「3/4(スリー・クォーター・ワークス」「HRC SPORT SPIRIT(HRC・スポーツ・スピリッツ)」、これがNSR50/80の開発コンセプト。NSR50/80には、当時のロードレース最高ワースクスである、世界GP500レーサー「NSR500(500cc)」直結のテクノロジーが、確かに継承されていた。 REPORT●北 秀昭(KITA Hideaki)
「NSR50/80」はバイクブーム&レプリカブーム真っ只中の1987年(昭和62年)に登場 サーキットを激走するNSR50の最終モデル(月刊モト・チャンプより)。 バイクブーム真っ只中で、街中にレーサーレプリカモデルが溢れていた1987年(昭和62年)。各地のサーキットでは、ミニバイクレースも大いに盛り上がっていた。 そんな中、ホンダは満を持して、本格派スポーツモデル「NSR50/80」を市場に投入。ストリートはもちろん、ミニバイクレースでも大人気となった「NSR50/80」は、サーキットにおいても驚異的なポテンシャルを発揮した。 特にNSR50でエントリー可能な、「M50クラス(ミッション付ノーマル)」や、「SP12クラス(ミッション付準改造)」などでは、上位マシンのすべてがNSR50なんてことも当たり前。ライバルに大きな差を付けた。 厳しい排ガス規制によって、絶版となった2019年(令和元年)現在でも、NSR50/80はサーキットでその実力の高さを見せ続けている。
NSR500を駆る伝説のホンダワークスGPライダー、M・ドゥーハン(1997年撮影)。 NSR50/80は、「NSR500を3/4にサイズダウンしたスポーツモデル」がコンセプト。 写真はMoto GPの前身である「世界GP」で5連覇を達成した、マイケル・ドゥーハン選手とレプソルカラーのNSR500(1997年モデル)。ホンダの世界GPクラス(2002年に最高峰の500ccクラスがMotoGPクラスに改編)に投入されたNSR500は、水冷2ストロークV型4気筒500ccエンジンを搭載。 1984年(昭和59年)に登場した2ストロークのNSR500は、水冷4ストロークV型5気筒DOHC4バルブ990ccエンジン搭載の「RC211V」にバトンタッチする2002年(平成14年)まで活躍した。
「NSR50/80」は定期的にモデルチェンジを実施し、熟成度を大幅にアップ! 「NSR50」の水冷2ストロークエンジン。
「NSR50」の湿式クラッチ。1995年モデルはフリクションディスクを5枚から7枚に増加し、チャンバーやCDI交換等によるパワーアップにも余裕で適応。 1987年(昭和62年)にデビューしたNSR50/80は、1999年(平成11年)の最終モデルまでに、マイナーチェンジやフルモデルチェンジを実施。そのたびに、走りの熟成度は向上した。 NSR50は、自主規制7.2馬力を1万回転で発生する、水冷2ストローク単気筒49ccエンジンを搭載。 一軸バランサーや高回転域での出力を重視したポートタイミングなどで、マックスパワーを稼ぐと同時に、インテークチャンバー等で、低中回転域のトルクをカバー。全域に渡り、爽快な加速を実現するのが大きな魅力だ。 リードバルブは当時主流だった「クランクケースリードバルブ」ではなく、「ピストンリードバルブ」を採用しているが、潜在パワーは大きく、チャンバーやCDIの交換で、4馬力以上は簡単にアップする。 しかもエンジンの耐久性は抜群で、ミニバイクレースでは「半年くらい乗りっぱなしでも」タイムが落ちないと言われるほどの頑丈さを誇るのがポイントだ。 NSR50の場合、レースビギナーでも扱いやすい理由は、キャブレターのセッティングの出しやすさも挙げられる。これは、「高回転高出力型」というよりも、「高充填効率高トルク型」というエンジン特性によるもの。レースでは重要な要素となる、“セッティングの容易さ”も、人気の要因となった。 なお、ボア×ストロークは、50が39.0mm×41.4mmのロングストローク型=高充填効率高トルク型(モンキー50と同サイズ)。 一方、NSR80は、NSR50のボアを39mmから49.5mmに拡大し、排気量を79ccまで拡大。乾燥重量は50よりも1kg増ながら、パワーは1.6倍アップの12psを出力。 ボア49.5.0mm×ストローク41.4mmのショートストローク型=高回転高出力型に設定されている。
サーキット走行にも強い! コーナリング特性も抜群の本格的でタフな足周り レースでも定評のあるダウンチャンバー装着した、1987年登場の初代NSR50。 コーナリングの操縦安定性は、排気量を問わないすべてのバイクの中でも、極めて高度なもの。 角ツインチューブフレームとアルミスイングアームは、市販のハイグリップタイヤにも十分対応できるほど剛性は高く、インナーチューブ径Φ30mmのフロントフォークの剛性も不足はなく、リヤショックのポテンシャルも、公道走行では充分すぎるほど。 前後ディスクブレーキの効力はバランスも良く、フロントブレーキはジャックナイフするほど強力だ。 これらはサーキットでも本領を発揮。チャンバーやCDI交換時のパワーアップ時でも、ノーマルもしくは低予算のライトチューンで対応できるなど、購入後、速く走るのにお金の掛からないレーシーな仕様も、人気の理由となった。
