昨年末に満を持して登場したレクサスのフラッグシップサルーン「LS」だが、世界のライバルと比べると、その走りはやや及第点未満だったのは事実。だが、そこは世界のレクサス、8月に先進安全技術の充実、走行性能のテコ入れをしてきた。最新のLSはついに世界のサルーンに匹敵する性能を身に着けたのだろうか? リベンジなるか!?
REPORT◎高平高輝(TAKAHIRA Koki) PHOTO◎田村 弥(TAMURA Wataru)
最近は日本車でも年次改良は珍しいことではない。ただし、性能の基本に関わる部分を発売後1年も経たないうちに、しかも11年ぶりにフルモデルチェンジしたフラッグシップモデルを改良したという話は聞いたことがない。
8月30日にひそやかにLSに加えられた改良は次の通り。まずAWDモデルのダンパーに伸圧独立オリフィスを採用、減衰力可変幅の拡大、摩擦低減によって乗り心地を向上させた。またマルチステージハイブリッドシステムのサウンド、変速制御のチューニング、制振材の追加などにより静粛性を向上させ、さらに運転支援システムの「レクサス・セーフティシステム+」の機能を進化させたという。
実はLSのベースグレードには「レクサス・セーフティシステム+」、それ以外の上級グレードには「レクサス・セーフティシステム+A」という、さらに充実した機能を持つものが備わっている。LSともなれば本来は全車統一で「+A」を装備すべきだ。
11年ぶりに新型となったレクサスのフラッグシップLSに対する期待が大きすぎたのかもしれないが、そのささくれ立った感じの乗り心地とハイブリッド車のエンジン始動の際のノイズと気忙しさについては私自身も不満だっただけに、その点に改良が加えられたことには納得するが、既に購入したオーナーがそう思うかは別問題だ。
ハイブリッドでもAWDでもない試乗車のLS500Fスポーツに関係する改良点は、ダッシュパネルやカウル、フロア、ドアパネルへ制振材を追加したことで静粛性を向上させたことと、低速でのトルク制御を見直してシフトの滑らかさを向上させたことである。
ごくゆっくりと走り出した際の挙動とタイヤの当たりは以前よりも若干滑らかになっているようだ。だが、その先のスムーズさという点では変わらないように感じた。LSでの一番の不満はハイブリッド車のエンジンオン/オフに伴うノイズの高まりとドライバビリティ(微妙なレスポンス)の悪さ、それにリラックスできない乗り心地だったが、新しいLS500でもやはり満足できるレベルには達していない。
LS500Fスポーツ(RWD)は、後輪操舵のLDHに加え、唯一アクティブスタビライザーも備わる最もスポーティな仕様ゆえ、引き締まった足まわりを持つのは理解できるし、そのおかげでスッとコーナーのイン側にノーズが動くステアリングレスポンスはシャープだが、エアサスと可変ダンパーを持つのなら、もっとしなやかな乗り心地を備えてしかるべきだ。422㎰/600Nmを生み出す3.5ℓV6ツインターボも、2.2t以上もある車重に対しては意外に余裕がなく、ついついスロットルペダルを深く踏み込みがちだ。また全開にしてもトップエンドでのパワーの盛り上がり感もいまひとつ、大型サルーンでも飛ばしたいというスポーツ派にもいささか物足りないのではないだろうか。
レクサスLS500 Fスポーツ
■ボディスペック
全長(㎜):5235
全幅(㎜):1900
全高(㎜) :1450
ホイールベース(㎜):3125
車両重量(㎏) :2230
■パワートレイン
エンジンタイプ:V型6気筒DOHCツインターボ
総排気量(㏄) :3444
最高出力:310kW(422㎰)/6000rpm
最大トルク:600Nm(61.2㎏m)/1600〜4800rpm
■トランスミッション
タイプ:10速AT
■シャシー
駆動方式:RWD
サスペンション フロント:マルチリンク
