ボッシュは、早ければ来年中に完全なカーボンニュートラルを実現できる見込みとなった。世界中の400を超える拠点、およびそれらのエンジニアリング/製造施設や管理センターではそれ以降、カーボンフットプリントがゼロとなる。これにより、ボッシュはこの野心的な目標を1年あまりで達成する初の大手企業となる。
ボッシュ取締役会会長のフォルクマル・デナー氏は「私たちはクライメートアクションを会社全体の責任と捉え、今こそ行動しなければならないと考えています」と述べている。カーボンニュートラルを迅速に達成するために、ボッシュは近い将来グリーン電力の購入量を増やし、CO2の排出を防ぐことができない分に対してカーボンオフセットを実現する予定。さらに、ボッシュは2030年までに、発電および購入する電力における再生可能エネルギーの割合を段階的に引き上げ、拠点のエネルギー効率を向上させるために約10億ユーロを投入する予定だ。
ボッシュがこのカーボンニュートラルを達成すれば、大気中のCO2濃度に悪影響を及ぼすことがなくなる。これは、2015年に採択された世界の平均気温上昇を産業革命以前から最大で 2°C以内に抑える努力を求めるパリ協定にも大きく貢献する。「一人ひとりが気候変動対策に貢献する必要があります」とデナーは述べている。
■ カーボンニュートラルの早期達成を目指す迅速なアクション
ボッシュなどの製造業に携わる企業は、グローバル規模でCO2オフセットに大きく貢献することができる。国際エネルギー機関(IEA)の報告によると、製造業が世界のCO2排出量の約32%を占めているとされている。ボッシュは現在、年間約330万トンのCO2を排出しているが、2007年に設定した数値からすでに約35%の削減を実現している。「私たちはゼロからスタートしているわけではなく、CO2排出量の相対的な削減という目標を常に達成してきました。そして今、絶対的な目標を達成する時がやってきました。目標達成までの最後のカウントダウンが今始まっています」とデナー氏は述べている。
■ 持続可能&再生可能な電力の供給に注力
ボッシュは2020年以降、他社が既存の工場で発電するグリーン電力の余剰分を購入し、さらにカーボンオフセットプログラムへ参加することで、大気中に残留するCO2と排出を回避できないCO2を相殺していく予定。ボッシュは、世界の社会的および生態学的な発展を支えるために、厳しい基準に裏付けされた環境プロジェクトへの投資を進めている。カーボンオフセットは2030年までに段階的に廃止し、ボッシュはその間に再生可能エネルギーへの投資を加速させる予定。また、インドのナシクとビダディの各工場に設置されているような自社所有の太陽光発電システムも増やしていく予定で、これによりエネルギー容量が10倍に増えると見込んでいる。ボッシュはまた、国の補助制度を利用せずに黒字経営を実現している世界各地の新興の風力/太陽光発電所と長期的なサプライヤー独占契約を結んでいくことも考えている。デナー氏はさらにこう補足している。「クリーンな電力は再生可能エネルギーへの、実現可能でなおかつ補助金に頼らない転換に寄与します」
■ IoTソリューションを導入し、エネルギー効率向上するために約10億ユーロを投入
エネルギー効率の向上は、カーボンニュートラルを実現するための重要な要素となる。そこで、ボッシュは今後10年で、自社の工場やビルのエネルギー効率を向上させるために約10億ユーロを投入する予定。「私たちは、設定した数値との単なる比較ではなく、電力消費量とCO2排出量の絶対的な削減を目指します」とデナー氏は述べている。ボッシュは2030年までに、年間約1.7テラワット時のさらなる節電を実現しようとしている。この節電量はボッシュの現在の年間電力消費量の5分の1以上にのぼり、ドイツ・ケルンの一般世帯全体の電力消費量に匹敵する。ボッシュは長年にわたり、環境に配慮した実務管理の実現を追求している。ボッシュは、2018年だけで約500のエネルギー効率向上プロジェクトを展開し、電力消費量を約1.5%削減した。また、コネクテッド・マニュファクチャリング(ネットワーク化された製造)も効率性を向上させる重要な要素。ボッシュはすでに、自社のインダストリー4.0ソリューションポートフォリオの一部となっている独自のエネルギープラットフォームを世界各地の30以上の工場に導入している。このプラットフォームはクラウドベースのソフトウェアソリューションで、単一の各装置の電力消費量を監視・制御することができる。
■ 経済的、そして社会的にもプラスにつながる気候変動対策
ボッシュは2030年までに、グリーン電力の購入、カーボンオフセットプログラムへの参加、再生可能エネルギーからの電力調達のために10億ユーロを投資するのと並行し、社内のエネルギー効率を向上させるために同じく10億ユーロを投資する予定。この投資によるエネルギー効率の向上で、約10億ユーロに上る節電を実現でき、カーボンニュートラルを実現するためにかかる支出が2030年までに約20億ユーロから約10億ユーロに抑えられると予測している。「カーボンニュートラルは実現可能です。決意を持って実行していけば、迅速に達成することができます。私たちが行う投資は、ボッシュだけでなく、人類にとっても意味があることなのです」とデナー氏は述べている。
ボッシュにおける事例
■ フォイヤバッハ工場:人とシステムの力で省エネを実現