角ツインチューブフレーム、アルミスイングアーム、12インチキャストホイールを採用 写真は「RSリップス」が製作したNSR80改。アンダーカウルを外し、メインフレームやエンジンを露出させたところ。
このNSR80改は、RSリップス製のチャンバーやエンジンパーツでチューニング。パワーは20馬力以上を発揮。
NSR50/80チューニングのエキスパート「RSリップス」 ハイパワーやハイグリップタイヤによる高いパフォーマンスを、強靭なツインチューブフレームが受け止める。前後12インチのキャストホイールは、バネ下重量の低減のため、肉抜きを施すというこだわりようだ。 前後ディスクブレーキ、アルミスイングアーム、モノショック型リヤショックなど、車体構成は非常に豪華。「手軽なミニバイクだから」というチープな妥協は、一切感じられない徹底したつくりとなっている。 ガソリンタンクは、二―グリップしやすい7.5Lの大容量。本格的なエアプレーンタイプのアルミキャップが標準装備されている。 アルミ製トップブリッジ、低くセットされたセパレートハンドルもポイント。スピードメーターよりも一回り大きく作られたタコメーターは、パワーバンドが一番視認性の良い位置にくるよう斜めに配置されている。
伝説の世界GP250チャンピオンライダー「加藤大治郎」もNSR50でテクニックを磨いた! NSR50を駆る、ミニバイク時代の加藤大治郎(第一回JMCCにて/月刊モト・チャンプより)。青木兄弟、武田雄一などなど、NSR50を足掛かりにロードレースで活躍したライダーは数多い。 2001年、世界GP250クラスの年間チャンピオンを獲得。その後、世界最高峰のMoto Gpに参戦。写真はホンダRC211Vを駆る大治郎(2003年/月刊モト・チャンプより)
NSR50/80がデビューした1987年(昭和62年)といえば、ワイン・ガードナーやエディ・ローソン、日本人では平忠彦など、今もなお伝説として語り継がれる名ライダーが活躍していた時代。 本格的でありながら、ビギナーにも扱いやすいNSR50/80は、そんな憧れのライディングを等身大で感じさせてくれた。 NSR50/80は、世界で活躍する偉大なMotoGP(世界GP)ライダーや、全日本ロードレースで活躍するライダーを、多数“育てた”ことでも有名。2001年、世界GP250クラスの年間チャンピオンを獲得した加藤大二郎などなど、少年時代にNSR50/80でテクニックを磨き、ロードレースにステップアップして活躍したライダーは非常に多い。
●NSR50の主要スペック(カッコ内は80/データはともに99年最終型) 型式:A-AC10(HC06)/全長:1580mm/全幅:590mm/全高:935mm/乾燥重量:78kg(79kg)/燃料タンク容量:7.5L/エンジン形式:水冷2サイクル単気筒49cc(79cc)/圧縮比:7.2(7.1)/最大出力:7.2ps/10,000rpm(12ps/10,000rpm)/最大トルク:0.65kgm/7,500rpm(0.97kgm/8,000rpm)/変速機:6速リターン/点火方式:CDI/タイヤサイズ:前100/90-12 後120/80-12/発売価格(当時):28万5000円(29万9000円) 2002年(平成14年) NSR50生産終了後、レース専用モデルの「NSR Mini」が登場 NSR50の生産終了後の2002年(平成14年)、ホンダのレース部門である「HRC」から、保安部品のない2スト50ccエンジン搭載のレース専用モデル「NSR Mini」が発売された。 NSR Miniのベースは、1995年型以降のNSR50。12インチの前後ホイールは6本スポーク型ではなく、強度の高さからミニバイクレースでも人気のある3本スポーク型を装備。 混合オイル仕様、大型ラジエター、イニシャル調整が可能なフロントフォーク、減衰圧調整とプリロード調整が可能なサブタンク付きリヤショックなど、レーサーならではのスポーティーな装備を採用している。2009年販売終了。
●NSR Miniの主要スペック 型式:RS50 全長:1580mm/全幅:590mm/全高:935mm/乾燥重量:73kg/燃料タンク容量:7.5L/エンジン形式:水冷2サイクル単気筒49cc/ボア×ストローク:39.0mm×41.4mm/圧縮比:7.2/最大出力:7.2ps/10,000rpm/最大トルク:0.65kgm/7,500rpm/変速機:6速リターン/点火方式:CDI/タイヤサイズ:前100/90-12 後120/80-12/当時の価格:27万8250円 NSR50/80の歴代モデル NSR50/80は、1987年(昭和62年)から1999年(平成11年)まで生産されたモデル。その間、何度か大きなモデルチェンジを受けている。大きな分岐点は、 ●1993年モデル……前後のホイール形状が3本型から6本型に変更(このホイールは頑丈なため、レースでは3本型が人気) ●1995年モデル……エンジン各部や足周りが強化されるなど、事実上のフルモデルチェンジ 1995年の変更時には、フロントフォーク長(ボトムケース下からトップ部まで)を約40mm延長。なお、フォーク長は変更前が約575mm、変更後が約615mm(スプリングの新旧によって異なる)。 NSR50用フロントフォークは、モンキーのカスタムにも大人気。一般的に変更前を「前期型」、変更後を「後期型」と呼んで区別しているのが特徴だ。
