。その分、価格も決して安くはないが、走りの魅力とスタイリングの魅力にハマってしまえば、これ以上のバイクはないだろう。様々なメーカーが様々なバイクを出している中で、ひときわ輝く個性を持っているのだ。

ディテール解説

ショートストロークのビッグシングルは690DUKEがなくなった今ハスクバーナだけの魅力。ドッスンドッスンと粘り強く回るタイプのエンジンではなく、モトクロッサーのようにギャンッ!とフケるエキサイティングなユニットだ。

テールカウルと同じ角度でスパッと跳ね上がるマフラーはスタイリッシュな専用品で消音効果も高い。701シリーズはエアクリボックスの形状と排気系の変更により690DUKEと数値上はわずかに違う。

WPの倒立フォークや17インチのキャストホイールなど足周りは690DUKEから引き継いだもの。

シングルディスクにブレンボキャリパーの組み合わせはシリーズ共通。ただビットピレンは17インチという外径のおかげで18インチのフロントを持つ兄弟車に比べてなおブレーキが効く印象だ。もっともそれはセパハンによるライダーの姿勢によるものかもしれないが。

ナンバーとウインカーをスイングアームに接続されたマッドガードに配置することでテール周りはすっきりとした印象に。このスタイルは近年のトレンドにも思える。スイングアームやホイールは690と同様、17インチ仕様だ。

プリロード調整機能と伸び側のダンピング調整機能を備えるリアサスはWP製のもの。スイングアームやフレームなど主要パーツは皆690DUKEと共通だ。

WPのフォーク上部には減衰調整機能。左が圧側、右が伸び側を担当しており、工具なしで調整できるようになっている。

スヴァルトピレンではカバーで囲われているヘッドライトとその裏側だが、ビットピレンでは無骨に見せているデザイン。クラシカルさも感じる丸形状ながら、LED発光はモダンさも併せ持つ。

非常にスリムなテール周りは航空機をイメージさせるようなデザイン。スヴァルトピレンと違いシート後端は跳ね上がっておらず、シャープでスマートなイメージ。テールカウル裏側には大きく701と数字がデザインされていてどこまでもオシャレである。

硬めのシートはシリーズ共通。どこかオフ車テイストも感じさせるシートの形状や高さも、小柄のライダーにとっては慣れが必要な部分だろう。ちなみに座り心地はかなり硬いものだ。

本文中にも書いたが、セパハン仕様のビットピレンでは特にステップ位置の低さ、及び前方さが気になってもう一つしっくりこなかった。もっとアップ&バックとなるステップに交換すれば車体との一体感が向上しそうだ。ちなみにアップ&ダウン双方で使えるクイックシフターを備えている。

かなりワイドな印象のセパハンだが、走っていると特別不自然さはなく、しっかりつかまってアクセルをグイグイ開けたくなる設定だ。ポジションの変更に合わせてメーターの角度も変えられていて、ステップ位置を除けばむしろフィット感は高い。またタンクキャップのデザインも立体的な専用品になっていて、細部まで気を使っているのが伺える。



左右のスイッチボックスはヤマハ車を連想させるデザインで、何も不自然な所がなくとても使いやすい。スロットル側はワイヤーのない電子スロットルだ。

必要十分の情報を表示してくれる上、トラコンの設定などもできる優秀なメーターではあるが、各表示が少し小さいのと、バイク全体のクオリティを見るとちょっと寂しいほどシンプルなメーター。もう少し色気が欲しい所だ。

主要諸元

エンジン形式:水冷4ストロークSOHC 4バルブ単気筒


排気量:692.7cc


ボア×ストローク:105×80mm


最高出力:55kW(74hp)/8500rpm


最大トルク:72Nm/6750rpm


圧縮比:12.8:1


クラッチ:APTCスリッパークラッチ


ミッション:6速(イージーシフト)


タイヤ(F・R):120/70R17・160/60ZR17


タンク容量:約12.0L


車両重量:約157kg(半乾燥)


製造国:オーストリア
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