サスペンション リヤ:マルチリンク
■ブレーキ
フロント&リヤ:ベンチレーテッドディスク
■タイヤ&ホイール
フロント:245/45RF20
リヤ:275/40RF20
■環境性能
燃料消費率(㎞/ℓ:JC08モード):10.2
■車両本体価格:1200.5万円
新機軸のハイブリッドシステムの乗り味に驚愕
メカニズム面では新鮮味に乏しいLSとは対照的に、昨年ビッグマイナーチェンジを受けたW222型Sクラスは、見た目はさほど変わっていないが中身には新機軸が多い。特に今年春に追加されたS450は、メルセデスにとってほぼ20年ぶりの直列6気筒エンジンを搭載するのみならず、48V駆動のISGを備えた、いわゆるマイルドハイブッリッドであることが大きな特徴だ。
その意味でLS500Fスポーツと真正面から比較するにはちょっと相応しくないのだが、最近とにかく「走り」を強調するレクサス/トヨタの代表としたことをお断りしておく。
367㎰/500Nmを発生する「M256型」新型直6ターボのアルミシリンダーにはナノスライドと称するカーボンスチールをプラズマ溶射するコーティングが施され、排気マニフォールドと一体化されたツインスクロールターボ一基が触媒と寄り添うようにエンジンのすぐ横に取り付けられている。
エンジンと9GトロニックATの連結部には薄型リングモーター兼発電機(ISG)が内蔵され、減速エネルギーを回収するほか、発進時などでアシストする。またウォーターポンプ、エアコン・コンプレッサーなどは電動式で効率的に作動するアダプティプ型、おかげで補機類を回すベルトは省かれユニット全長はかなり短い。ターボが苦手とする低回転域は電動スーパーチャージャー(eAC)が担当し、発進加速時などはモーターも加わり、排気圧が上がってからの過給はターボが担うという贅沢エンジンである。こちらも車重2tだが、22㎰のモーターアシストのおかげで動き出しは身軽であり、0→100㎞/h加速も5.1秒と駿足だ。
エンジンスターターボタンを押すと回転計の針がメーター上500rpmの位置でピタリと安定する。エンジンの振動、揺動、ノイズの類は冷間時でなければ感じ取れない。アイドリングストップからの再始動、あるいはコースティング状態からの復帰の場合もまったく身震いも音も感じられない。モーター走行とエンジン始動の落差が大きくうるさいLS500hとは天地の差だ。各輪にサブチャンバーが付くエアサスはしなやかながら、ちょっと上下動が大きいと思う人もいるかもしれないが、車速が増すかモードを切り替えればビシッとフラットになる。
スタイリングや内装へのこだわり、さらにシャープなターンインについては別だが、それ以外はすべてSクラスが先行している印象は動かしがたい。高級セダンに求められる快適な移動空間とは何かを考えれば、軍配の行方は明らかである。
※本記事は『GENROQ』2019年1月号の記事を再編集・再構成したものです。
メルセデス・ベンツS450エクスクルーシブ
■ボディスペック
全長(㎜):5125
全幅(㎜):1900
全高(㎜) :1495
ホイールベース(㎜):3035
車両重量(㎏) :2040
■パワートレイン
エンジンタイプ:直列6気筒DOHCターボ
総排気量(㏄) :2996
最高出力:270kW(367㎰)/5500〜6100rpm
最大トルク:500Nm(51.0㎏m)/1600〜4000rpm
■トランスミッション
タイプ:9速AT
■シャシー
駆動方式:RWD
サスペンション フロント:ダブルウィッシュボーン
サスペンション リヤ:マルチリンク
■ブレーキ
フロント&リヤ:ベンチレーテッドディスク
■タイヤ&ホイール
フロント:245/45R19
リヤ:275/40R19
■環境性能
燃料消費率(㎞/ℓ:JC08モード):12.5
■車両本体価格:1363万円