レースでも定評のダウンチャンバーを採用した初代のNSR50。
NSR50(レッド×ホワイト)
NSR50(ロスマンズカラー)
NSR50(ロスマンズカラー)
アップチャンバーに変更し、ライト周りのカウルデザインを変更。
NSR50(マックス・グレーメタリック)
NSR50(マックス・グレーメタリック)
NSR50(ホワイト×レッド)
NSR50(ロスマンズカラー)
NSR80(ホワイト×レッド)
NSR80(ホワイト×レッド)
レーシーなワークスマシンのイメージカラーに変更。
NSR50(HRCカラー)
NSR50(HRCカラー)
NSR50(SEEDカラー)
NSR50(SEEDカラー)
NSR80(ロスマンズカラー)
NSR80(ロスマンズカラー)
全日本ロードレース選手権250ccクラスで、3年連続チャンピオンを獲得したワークスマシン「NSR250」のブラッシュ(刷毛塗り)模様のレッド/ホワイト、また、精悍なイメージのレッド/ブラックの2色を設定。NSR80は同パターンのブルー/ホワイト。
NSR50(レッド×ホワイト)
NSR50(レッド×ホワイト)
NSR50(レッド×ブラック)
NSR50(レッド×ブラック)
NSR80(ブルー×ホワイト)
NSR80(ブルー×ホワイト)
エンジンはシリンダーヘッドを変更。足周りは、前後にNSR250Rシリーズと同じデザインの、スポーティなU字断面6本スポークホイールを新たに採用している。 カラーリングは、ワークスマシン「NSR250」の躍動感溢れるブラッシュ(刷毛塗り)パターン・イメージとし、ロスホワイト/ファイティングレッドをNSR50/80に、精悍なイメージのブラック/クリアーパープルをNSR50に新たに設定。 また、バックミラーのデザインを変更し、ウインカースイッチを操作が容易なプッシュキャンセル式とするとともに、クラッチアジャスターを手元に設けるなど、より使い勝手を向上させている。
NSR50(ロスホワイト×ファイティングレッド)
NSR50(ロスホワイト×ファイティングレッド)
NSR50(ブラック×クリアーパープル)
NSR80(ロスホワイト×ファイティングレッド)
NSR80(ロスホワイト×ファイティングレッド)
ワークスマシン「NSR250」イメージの鮮やかな「ロスホワイト/ファイティングレッド」をNSR50/80に設定。また、NSR50に精悍なイメージの「ブラック/ブリッツグレーメタリック」を設定。加えてNSR50には、ワークスマシンの雰囲気が味わえる、“Rothmans”のロゴやエンブレムを各所に配したロスマンズのスペシャルカラーリングモデル(限定)もリリース。
NSR50(ロスホワイト×ファイティングレッド)
NSR50(ロスホワイト×ファイティングレッド)
NSR50(ブラック×ブリッツグレーメタリック)
NSR50(ロスマンズ・スペシャルカラー)
NSR50(ロスマンズ・スペシャルカラー)
NSR80(ロスホワイト×ファイティングレッド)
NSR80(ロスホワイト×ファイティングレッド)
下記の通り、各部を大幅に変更。主な変更点は下記の通り。 ・既存のCDIマグネット点火方式から、CDIバッテリー点火方式に変更 ・クラッチはフリクションディスクを5枚から7枚に増加 ・フライホイールを軽量化してレスポンスをアップ ・ラジエターの容量をアップして冷却効率を向上 ・フロントフォークを延長・改良 ・リヤショックを5段階調整可能なプリロードアジャスター付きに変更 ・リンク式チェンジペダルを採用 ・アルミ製トップブリッジを採用 ・HRCワークスマシン「NSR500」のイメージをダイレクトに受け継ぐシートカウルデザインに変更 ・'94年ロードレースWGPチャンピオンカラーをイメージしたファイティングレッドと、精悍なブラック(NSR50のみ)を設定
NSR50(ファイティングレッド)
NSR50(ファイティングレッド)
NSR50(ブラック)
NSR80(ファイティングレッド)
NSR80(ファイティングレッド)
'97年のHRCワークスカラーに変更。
NSR50(HRCワークスカラー)
NSR50(HRCワークスカラー)
NSR80(HRCワークスカラー)
NSR80(HRCワークスカラー)
世界GP500ccクラスにおいて、マイケル・ドゥーハン選手とホンダNSR500による5年連続チャンピオン獲得を記念し、ワークスカラーの「レプソルホンダカラー(ヘレスブルーメタリック)」を採用。厳しい排ガス規制とバイクの4スローク化推進により、NSR50/80はこのモデルが最終型となった。
NSR50(レプソルホンダカラー)
NSR50(レプソルホンダカラー)
NSR80(レプソルホンダカラー)