ハンズオフを実現したプロパイロット2.0の優秀性はすでに試乗会で体験済み。では、ロングドライブでどれほど有効か、ジャーナリスト世良耕太が日本GP開催の鈴鹿までの往復、計930km走行して試した。果たしてプロパイロット2.0は、実ドライブでどれほど効果があるか?
TEXT &PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
「1時間くらいハンズオフで過ごせちゃうんじゃないの?」は甘かった
F1日本GPの取材で鈴鹿サーキットに行くので、これはいい機会だとばかりに日産スカイラインを借りて出かけた。試乗車は、ハイブリッドのGT Type SPである(最上級グレードだ)。高速道路でしか試すことのできないプロパイロット2.0を試すのにいい機会だと思った。なにしろ、片道350km超は高速道路である。試すチャンスは充分あるだろう。
4泊分の荷物を積もうとトランクリッドを開けてハッとした。せ、狭い……。後席とラゲッジスペースの間にバッテリーを搭載しているのが、狭さの理由である。機内持ち込みキャリーバッグ+αサイズの荷物を2個飲み込んで適量といった印象。大型のスーツケースはどうか……と心配になった。
用賀ICで東名高速に乗ったら、降りるのは376km先にある東名阪の鈴鹿ICだ。御殿場から先の新東名では「1時間くらいハンズオフで過ごせちゃうんじゃないの?」などと期待していたが、まったくもって甘かった。3車線化に向けてところどころ工事をしており、制限速度が80km/hに変わる。プロパイロット2.0はカメラで速度標識の数字を読み取っており、制限速度が変わったことを警告音でドライバーに知らせる。
放っておくとシステムが自動的に車速設定を変更し、80km/hの区間なら80km/hに変更する。と同時に、「ハンドルを握れ」と指示してくる。これがなかなか頻繁で、落ち着かない。しかも、実際の交通の流れは、速度制限が80km/hになったからといって律儀に20km/h落ちるかというとそうはならない。システム任せにしていると、後続車が急激に車間を詰めてくるのがわかる。それを見てあわててレバーを動かして設定車速を上げたり、アクセルペダルを踏み込んで落ちた車速を取り戻したりする必要がある。予期していない作業を強いられるので、慌ただしい。
面食らう場面はあるが、ドライブの疲労度は最小レベル
もっと面食らうのは東名・東京料金所や第三京浜・玉川料金所のような、本線上にある料金所で、料金所のかなり手前で制限速度は40km/hになる。「実際の交通の流れとの速度差が大きすぎて危ない」というのが実感だ。プロパイロット2.0が悪いのではなく、制限速度の設定と実際の交通の流れが乖離しているのが問題だ。
工事箇所で制限速度が落ちるのは予期するのが難しいが、料金所の場合は予期しておくことが可能。「もうすぐ料金所だから」と身構えておけばいい。道路側の都合に合わせたプロパイロット2.0との上手な付き合い方がありそうだ。新東名はトンネルが多いが、GP2が受信できないためトンネルではハンズオフ機能が使用できず、ハンドルを握るよう指示される。慣れてくると、「トンネルだからハンドル握らなきゃ」と、自動的に体が反応するようになる(往路は戸惑ったが、復路は慣れた)。
今回のドライブでは、車線変更の機能もたびたび試すことができた。ハンズオフで走行中、「前方に遅い車両がいます 安全を確認してください ↑で右に車線変更します」とシステム側から提案が出た場合(矢印は実際にはクランク状)、ハンドルを握って矢印ボタンを押すと、システムが周囲の状況を監視しながら自動的に車線変更を行なってくれる。動きはとてもスムーズだ。
