1989年に北米をターゲットにトヨタが立ち上げた高級車ブランド、それがレクサス(LEXUS)だ。そのフラッグシップが高級セダンのLS(国内ではトヨタ・セルシオ)である。いきなり高級車マーケットに殴り込みをかけたレクサスLSが成し遂げた成功をデータで検証してみよう。また2010年代のレクサスLSの退潮と今後についても考えてみよう。初代レクサスLSの大成功の影に隠れてしまったインフィニティQ45の販売データも繙いてみることにする。
初代レクサスLSの衝撃
高級車マーケットは、メルセデス・ベンツSクラスを軸に動いている。それを検証するために北米と欧州の販売データを検証した。
ここでは1996年以降の北米での販売データを検証したが、今回はその前段、レクサス登場の1989年からのデータを検証した。
レクサス登場以前の80年代は、メルセデス・ベンツSクラスは2代目W126型、BMW7シリーズは初代E23型ー2代目E32型で市場を寡占している状態だった。Sクラスが圧倒的に強かった北米市場にトヨタがレクサスを立ち上げて挑戦を始めたのは1989年のことだ。
同時期に日産はインフィニティ(Infiniti)を立ち上げている。ホンダは1986年にアキュラ(Acura)ブランドを北米でスタートさせていた。
メルセデス・ベンツとBMWという伝統的なブランドにレクサス、アキュラ、インフィニティといった「若い」日本のブランドが挑戦を始めたというわけだ。レクサスがとった手法は、旧来の高級車のありかたとは違う、機能性や高品質による「高級」という新しい価値観の提案だった。しかも、メルセデス・ベンツやBMWと同レベルの安全性、それ以上の品質と信頼性を併せ持ったレクサスLSという高級セダンを北米に投入したのだ。
初代レクサスLS、レクサスブランドの北米での成功については、その理由を分析した書籍も多い。マーケティング戦略としても大成功した事例として記憶されている。
初代レクサスLSはどのくらい成功したのか?
グラフを見てみよう。
モデル末期を迎えていた2代目Sクラスとモデルチェンジを受けてセールスが上向いた7シリーズにぶつけられたのが初代レクサスLSである。
初代LSは、鮮やかな成功を収めた。1990年には4万3000台近くを販売。Sクラスにダブルスコアをつけてマーケットをまさに席巻した。
メルセデス・ベンツは、1991年に3代目となるW140型を投入。レクサスは矢継ぎ早にLSの2代目XF20型を1994年に登場させる。アメリカ人のバリューフォーマネーの嗜好にばっちりはまったLSは、3代目Sクラスを寄せ付けずにトップを維持し続けた。
SクラスがLSに一矢報いたのは1998年、4代目W220型になってからだ。それでも、2000年に3代目となったLSにまたしても販売台数で負けている。
メルセデス・ベンツはLS追撃のために2005年に5代目W221型をデビュー。一旦は逆転に成功するが、レクサスは2006年に4代目XF40型へスイッチ。この4代目のスタートまでがレクサスLS伝説と言っていい成功譚である。
このあと起こったのは、リーマン・ブラザース破綻による世界的不況。高級車マーケットはその煽りをもろに受けて失速する。
2012年、レクサスは大規模な改良を4代目XF40型に施してテコ入れを図ったたが、これは失敗に終わった。2013年メルセデス・ベンツは現行のW222型へスイッチ。北米でのこのカテゴリーのリーダーの座を奪還することに成功した。
なにがレクサスLSの歯車を狂わせたのか?
ここまで、打つ手が奏功し、いいサイクルできていたレクサスは、リーマンショックのせいで4代目LSを延命せざるをえなくなったことが、歯車を狂わせたと言える。
3代目目までは、Sクラスより短いサイクルでモデルチェンジを行ない、ユーザーの期待に応えてきたが、4代目はなんと12年ものモデルライフで延命することになってしまった。途中、大規模な改良を施したが、これが裏目に出てしまった。
本来なら
1998年:4代目Sクラス登場
2000年:3代目LS登場
2005年:5代目Sクラス登場
2006年:4代目LS登場
2013年:6代目Sクラス登場
2014年:5代目LS登場
となるのが順当だったのに、リーマンショックのあおりで(だと推測する)
2012年:4代目LSのビッグチェンジ
2013年:6代目Sクラス登場
2017年:5代目LS(現行)登場
となってしまった。
今後は(予想の範囲で言えば)
2021年:7代目Sクラス登場
2024年:6代目LS登場
となるはずだ。フルモデルチェンジ直後の2017-2018でSクラスに勝てていない現行LSが2021年までこの構図を変えるのは容易なことではない。21年にSクラスがフルモデルチェンジしたら(フルモデルチェンジの方向性を間違えなければ)、モデル末期を迎えることになるレクサスLSとの差は広がる一方になるだろう。
となるとレクサスがとるべき戦略は?
となると(データ上だけの話だが)レクサスLSがとるべき戦略は
2021年:7代目Sクラス登場
2022年:6代目LS登場
として、従来の勝ちパターンに戻すということになるだろう。
2017年登場からわずか5年でのフルモデルチェンジとなるのは承知のうえだ。マーケットリーダーの座を奪還するには、それなりの犠牲が必要なのだと思う。
せっかくなので、初代レクサスLSと同時期に北米マーケットへ殴り込みをかけたインフィニティQ45の販売データも見てみよう。
インフィニティQ45初代
1989年 1072台
1990年 1万3938台
1991年 1万4623台
1992年 1万2216台
1993年 1万2294台
1994年 1万1419台
1995年 7803台
1996年 5896台
1997年 1万443台(ここから2代目へスイッチ)
1998年 8244台
1999年 6271台
2000年 4178台
レクサスLSの、同じく北米での販売台数と比べてみよう。
レクサスLS Q45
1989年 1万1574台 1072台
1990年 4万2806台 1万3938台
1991年 3万6955台 1万4623台
1992年 3万2561台 1万2216台
1993年 2万3783台 1万2294台
1994年 2万2433台 1万1419台
1995年 2万3657台 7803台
1996年 2万2237台 5896台
1997年 1万9618台 1万443台
1998年 2万790台 8244台
1999年 1万6357台 6271台
2000年 1万5871台 4178台
こうしてみると、Q45のセールスもけっして悪くない。BMW7シリーズは上回っていたわけだから、大成功と言ってよかったのではないか。レクサスLSの衝撃的な大成功のせいで「失敗」の烙印を押されがちのQ45も、デビュー後数年はなかなかの成功を収めていたのだ。