人生100年時代と叫ばれる中、将来に備えて貯蓄や資産運用が求められている。けれども、「いま、この瞬間しか楽しめない」ことがあるのも忘れてはならない。「BMW・M2コンペティション」に乗って、その大切さを噛み締めた。
TEXT●今 総一郎(KON Soichiro)
金融庁の報告書によると、人生100年時代を迎えるにあたって、夫(65歳以上)/妻(60歳)以上の無職世帯で30年間生き続けるには2000万円が必要であり、支出の見直しや資産運用を行なう必要があるそうだ。
もはや生まれた瞬間から老後に備えなければならない。お年玉も、お小遣いも、働いて得た賃金さえも、すべて貯蓄に回さないとジリ貧になるのだろう。
暮らしは質素になるばかりだ。朝起きたら一杯の白湯を飲み、食事は三食とも塩を少々振りかけたサラダを食べ、暇さえあればジョギングするような日々が迫っていても不思議ではない。にも関わらず「BMW・M2コンペティション」に乗ろうものなら、質素倹約で良識と正義感に満ちた善良な一般市民から一斉に糾弾されそうだ。
「反逆者であれ」
それにしても乗り心地が悪い。専用に強化されたサスペンションもだが、シートが硬すぎて、衝撃が骨の髄まで響く。速度が上がれば多少マシになると思って、アクセルを踏んだところ……2000rpmを境に突如牙を剥いてきた。飼い犬に手を噛まれたとか、そんな可愛いレベルではなく、添い寝していたペットの虎が喰い殺しにきたような感じだ。目の前の状況に着いていくのがやっとと思えるほど、強烈に加速していく。乗り心地など考える余裕はない。
彼方に見えていたコーナーに吸い込まれるようにストレートを貫き、コーナー入り口でなんとかブレーキッ! すると、今度は後ろから引っ張られたように強烈に減速する。ハンドルを切れば、荷重が掛かった前輪を軸にクルッと向きを変える。タイトコーナーでもアウト側は粘り強く踏ん張り、コーナーの出口が見えれば怒涛のトルクを後輪に叩き込んで、再びストレートへ突入していく。
力の入れ具合さえ掴めてしまえば、加減速から操舵に至るまで自由自在にコントロールできる。過激なエンジンだけが目立っているのではなく、一連の動きのまとまりが良いのだ。メインボーカルのエンジンだけでなく、ブレーキやサスペンションもギタリストやベーシストとしてバンドを支えており、身体の芯にズンと響くような厚みと表現力に浸れる。
老後の蓄えの半分に相当するが……
価格は6速MTが876万円、7速DCTが901万円と、老後の蓄えの約半分に相当する。
しかし、結局のところ、人生100年の後半はエコランを強いられるのだろう。どんなに長く生きるとしても、いずれはスポーティなシートに収まるのがキツくなるほど下っ腹が出て、アナログメーターが示す数値が分からなくほど老眼が進み、6速MTのクラッチを踏めないほど足腰は弱まり、運転に必要な判断力と運動能力を失う。