ポルシェ初のフル電動スポーツカー、「タイカン(TYCAN)」。スポーツカーの雄たるポルシェがプライドを賭けて開発した電動スポーツカーだけに、そこに投入されたテクノロジーは、想像を遥かに超えるものだった。ポルシェ・タイカンのテクノロジーを徹底解説する。第3回は「パフォーマンス&パワートレーン編」だ。
TEXT◎世良耕太(SERA Kota) PHOTO &FIGURE◎PORSCHE
パフォーマンス:スーパーパフォーマンスと450kmの航続距離を両立
ポルシェが強調するのは、発進加速を繰り返しても、パフォーマンスの悪化がほとんどないことだ。10秒のインターバルで0-200km/h加速を26回繰り返しても、タイムの落ちはほとんどなかったと胸を張る。イタリア・ナルドにある自社のテストコースでは、24時間走行テストを実施。充電時間を含めた平均車速は143km/h(走行時の平均車速は200km/h前後だった)で、3425kmを走破した。
タイカンはニュルブルクリンク北コースでタイムアタックを行なっており、7分42秒で走って「4ドア・エレクトリックカー」部門の新記録を樹立した。2012年にポルシェ・カレラSが記録した7分37秒9に迫る。タイカンは一発が速いだけでなく、極めてタフなEVといえる。こうした高いパフォーマンスを発揮する能力を備えながら、WLTPで450kmの航続距離を実現。「日常使いに支障はない」とするゆえんだ。
パワートレーン:前後に1基ずつのモーター。リヤには2段変速機が
モーターは前後に1基ずつ搭載する。どちらも永久磁石同期モーターだ。テクノロジー・ワークショップでは、非同期モーターを採用しなかった理由について、「永久磁石同期モーターのほうが、高い出力、高い負荷がかかったときに高いパフォーマンスを維持できるから」(マイヤー)と説明があった。さらに、コンパクトかつ軽量にでき、「ポルシェらしい走りが実現できるから」と付け加えた。ローターが熱くなるとパワーの一貫性を失ってしまうが、永久磁石同期モーターはサーマルコントロールがしやすい店も採用の理由に挙げている。
モーターは、断面が四角いヘアピンワインディングを採用している。断面が丸いプルインワインディングを引き合いに出し、「銅の充填率を高めることができる」と、担当エンジニアは採用の理由を説明した。銅の充填率が高くなるほどトルクは上げやすくなる。また、熱を外に出しやすい構造のため、冷却が容易になるのもメリットだと説明した。
フロントアクスルモジュールは、最高出力175kW(ターボ)~190kW(ターボS)のモーターとインバーター、シングルスピードトランスミッションで構成する。モーターとトランスミッションはドライブシャフトと同軸だ。一方、リヤアクスルモジュールは、最高出力335kWのモーターとインバーター、それに2速トランスミッションで構成する。ドライブシャフトとモーターをオフセットさせたのは、ラゲッジスペースを確保するためだ。
「新開発の2速トランスミッションはポルシェのイノベーションで、スポーティな走りに大きく貢献している」と、マイヤーは力を込めた。2速トランスミッションを採用したことで、発進加速性能を高めると同時に、最高速を引き上げることが可能になった。「ゼロから開発したことに誇りを持っている」と、担当エンジニアは話した。
前後2基のモーターのトルクを足すと、ホイールトルクは12000Nmに達する。1速→2速の切り換えは80km/h+αの速度域で行なう。また、2速トランスミッション内部にある2つのギヤをロックすることで、追加のデバイスを用いずにパーキングロック機能を成立させている。
サーマルマネジメントはパワートレーンを開発するうえで、大きな課題のひとつだったという。極低温から高温環境までカバーしなければならず、クーリングだけでなくヒーティングも必要だった。バッテリーは、夏は冷やし、冬は適温まで温める。高出力のシステムのため空冷だけでは不十分で、液冷システムを構築した。
そのサーマルマネジメントの構造は、コンポーネントの適正温度に合わせ、ヒーティング回路、中温回路、低温回路の3つの回路で構成される。車載充電器やバッテリーは低温回路、リヤアクスルモジュールは中温回路だ。
リチウムイオンバッテリーの容量は93.4kWhである。調達の関係もあり、ポーランドに生産工場があるLG製のセルを用いる。エネルギー密度が高く、軽量化を追求できる特性を重視し、パウチタイプを採用。12のセルで構成するモジュールを33個(396セル)搭載している。新品時の70%の性能を8年16万km保証する。