アナログ派自動車評論家・瀬在仁志(ヒトシ君)が助手の75(ナコ)とともに、話題の新車に乗ってオイシイモノを食べに行くという食いしん坊企画の第3弾。道中、感じたことや気がついたことを言いたい放題しつつ、最終的にはオイシイモノにありつくという企画。打ち切りの可能性を色濃く残しつつも第3回まできたらコッチのモン! と、勝手にロング連載化決定。今回は話題のマツダ3から、セダンをチョイス。
講師:瀨在仁志(Hitoshi SEZAI)
助手:生江凪子(Naco NAMAE)
(取材前日)
ヒトシ君:あ~、もしもし。明日は10時にマツダ横浜R&Dセンター集合ね。10時。遅れんなよ!
助手75:ええええええ~??? 田園調布お迎えじゃないのぉ~? チッ、切れた……。
というわけで、取材当日@マツダ横浜R&Dセンター。寝坊せず、ジャストタイムで一安心。
ヒトシ君:今日の試乗車は話題のマツダ3だよ。みんなファストバックに注目してるみたいだから、今日はあえての「セダン」そして「ガソリン」を選んでみたんだ。
助手75:初めて見たけどセダン、きれいですね。惚れ惚れしちゃう。で、この色はなに?
ヒトシ君:マシングレープレミアムメタリック。舌噛みそうだな。うん、いい色だね。
助手75:エンジンはなに? この前、じつはディーゼルのファストバックには試乗……まぁ限りなく同乗? したのよ。
ヒトシ君:ガソリンの2.0ℓエンジン。SKYACTIV-G2.0だね。マツダ3のセダンでガソリンエンジンとなるとFFだけなんだ。トランスミッションは6速ATね。じゃあ、さっそく行ってみようか。
助手75:その前にやることあるでしょ。じゃんけんしてお昼ご飯の決定権を決めないと!
助手75:わーい、勝った勝った! 今日はね、行きたいところがあるのよ。熱海よっ。熱海にジェラートを食べにいくわよっ!
ヒトシ君:ヲイヲイ、それはご飯じゃないだろうよ。よし、わかった。じゃあそっち方面で美味しい麺を食べに行こう。へへへ、嫌な顔すると思ったよ。言っておくけど、今日はラーメンじゃないよ。伊豆の方にい~い感じの蕎麦屋があるのよ。よし行こう!
と、マツダ横浜R&Dセンターを出発。クルマに乗り込んだふたり。まずは、インテリアの質感の高さに驚く。
助手75:このインテリア、すっごくいいですね。シートの色も、ダッシュボードのしぼの感じも、「高級」な感じがします。
ヒトシ君:これ、マツダだよね。インテリア、格段によくなってるね。見てよ、このあたり(と言って、センターコンソールのエアコンの操作パネルを撫で回す)。いいよね。ここらへんのタッチなんてマツダとは思えないよ。なんだか、古いパソコンのキーボードが高級な新品に替わった感じだね。今回はセダンにしたんだけど、75、どう?
助手75:すっごくきれい。ファストバックがかっこいいと思ってたけど、セダン、アリ。というか、セダンの方が美しいです。でもね、いまのところの受注を見ると8割がファストバック、セダンは2割なんですよ。
ヒトシ君:そうなの? オレもじつはセダンの方がいいなぁって実物を見て思ったよ。派手めで化粧もばっちり、最新のファッションアイテムで身を固めた誰もが認めるファッションモデルみたいな妹・ファストバックに対して、ちょっと地味だけど、見れば見るほど凜とした美しさがある和服美人っていうのが、このマツダ3のセダンじゃない?
助手75:ヒトシ君にしては、なかなかうまい表現ね。アタシっぽいってことね。
ヒトシ君:……。
助手75:それにしても、セダン、いいわぁ。
ヒトシ君:じゃあ、エンジンをかけるよ。やっぱりガソリンエンジンは静かだよ。SKYACTIV-Dもディーゼルにしてはとても静かだけど、ガソリンに比べたら音がするからね。
ふたりを乗せたマツダ3セダンは、第一京浜から首都高へ。そこから横浜新道~保土ケ谷バイパスと進んでいく。しかし! 保土ケ谷バイパスは大渋滞。時間がどんどん過ぎていく。心なしかヒトシ君の顔色がすぐれない。
助手75:ん、スタートしたばかりだけど、眠いの? お腹空いた? アタシは激ヘリ。
ヒトシ君:たしかに腹は減った。が、そんなことじゃない。んんん? いやなんでもないよ。マツダ3セダンのデザイン、オレにとっては、えーとあのクルマ、あ、そうそう、ユーノス800以来のベストデザインだな。
助手75:ユーノス800。またもや古い! けど、知ってる。ムカつく! まぁ、それは置いておいて、デザインはすごくいいんだけど、なんだか乗り心地が悪くないですか? 路面が悪いと跳ねる感じ。ディーゼルのファストバックもやっぱり乗り心地が悪かったんですよ。でも、指定空気圧より下げてみたら改善していい感じになりました。
ヒトシ君:そうなのか。この乗り心地は、タイヤが原因じゃないかと思うんだ。マツダはタイヤのサイドウォールの剛性を下げた専用タイヤを使うことにしたんだけど、それがうまくいってない気がする。このあたりは、オレの試乗記を読んでほしいな。このコンセプトのタイヤより、しっかりサスペンションを動かしてあげられるタイヤの方がいいかも。
助手75:お、ヒトシ君、ジドウシャジャーナリストっぽいジャン。
ヒトシ君:だから、この道30年だって! キミくらいよ、敬ってくれないの。
助手75:むぅ……たまらん……たまらんっ! 非常食を食す!
