ロータリー復活!とマスコミがざわめきだった2018年10月2日の「電動化とコネクティビティの技術戦略」。そこにおいて、ロータリーエンジンを搭載するEVが登場するとアナウンスされた。燃費が悪いというイメージの強いロータリーエンジンと環境性能第一のEVという組み合わせ、果たしてどのような狙いと効果があるのだろうか。
TEXT:安藤 眞(Ando Makoto)
マツダはかねて、ロータリーエンジンを発電機に利用するレンジエクステンダーEV(補助発電機付き電気自動車)を2020年に発売すると公表していたが、それが「少なくとも一年間」の延期となった。理由はコストの未達と開発マンパワーの不足とのこと。台数が見込めないレンジエクステンダーEVに専用のロータリーエンジンを搭載するとなると、投資償却のハードルは上がるが、それは始める前からわかっていたこと。となれば、それ以外にコストダウンの障壁があった、ということだろうか。
ロータリーエンジンは燃焼室が移動しながらサイクルが進むため、冷却損失が大きく、熱効率の点でレシプロエンジンに勝てる日は恐らく来ない。しかし、ローターひとつでレシプロ2気筒分の燃焼サイクルが進むため、体積/出力比が小さく、搭載場所の確保には都合が良い。熱効率にしても、発電専用に負荷と回転数を絞ってチューニングすれば、レシプロに大きく劣ることはなく、振動騒音面での優位性なども考慮すれば、車両全体としてはメリットが得られる。会社のレガシーであるロータリーエンジンを存続させるには、レンジエクステンダーは悪い選択肢ではない。
ロータリーエンジンといえば、マツダは水素ロータリーの開発も進めていたはずだが、水素は体積エネルギー密度が低い(70MPaに圧縮しても、ガソリンの6〜7分の1)ため、航続距離の点ではFCV(燃料電池式電気自動車)と同じ問題を抱えてしまう。インフラ整備の問題なども考慮すると、この道で生き残りを図るのは難しいだろう。
ならば、マツダ得意のディーゼル化で、と思っても、燃料を噴射拡散させながら燃焼が進むディーゼルサイクルと、燃焼室が移動しながら燃焼行程が進むロータリーでは相性が悪い。また、低回転で筒内流動が高まりにくいがために低速燃費が悪いロータリーと、筒内流動を利用してPMを燃やしてしまいたいディーゼル燃焼との相性も良いとは言えない。さらに、高い燃焼圧力を継ぎ目の多いシールで密封しなければならないことなども考えると、実用化するのは困難だろう。
となれば、やはりレンジエクステンダー用として生き残るのが唯一の道のように思える。昨年、北米の家電ショー(CES)で、トヨタがフリート用の自動運転EVのレンジエクステンダーとしてマツダのロータリーエンジンを搭載したコンセプトカーを発表したが、フリート用で自動運転なら充電マネージメントは可能なはずで、わざわざレンジエクステンダーを搭載する必要はない。しかも、充電なら非接触式を利用して自動化できるが、ガソリンの給油はそうはいかないことも考えると、とても本気だとは思えない。
となれば、マツダのレンジエクステンダーEVをそのままトヨタにOEM供給し、スケールメリットでコストダウンを図るというのが、もっとも現実的ではないだろうか。