第46回東京モーターショー2019で、ヤマハは電動スクーターの2モデルを参考出品した。そしてもう1種、ヤマハのブースには電動バイクが展示されている。電動のトライアルバイク『TY-E』である。
REPORT/PHOTO●伊藤英里(Eri Ito)
トライアルとは、主に山などの自然の地形を生かしてコースが設定され、大木や岩などを、バイクに乗ったまま越えていく競技のこと。ロードスポーツのように速さを競うのではなく、いかにバイクから下りず、足をつかずに障害物を乗り越えられるかがポイントとなる。
ヤマハは2018年、2019年と2年連続でFIMトライアル世界選手権のTRIAL Eクラスに参戦した。TRIAL Eとは2017年からスタートした、電動のトライアルバイクで争われるクラスのこと。ライダーには黒山健一選手が起用された。黒山選手は世界選手権への参戦経験を持ち、全日本トライアル選手権で11度のチャンピオンに輝いた、日本を代表するトップトライアルライダー。2019年シーズンはこのTRIAL Eクラスのほか、全日本トライアル選手権IAスーパークラス(最高峰クラス)に参戦中だ。
2戦で行われるTRIAL Eクラスのシリーズで、黒山選手はTY-Eを駆って2018年には優勝1回と2位1回、2019年には2位2回の成績を収め、2年連続でチャンピオンシップのポイントランキングで2位を獲得している。
そんなトライアル世界選手権のTRIAL Eクラスに挑んだ車両、TY-Eの開発は、ある一人のヤマハ社員の構想から始まった。ヤマハには業務のうち5%の時間を好きな研究に充ててよいという制度がある。トライアルを趣味としていたその社員がこうした時間を使って研究し、それがプロジェクト化して生まれたのがTY-Eなのだ。
電動バイクには、初速から高トルクが出る特性がある。また、トルクコントロールが内燃機関のバイクよりも容易だ。こうした電動バイクの特徴が、障害物を一気に駆け上がるパワーが必要となるトライアルと相性がよいのではないか、と考えられた。
そしてまた、同時に考えられたのが、電動バイクについてのネガティブな印象を払拭することだった。電動バイクとトライアルバイクを融合させることにより、環境面以外の電動バイク自体の魅力、『おもしろさ』『楽しさ』に目を向けてもらえることを目的としたという。
高回転型の小型高出力モーターを搭載するTY-Eにはメカニカルクラッチが採用されており、これによってパワーを出さずに溜めたり、そのパワーを一気に放出するコントロールを可能にした。フレームはCFRPモノコックが採用され、軽量化が追求されている。
このTY-Eで培われたテクノロジーの一部は、冒頭で述べた第46回東京モーターショー2019にコンセプトモデルとして出品されているE01、E02へもフィードバックされているという。2020年のトライアル世界選手権のTRIAL Eクラス参戦はまったくの未定とのことだが、ぜひとも継続参戦を期待したい。