そう言うや否や、大きいバッグをゴソゴソとし始め、チョコレートの袋を取り出すと、すごい勢いで食べ始めた。もちろん、独り占め。ヒトシ君、ドン引き。
空いた東名を西へ。100km/h 巡航時のエンジン回転は約2000rpm。ディーゼル搭載車と同じ。6速ATのギヤ比は、最終ギヤレシオも含めて共通だ。
助手75:高速で走っていても車内は静かね(少し落ち着いた)。
ヒトシ君:うん。シートの落ち着きがいいね。マツダがいろいろ説明してくれているとおり、確かに骨盤は落ち着いている。お尻の中心点はずれないね。ベストな運転姿勢がとれる。ハンドル操作が右と左で同じようにできる。これって、簡単なようでなかなかできているクルマは少ないんだよ。でも、もうちょっと厚みがあってもいいかな。
助手75:助手席の座り心地はいまいちかな。運転席と助手席は作りが違うのかしら?
マツダ3は東名・長泉沼津ICを降りて伊豆縦貫自動車道へ。月ヶ瀬ICを降りるまで、珍しくヒトシ君は無口で運転に集中している。休憩なしで走る走る。滅多にない真顔で、心なしかその横顔には焦りが見える。そろそろ目的地に近づいてきたと思ったら……。
ヒトシ君:うぁわぁあああああああ!
助手75:な、なにっ!?
見ると、お店には「完売」の大きな看板が。
助手75:145kmも走ってきて完売とはコレ、どーすんの? え? まだ13:10なのに、完売なの?
ヒトシ君:こうなるかもと思ってちょっと心配してたんだけど、まさか現実のものとなるとは……ごめん。どうしようか。このあたりだと14時過ぎるとお昼ご飯食べ損ねるよ。
助手75:(スマホで検索しながら)この先に石窯ピザっていうのがありますよ。ここはどう?
というわけで、国道156号をさらに西へ。バスの中でピザを作るなかなか雰囲気のあるレストランを目指す。
そこでヒトシ君、地元の人に美味しいお店を聞き込み調査。すると峠を越えた土肥のお店を紹介された。
ヒトシ君:よし、場所わかったよ。行こう!
明らかにお腹が空いて不機嫌そうな75を気遣うヒトシ君。センセーなのに……。
峠を越えて、ようやく紹介してもらったお店「さくら」にたどり着く。暖簾がかかっている! 車内は安堵の空気に包まれた。
隣の席の若人グループが「美味しかったです!」と出て行くテーブルの海鮮丼らしき器を横目に、ヒトシ君はアジ天重、75はエビ重を注文する。これがまた美味し。無言で食べ続ける。
怪我の功名で美味しいランチにありつけたふたり。75の機嫌も直り、海沿いの県道17号を北上。そこからは熱海を目指してワインディングセクションが続く。
ヒトシ君:なんか、エンジンのレスポンスが悪いんだよな。直噴ガソリンなんだから理論上はポート噴射よりレスポンスがいいはずなのに、なんだか国産の直噴エンジンはそこがいまいちな気がする。これならディーゼルの方がいいかな。156ps/199Nmだからパワー感はこんなもんかな。速くはないけど、ハンドリングは悪くないよ。75、さっき食べた海老天丼の海老の尻尾が口からでてきそう?
助手75:ダ、ダイジョブです。ムヒ~ッ。
ヒトシ君:こういうツイスティなコースは、ノーマルモードだと変にシフトアップとかしちゃうから、スポーツモードの「Dレンジ」で走る方がいいね。パドルを使ってマニュアルモードにすると変速のタイムラグが出ちゃうから。ギヤ段固定でアクセルワークで走るのが楽しいよ。そうだ、75も運転してみよう。
助手75:あ~、言われると思った。え~、西伊豆スカイラインじゃない! まぁ、そう言われるかもと思って、ちゃんとドライビングシューズ、持ってきましたけどね。偉いな、ワタシ。
ヒトシ君:そのデカいバッグには、そういう無駄にいろいろなものが入っているのね……。
とにかくビビりな75、広報車の運転はどうにも慣れない。靴を履き替えるとおっかなびっくりシートに身を沈め、ポジションを取る。
助手75:ん? んんん!? なんだか運転する前からいい感じです。ポジションが取りやすい!
