ホンダの軽自動車Nシリーズの生産拠点である鈴鹿製作所。そこでは、SKIというプロジェクトが進行している。開発、生産、セールスまでが一体として機能することで、より効率的で新しいクルマづくりが可能になるという。
TEXT◉鈴木慎一(MFi)
PHOTO◉HONDA
ホンダの鈴鹿製作所は、鈴鹿サーキットのすぐ隣にある。という言い方は正しくない。鈴鹿サーキットより先に鈴鹿製作所が作られたのだから、鈴鹿サーキットが鈴鹿製作所の隣にある、というのが正解だ。
2018年12月に、鈴鹿製作所の生産ラインが報道陣に公開された。筆者が以前鈴鹿製作所の取材をしたのは、本誌を創刊した2006年のことだったから、12年ぶりの再訪となった。この間、リーマン・ショックを挟み、鈴鹿製作所は大きく変わった。世界中に存在するホンダの工場にとってスタンダードとなるパイロット工場の役割は変わらないが、現在は、Nシリーズをはじめとする軽自動車の一大生産拠点となっている。鈴鹿製作所が軽自動車をメインに、埼玉製作所寄居工場が小型車を集中生産、狭山工場が10車種以上を混流生産している。
タイトルにある「SKIプロジェクト」とは「鈴鹿・軽・イノベーション」の頭文字をとったものだ。「生産現場近くにSEDが一体となること」を意味している。Sはセールス、Eはエンジニアリング、Dはデベロップメントを意味する。
SKIプロジェクトがスタートしたのは2012年。リーマン・ショック後の需要縮小と輸出による海外依存からの脱却、そして国内での事業の確立が急務となっていた頃だ。ホンダの軽自動車も、事業として存続の崖っぷちにいたといっていいだろう。そこでスタートしたのが、SKIプロジェクトであり、軽自動車のNシリーズだった。11年に発売されたN-BOXは、大ヒットを記録、その後のN-ONE、N-WGN、N-VANというNシリーズの快進撃に繋がった。
現在の鈴鹿製作所では、SKI運営体制として、Q=品質、C=コスト、D=調達、D=開発、S=営業を一括管理できる体制となっている。
さて、その鈴鹿製作所である。第2世代Nシリーズをターゲットに工場は進化している。部品のモジュール化、共用化、新技術による高効率化、自動化を進め、工数の削減に取り組んでいる。
まずは溶接工場だ。溶接工場は、2017年に設備を刷新し、すべてロボット化、ライン長も大幅に短縮されている。驚いたのはN-BOXのルーフの接合工程だ。N-BOXは、ルーフとサイドパネルが、通常のスポット溶接によるモヒカン構造(ルーフに溝がありそこにモールをはめ込んで目隠しする)ではなく、レーザーブレージングで接合されているのだ。VW/アウディの各モデルで積極的に採用されているが、国内では高級車でもモヒカン構造が一般的で、まさか軽自動車にレーザーブレージングが使われているとは思ってもみなかった。ホンダ車でルーフにレーザーブレージングを使うのは、ほかには北米のアコードだけというから、いかにこれが画期的なのか、わかるだろう。
ボディの接合方法は、このレーザーブレージングのほかに、通常の抵抗スポット溶接、MIG溶接、シーム溶接、そして構造接着剤が適材適所で使われている。フロア周りの骨格接合には高粘度接着剤を使う。
溶接工程から塗装工程投入までのリードタイムは約123分。スポット溶接が6工程、シーム溶接、MIG溶接がそれぞれ1工程だ。生産能力は2100台/日だと説明を受けた。自動化率は100%である。
次は、車体組立ライン。鈴鹿製作所全体でいえることだが、設備を汎用化して専用治具をできるだけ使わないようにしている。Nシリーズ共通で組立しやすい仕様として、高効率で作りやすい構造にしているのが見てとれた。油圧を使わず、エアガンも使わないため、従来の工場と比較すると格段に静かなのも鈴鹿製作所の強みだ。
メインラインは、可能な限り共通・汎用化し、モデル毎に異なる部分は、サブ、あるいはサブサブライン化して対応している。ドアのサブラインでは、部品の手元供給が徹底していて、作業員は組み立てに集中できるようになっていた。1枚のドアを組み上げるのに必要な部品は、セットパック配膳エリアで人の手によって揃えられていた。
SKIプロジェクトが進める製造ラインの大幅改善や積極的な新技術導入は、Nシリーズのためだけではない。SKIで成果を上げた技術やシステムを世界中のホンダの工場に水平展開するのも重要な役割だ。リーマン・ショック、軽自動車事業の再生という差し迫った状況を打開するためのSKIが、より大きな果実を生んだわけだ。Nシリーズの開発を統括する白戸清成氏は、SKIのメリットに、「開発、セールス、生産、みんなが机を並べるようになったことが一番大きい」という。より密なコミュニケーションで課題や目標を共有し、協力できたことが大きかったという。クルマづくりとは、結局、最後は人、なのである。