車線変更が始まって終わるまで、ウインカーのカチカチ音は10回鳴る。このことから想像できるように、多くのドライバーにとって、普段の車線変更より時間がかかると感じるだろう。後続車のドライバーは、「なにもたもたしてんだ」と思うかもしれない。このことでストレスを感じるようなら、自分で車線変更を行なえばいい。マニュアルで車線変更を行なうことで瞬間的にハンズオンの運転支援機能は解除されるが、すぐに条件が整ってメーター/ディスプレイの表示はグリーン→ブルーになり、ハンズオフが可能になる。
ウインカーレバーは奥まで倒すとそこで止まるタイプではなく、ウインカーを連続点滅させて戻ってくる。少し倒すと3回点滅するのだが、3回点滅と連続点滅の境がわかりづらく、3回点滅させるつもりで連続点滅させしまい、それをキャンセルしようと軽く動かしたつもりが、行き過ぎて反対側が連続点滅し、それをキャンセルしようとして……という、イライラがつのる経験を何度もした。
プロパイロット2.0に限っていえば、ストレスを感じないように付き合えばいいだけの話だ。ハンズオフで走行できた距離は予想以上に短かったが、じゃあプロパイロット2.0は不要かというとそんなことは決してなく、ありがたい機能であることを実感した。東京〜鈴鹿間の往復は何度も経験しているが、ストレスと疲労度の小ささはこれまでで一二を争うと断言できる。ひと言でいって、楽だった。
高速道路を降りて一般道を走っていたら、ブレーキペダルを踏んでいないのに、ブレーキが掛かった。「それがデフォルト?」と思ったが間違いで、インテリジェントペダル(車間距離維持支援システム)の機能がオンになっていたのだ。高速道路でプロパイロット(車間距離自動制御+ハンドル支援)を使って走り、そのまま下道(一般道)に降りたのだろう(後から振り返ってみれば)。
インテリジェントペダルのオン/オフはメーター/ディスプレイの◎マークでわかる。戸惑うのは高速道路での車間距離自動制御と違って、一般道ではなかなか急減速な制動を行なうことである。安全性を見込んでのことなのだろうが、「そこでブレーキ踏む?」というシーンでブレーキを掛け、車間距離を保とうとすることもある。普段の運転より、ブレーキランプが点灯する回数が多い(しかも、減速が激しい)。ジャッジの厳しい教官が横に乗ってドライバーの先回りをし、ブレーキを踏んでいるかのようだ(お仕置きの意味合いを込めて)。
試乗車にはメーカーオプションのBOSEサウンドシステムが付いていたが、久々にオプション設定のオーディオシステムに感激した。音像の定位がしっかりしている。低音がしっかり出ていて、それが耳障りではない。普段聴いている某社の純正オーディオの音は、電話の向こうで鳴っている音楽を聴いているかのように貧弱、であることを実感した。
今回の長距離長時間移動が快適だったのは、最新スカイラインのダイナミクス(日常走行域での操安性)が良く、静粛性にすぐれ(道中、感心したポイントのひとつ)、信頼に足る運転支援システムを備えているからだけではなく、BOSEのサウンドに負うところが大きかったことを付け加えておく。
6日間で928.5km走った際(うち約85%は高速道路)の平均燃費は、15.9km/ℓだった(ハイオクガソリン指定)。
日産スカイライン ハイブリッドGT タイプSP
全長×全幅×全高:4810mm×1820mm×1440mm
ホイールベース:2850mm
車重:1840kg
サスペンション:Fダブルウィッシュボーン式/Rマルチリンク式
駆動方式:FR
エンジン
形式:3.5ℓV型6気筒DOHC
型式:VQ35HR
排気量:3498cc
ボア×ストローク:95.5×81.4mm
圧縮比:10.6
最高出力:306ps(225kW)/6800pm
最大トルク:350Nm/5000rpm
燃料供給:PFI
モーター:HM34交流同期モーター
最高出力:68ps(50kW)
最大トルク:290Nm
燃料:無鉛プレミアム
燃料タンク:70ℓ
燃費:JCモード燃費 14.4km/ℓ
トランスミッション:7速AT
車両本体価格:616万円