ヒトシ君:うん。マツダは、考えられているよね。じゃあ、行ってみよう!
そろそろと動き出す車両。
助手75:うをっ! なにこれ、運転しやすい! 死角も感じないし、思ったとおりにトレースしてくれる。すごい! ファストバックでは、Cピラーのところがどうにも邪魔で運転に自信がないとハードル高いなって思ったのだけど、コレはいいよ、いいっ!
すっかりマツダ3に惚れ込んだ助手75は、調子をこいて結局熱海までドライブ。熱海の狭い温泉街も全幅1795mmで車両感覚が取りやすいマツダ3なら75でもスイスイと運転できた。そしてお目当のジェラテリアへ到着。麺じゃないとすっかりやる気をなくすヒトシ君を無理やりクルマから引き摺り下ろす。
助手75:さぁ、着きましたよ。こちらのジェラートは、すべて地の素材を使ったジェラートで、とっても美味しいんです。聞いていますか? 聞いてないな、仕方ない。では~、ここは〜、75が払います。好きなものを選ぶがよいっ!
ご馳走すると言った途端、やる気MAXになるヒトシ君。18種類のジェラートケースを真剣に眺めて「丹那ミルク」と「おいCベリー」を75はこなれた感じで「アイコトマト」と「スイカ」をチョイス。「うまっ!」「でしょ」 という会話をしながらしばし、休憩。そうこうするうちに、すっかり日も暮れて……。
ヒトシ君&助手75:楽しかった~。なんだか遅い夏休みを取れた感じ。マツダ3セダン、いいね。
ヒトシ君:さあ、まとめに入ろうか。まず、ファストバックとセダン、どっちがいい?
助手75:それは断然セダンですね。運転のラクさもさることながら、この落ち着いたセダン、とっても綺麗。よくよくみたらものすごく綺麗な人がいたって感じ。
ヒトシ君:うん、オレもそう思う。ファストバックはすごくカッコよくて美人だけどもしかしたら3日で飽きるかもしれない。ファストバックには軽快感はあるけど、ボディのしっかり感はセダンの方がちょっと上。パッケージング、使い勝手もファストバックの軽快さを上回る魅力があるね。
助手75:あとはトランクの大きさにびっくり。なんでも積める感じですよね。家族4人の旅行なんて楽勝って感じ。それでいて全体のスタイルが美しいんだから、言うことなし! あ、でも乗り心地は今後に期待かなぁ。
ヒトシ君:エンジンは今日乗った2.0ℓのガソリン?それとも1.8ℓのディーゼル?
助手75:ワタシは、ディーゼルのほうがいいんじゃないかと思っているの。このセダンでディーゼルがいいかな。
ヒトシ君:オレも最初、そう思ったんだけど、今日1日3人で乗ってみて(編集部注:撮影担当が同乗してます)意外やよく走ったじゃない? NA(自然吸気)ってこんなもんだからさ、ターボが欲しくなるって気持ちもわかるけど、直噴ターボの輸入車系はみんなハイオク仕様。このガソリンはレギュラー仕様だよ。力の燃費・経済性、そして走りのバランスを考えると、マツダ3の2.0ℓガソリン、アリじゃないかと認識を改めた。
助手75:なるほど。ガソリンとディーゼルの価格差は27万円なのね。って考えると2.0ℓガソリン、確かにいいかも。
ヒトシ君:マツダ3って、いわゆる「ブレッド&バターカー」で、なんとか風高級フランス料理ってクルマじゃないじゃん。でも、新型マツダ3はブレッド&バターなんだけど、すごくいいバターといいパンなんですってことなんじゃないかな? 毎日つき合っていくクルマだよね、これ。毎日乗っていたら乗るほどに好きになっていく。さっき、一見地味だけど見たらすごく美人だった。そんな綺麗な人とずっと暮らせる。つき合えばつき合うほどご飯も美味しい、っていう意味ではうまくできているんじゃないかな。
助手75:でも、ですよ、でも。重要なことがあります。このクルマにはSKYACTIV-Xっていう飛び道具が待っているんですよね? 飛び道具、待つべきですか?
ヒトシ君:じつはオレさ、これまで「マツダ3は、X待つのがスジだ」って散々言ってきたんだよ。「トルクはあるけどレスポンスに難のあるディーゼルと、回っても力が出ないガソリン、やっぱりX待つしかないでしょう」って。でも、今日3人で乗ってみて、そこそこ走っているじゃない? そこって特別大事なポイントじゃないのかなって気がちょっとするね。X待たずして、いまのエンジンラインナップのなかでベストチョイスがあるような気がする。
助手75:それがディーゼル?
