新型カタナ登場から早半年。一時の熱狂が一段落した今、あらためて試乗してみて分かった魅力とは。初代1100カタナや新型のベースになったGSX-S1000との比較を交えつつ、率直に感じたことを綴ってみた。
REPORT●ケニー佐川(SAGAWA Kentaro)
PHOTO●星野耕作(HOSHINO Kousaku)/山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
まずは新型カタナのおさらいから。EICMA2017ミラノショーに出展された「KATANA 3.0 CONCEPT」の大反響を受け、これにインスパイアされる形でスズキ自らが全力投入で作り上げたのが21世紀の新型「KATANA(刀)」である。
デザインは1980年に登場した初代GSX1100Sカタナをモチーフにしつつ現代的な解釈が与えられたもので、日本刀の切先をイメージしたウイング先端や鍛えられた鋼のような美しさを持つボディライン、ツートンシートなどにも初代の面影を投影しつつ、灯火類はフルLED化されメーターもフル液晶とするなど現代的に洗練されている。
新型カタナのベースになっているのはスズキの現行スポーツネイキッド「GSX-S1000」である。
エンジンには2005~2008年型GSX-R1000(通称K5)系の水冷並列4気筒DOHC4バルブ排気量998ccが採用されているが、これは同シリーズの中でもロングストローク設定でトルクフルな出力特性を見込んでのこと。ストリート向きに最適化されているが最高出力も148ps/10,000rpmと同クラスでも一線級の実力を誇る。
車体は剛性と軽量化を両立したアルミ製ツインスパーフレームにGSX-R1000と同形状のアルミ製スイングアームを採用。全調整式のKYB製φ43㎜倒立フォークとプログレッシブ特性を持つリンク式モノショック、ブレンボ製ラジアルモノブロック4Pキャリパー&φ310mmダブルディスクを組み合わせるなど足まわりもハイグレードだ。最新の電子制御が盛り込まれ、路面状況に応じてライダーが選択できる3モードのトラクションコントロールの他、ワンプッシュで始動が可能な「スズキイージースターシステム」や発進時や極低速時にエンジン回転数の落ち込みを制御する「ローRPMアシスト」などスズキ得意のお助け機能を搭載。ABSやスリッパ―クラッチを標準装備するなど安全性も高められている。
それもそのはず。新型カタナの中身は先に記したとおりGSX-S1000そのものと言っていい。とても乱暴な言い方をするとカタナの皮を被ったソレなのだ。でも、それは悪いことじゃないし、むしろ歓迎すべきことと思う。何故なら新型カタナの正体は、走りの性能や信頼性や安全性がすでに担保された最新のスポーツネイキッドであり、オーナーはカタナの伝説とスタイリングに惚れ惚れしながら、自己陶酔の中でライディングを存分に楽しめるからだ。思えば初代カタナ(GSX1100S)だってベースは当時スズキのフラッグシップだったGSX1100Eである。実は初代も同じような生い立ちで誕生しているのだ。
そう考えると、すべてツジツマが合う。よくできたメーカーズカスタムモデルとして新型カタナを楽しめばいいのだ。
というわけで、新型カタナの低中速トルク溢れるエンジンと荒々しい直4サウンドは現代のカタナに相応しい豪胆さを感じるし、本気でムチを入れればGSX-S1000同様に恐ろしく速い。その上、スロットルプーリーの形状を見直すことで開け始めのレスポンスを穏やかにするなど、独自の改良もしているため、乗り味がややマイルドなのだ。また、ライポジについてもハンドルがワイド&アップタイプなので上半身の姿勢が楽だし、ハンドル入力でマシンを振り回しやすい。着座位置も前寄りになり、自然にフロント荷重をかけて初期旋回で曲がりやすくなっている。ライポジには好みがあるだろうが、個人的には見た目の雰囲気も含めさらにダイナミックな走りが楽しめる感じだ。
もうひとつ付け加えておくと、3モードのトラクションコントロールが実に良かった。というのも試乗時は雨がパラついて次第に路面が冷えてくるイヤなパターンだったが、モードを1から2、そして雨天用への3へと順次変更していくことで安心してワインディングを走り続けることができた。
現代のカタナはパワフルで走りが良くて分かりやすいマシンだ。タンデムや荷物を積むのはあまり得意じゃないと思うが、所有感を満たしながら爽快な走りやスタイルを楽しみたい人には是非おすすめ。カタナの名前にトキメキを覚えるのであればなおさらだ。