12月7日午後5時、日産がまたもや緊急記者会見を開催した。「完成検査における不適切な取扱いに関するリコールの実施について」。いったい現場では何が行われていたのか、具体的な作業手順と「不適切な取扱い」を想像してみる。
1番および2番の項目についての考察
1番と2番は、おそらく同じ装置を用いるものだと思われる。車検場に行ったことのある方ならご存じかもしれない、タイヤの下に巨大なローラが仕込まれている装置において、「ブレーキを踏む」「ブレーキを放す」というサインとともにブレーキペダルを操作し、制動性能を確かめる試験だ。
ここで何が問題になっているかというと、駐車ブレーキとフットブレーキをないまぜにしてしまっているということ。フットブレーキは前後左右の4輪のブレーキを作動させるための油圧回路になっている。いっぽうで駐車ブレーキは、一般的に後輪のみに利く仕組みになっていて、動作のための仕組みは、近頃採用が進む電動式なら電気回路、小型車に多いドラム式ならワイヤー引きなど、方策が異なる。主ブレーキであるフットブレーキの利きと副ブレーキである駐車ブレーキ、それぞれがきちんと動作するかどうかを調べるための検査ラインが敷かれているのだ。
そのときに、両者を混同してしまう検査員がいたという。聞き取り調査で判明した。「1名」と本田氏は説明していて、彼はフットブレーキのときに駐車ブレーキを2ノッチほど(ということはワイヤー引きのタイプだろう)、駐車ブレーキのときに「つい癖で」ペダルを踏んで──ということをしていたらしい。頻度は1〜2回/日。
しかし、検査は厳密に手順が決まっているので「次はフットブレーキ」「その次は駐車ブレーキ」という具合のはず。そのときに操作しなければならないのはペダルのみ、駐車ブレーキレバー/スイッチのみである。両方を一緒に使うという行為そのものが、まったく理解に苦しむ。さらに、現場ではそれを監督するメンバーもいるはずで、フットブレーキのときの駐車ブレーキ操作は外から見抜けないものの、駐車ブレーキ検査のときのフットブレーキ操作はブレーキランプが灯るため「踏んじゃダメだ」と注意ができるはず。そのような人員配置にはなっていなかったのだろうか。
3番と4番の項目についての考察
少々わかりづらい検査項目だが、説明によれば最大切れ角におけるタイヤの、ホイールハウス内における接触/干渉を確認する項目が3番に示す内容の模様。
マザー工場/リーダー工場の自負から、追浜工場の検査項目は非常に厳密で必要以上に細かかったと本田氏は説明。通常なら設計で、ホイールを最大切れ角まで操舵してもどこにも当たらないというようにしているのだが、厳しい条件付けを自ら課していたために、「いけないときに戻すことがあった」という。
4番の項目は、脚まわりの組み付け精度を確かめる検査だろうか、詳細がわからないのだが、「まっすぐから開始」するべき検査において、左右に操舵してから直進に戻し測定していたという。
こちらも、ユーザー車検ではお馴染みの下回り検査を想起させる内容。車両を直進でピット上に停車させ、舵取り装置を調べるときには地下から「ハンドルから手を離してください」と声がかかる。すると、ピット側でステアリングラックを操作してホイール側/タイロッド側から操舵、手を離したハンドルは勝手にくるくる回っている──という状態になる。
その検査の際に、ハンドルに手を添えていたら、検査に際してまず左右に操舵してから──というふうにしてしまったら意味がない。
5番の項目についての考察
こちらも車検場での検査項目に似通ったものがある。ローラの上にクルマを置き、クルマをその上で加速させて40km/hの状態にし、そのときを見計らってパッシングしてメータの精度を確かめるというものだ。
追浜工場においては、まずローラでホイールを高速まで回し、だんだん60、55、50、45km/h……と回転が落ちてきたところで、40km/hをキープするためにアクセルを操作して1秒以上保持、その状態で天井から吊るされている紐でメータの精度を確かめる検査方法をとっているという。
ところが、この「落ちてきたところで40km/hをキープするためにアクセルを踏む」ときのショックを嫌って、だから「落ちてきたところで40km/hを示した瞬間」で紐を引いてしまうのが不適切な行為だったと説明があった。メータがきちんと実速度を示しているのかを調べるのが本項目の目的であって、そのポイントを一瞬通過したことを確認しただけではまったく意味がない。車検場においても「あ、いま40km/h!」と思ってパッシングしても「速度をキープして」と検査官からたしなめられる。ソリャそうである。
6番の項目についての考察
サイドスリップも車検場では検査する。アライメントのうち、トー角がきちんと設定できているかどうか、その結果として横滑りの度合いが規定内に収まっているかどうかを調べる試験だ。
車検場の検査ラインでは、白線に沿ってクルマをゆっくり直進させる。装置によってクルマは左右に振られるのだが、アライメントがそろっていれば結果としてまっすぐ進むはず。ここではゆっくり、というのがポイントで、アライメントが狂っていても高い速度でクルマの運動エネルギーが強ければある程度はまっすぐ進んでしまう。
その言い訳はないんじゃないの、という感想
質疑応答となると、4度目ということもありマスコミ勢からは相当厳しい意見が頻発した。当然、「なぜ前回の時点から見抜けなかったのか」というところに注目が集まる。それに対して本田氏は工場における作業マニュアルに相当する『標準作業書』について、細かい手順は記載されていたが、やってはいけないことは書かれていなかったという聞き取り調査の結果を示した。
不適切な行為を働いた本人が、標準作業書には「やってはいけないこととして書いていなかったから」やった。もともと不適切とは認識していなかったから、前回の調査ののちにも発覚しなかった。今回、スバルの件が持ち上がったことで判明したという。
正直な感想は「その言い訳はないだろう」である。たとえばブレーキ検査において、先述のように2種のブレーキそれぞれの機能を確かめる目的なのに、混合してはいけないというのは、だれがどう考えてもわかる話ではないのか。身長を測るときに高下駄を履いてはいけないとは書かれていなかったと主張するようなものである。しかもこのケースでは、ブレーキ×ブレーキという、機能が重なっているものとして認識しているから、なお手に負えない。身長を測るときにダンベルを握ってきたということではないのである。
本田氏は、生産の現場は日々変化があり、その都度対応をしていかなければならないと述べた。人、モノ、設備、そして製品がめまぐるしく変わる環境下で、一定のクオリティを保ち続けるのは確かに容易ではない。しかし、「その言い訳はないだろう」という言い分や行為を見抜くのは、そう難しいことではない。現に、(日産の言い分を信じれば)不適切な行為を働いたのはわずか数名に過ぎないのだから。