ドイツのフォイヤバッハにある工場は、世界中にあるボッシュの工場の中で最も長い歴史を持っている。1909年に開設した同工場は、設備の近代化を体系的かつ着実に進め、ボッシュ全体のエネルギー効率の向上に寄与している。また、フォイヤバッハのチームは「Energieerlebniswelt(エネルギーエクスペリエンスワールド)」という名の講習会を開き、従業員の意識向上を図りながら、エネルギーのモニタリングも続けている。同工場は、熱回生、ルームオートメーション、装置の電源遮断管理のために各種システムを導入しているほか、改修プロジェクトを展開し、大きな成功を収めている。必要な電力量は2007年と比べて50%以上低減し、CO2排出量も当時設定した数値と比べて47%低減している。
■ ホンブルク工場:節電のためにデータを活用
ドイツ・ザールラント州ホンブルクにあるボッシュの工場は、エネルギー効率の優れた自己学習型工場というコンセプトのもと、この2年で約5,000トン、2007年からだと2万3,000トンを超えるCO2排出量の低減を実現した。これを成し遂げる要因となったのは、卓越した透明性と画期的な技術を結びつけたアプローチ。ボッシュが開発したエネルギー管理プラットフォームは、約1万の測定点で収集した装置の各種データを活用しており、従業員はそれをもとに、各装置の電力消費量の監視・制御・最適化を行うことができる。この技術的ソリューションには、状況に応じた製造フロアの換気、さまざまな加工プロセスで生まれる廃熱の活用、装置のスマートな電力消費管理機能などが含まれている。
■ レニンゲン工場:グリーンルーフ(植物に覆われた屋根)と太陽光発電システムを導入し、カーボンニュートラルを達成
ドイツ・レニンゲンにあるボッシュの工場は、2019年1月にカーボンニュートラルを達成した。同工場は、暖房で燃焼した天然ガスのカーボンフットプリントを完全に相殺するために、グリーン電力を購入して必要電力量に充てているほか、ビルの屋上に設置した460個の太陽光発電モジュールにより、工場で使用する電力を賄っている。ビル内の温度を調整しやすくするために、研究開発センターの屋上は緑で覆われている。また、地下には容量3,600立方メートルの貯水槽があり、このグリーンルーフを通った雨水をここにいったん集め、空調の冷却塔で再利用している。このグリーンルーフはまた、直射日光を遮り、屋根に過度な熱が溜まるのを防ぐ断熱材としての役割も担っている。こうした対策により、建物の空調に必要な電力を約20~30%低減しています。さらに、年間約2万立方メートルの飲料水を節約できるよう、同工場には浄水場も併設されている。
■ ロデー工場:持続可能なバイオマスエネルギーを利用
フランス・ロデーのボッシュ工場は、工場から排出されるCO2を削減するという目標を掲げ、2009年から計画を立て始めた。同工場は2013年からバイオマス燃焼システムを導入し、持続可能な森林経営を進め、認証を受けている地元企業から購入したウッドチップを利用している。ロデー工場はその燃焼エネルギーを活用して、水を熱し、プロセス熱を生成している。ウッドチップを主燃料にした同工場は平均して、工場の熱要件の90%をこのシステムでカバーしている。同工場は年間約6,600トンのウッドチップを消費しているが、この燃焼によって発生するCO2の量は、木が大気から吸収するCO2の量よりも低く抑えられている。これにより、同工場はCO2の年間排出量を約600トン削減している。
■ インドのビダディ工場とナシク工場:自家発電でカーボンフットプリントを低減
ボッシュ・インドは、地元で入手できる天然のエネルギー資源を活用しながらカーボンニュートラルを目指している。ナシクの工場は、日中の間は再生可能エネルギーだけで工場の電力を賄えるようにするという目標を掲げ、2015年から太陽光発電システムの設置を開始した。今では屋根、駐車場や広場に設置したソーラーパネルの数は5万枚に上り、同工場の必要電力量の約20%をこれで賄っている。同工場は、CO2排出量を約2万3,000トン低減し、2015年から約2万5,000メガワット時の節電を実現している。この数字は、インドの約2万3,500世帯分の電力消費量に相当する。また、ボッシュは地球にやさしいモジュール洗浄ソリューションも開発した。このシステムでは、洗浄に使用する水は地球にやさしい方法で浄水され、数回にわたり再利用している。
ナシクから約1,100km南に位置するビダディにある工場も同様に太陽光発電を導入し、必要電力量の約30%を太陽光発電で賄っている。これは野菜やハーブを栽培するための理想的な条件ともなっていて、工場の食堂では採れたての食材を使ったメニューを提供している。同工場は、太陽エネルギーを有効活用するだけでなく、雨水が小さな湖に注ぎ込まれるようにし、周辺で暮らす人々により多くの水が供給されるよう配慮している。
■ メキシコ:再生可能エネルギーを主要なエネルギーとして活用
メキシコ政府はエネルギー政策の刷新を打ち出し、2024年までに国内のクリーンエネルギーの割合を35%まで引き上げるという目標を掲げている。メキシコの気候や地理的条件は太陽光発電や風力発電に向いており、変化につながる確かな基盤となって、政府や企業はその目標に向けて積極的に取り組もうとしている。ボッシュも、この流れの一翼を担っている。サンルイスポトシ州にあるドミニカ風力発電所から供給された電力だけで、メキシコにあるボッシュの拠点全体に必要な電力の80%以上を賄うなど、かなり高いレベルをすでにクリアしている。ボッシュ・メキシコは、主要なエネルギーを再生可能エネルギーに切り替えることで、2018年にCO2排出量を5万6,000トン削減することに成功した。