ヒトシ君:うん。でもガソリンもアリっていうのが今日の感想かな。Xっていくらだっけ?
助手75:G2.0とD1.8の価格差は27万円、G2.0とXの価格差は67万円、D1.8とXの価格差は40万円です。
ヒトシ君:ええっ2.0ℓガソリンとXは67万円も違うの? SKYACTIV-Xへの期待ばっかり膨らんでいるけど、価格差を考えるとそこまでの価値はあるかな。まだ乗れていないからわからないけど、今日ガソリン仕様に乗ってみて、ガソリン、ディーゼルともにいいから、「X待たずに早く乗ってよかったじゃん」ってなるような気がする。お値打ちですよ、ガソリンのセダン。
おもむろに電卓をバッグから取り出す助手75。先日の電卓とは違う。一体、電卓のラインナップがどれだけあるんだと苦笑いするヒトシ君を横目に例によってパチパチし始める75。
助手75:えーと、今回の試乗での400km走って燃費が11.8km/ℓでした。カタログ燃費がWLTCモード燃費15.8km/ℓです。今回はだいぶワインディングで気持ちよく走ったから、普通に乗ったら燃費はもうちょっと伸びるでしょ。前の試乗でディーゼルのファストバックに乗ったときはカタログ燃費が19.8km/ℓに対して実燃費が17.1km/ℓだったから~、ガソリンも86%程度の達成率があるとするとガソリンは13.6km/ℓくらいが現実的だと思うんです。そうするとレギュラーガソリン1ℓ=140円、経由1ℓ=120円とすると……(パチパチ)
ガソリンエンジンだと1km走るのに10.3円
ディーゼルエンジンだと1km走るのに7.0円
ってことになります。これで計算するとガソリンとディーゼルの価格差27万円を燃料代で取り戻すには8万2000kmくらい走らないといけないってことなんです。ってことは、ですよ。って聞いてます?
ヒトシ君:聞いてる聞いてる。
助手75:ってことは、年間1万2000km走る人でも7年近く。一般的な平均走行距離は7000kmだっていうから、そうなると11.7年もかかっちゃうんです。逆に言うと年間1万6000kmくらい走る人ならディーゼルもいいかも(5年で価格差を燃料代の差額で取り戻せる)ってことになります。
ヒトシ君:なるほどねぇ。75はお金の計算になると途端にやる気を出すねぇ。じゃあ67万円の価格差でしかも指定燃料がハイオクになるSKYACTIV-Xだと、燃費・燃料代でそれを取り戻すのは不可能だね。話を元に戻すけど、結論を出すと、今回のマツダ3セダン、ガソリンエンジン搭載モデルの最上級グレードで車両価格270万円っていうのはお値打ち、ってことだね。
助手75:ギョイ。
ということで、満場一致で太鼓判。マツダ3セダンの試乗を終えたのでした。それではまた次回、お会いしましょう~。
【本日のルート情報】
マツダ横浜R&Dセンター(神奈川区守屋町)第一京浜〜首都高。横浜新道~保土ケ谷バイパス〜東名・長泉沼津IC〜伊豆縦貫自動車道・月ヶ瀬IC。お昼を求めて国道156号をさらに西へ。無事に食事をした後、海沿いの県道17号を北上〜西伊豆スカイラインを経由し、熱海へ。
【本日のオイシイモノ情報】
伊豆土肥温泉「食事処 さくら」
静岡県伊豆市土肥690-8
0558-98-0813
11:00~20:00
不定休(電話にてご確認を)
SPECIFICASIONS
マツダ3セダン 20S L Package(2WD)
全長×全幅×全高:4660mm×1795mm×1445mm
ホイールベース:2725mm
車重:1350kg
サスペンション:
F|ストラット式
R|トーションビーム式
駆動方式:FF
エンジン
形式:2.0ℓ直列4気筒DOHC
型式:PE-VPS型(SKYACTIV-G2.0)
排気量:1997cc
ボア×ストローク:83.5×91.2mm
圧縮比:13.0
最高出力:156ps(115kW)/6000pm
最大トルク:199Nm/4000rpm
燃料供給:筒内燃料直接噴射(DI)
燃料:レギュラー
燃料タンク:51ℓ
燃費:
WLTCモード燃費 15.8km/ℓ
市街地モード 12.0km/ℓ
郊外モード 16.0km/ℓ
高速道路モード 18.2km/ℓ
トランスミッション:6速AT
車両本体価格:270万3000円
※試乗車はオプション込み292万3300円
apparel(75)|shirt :ENFOLD/skirt:MADISONBLUE/shoes:PIPPICHIC/driving shoes:CHANEL