とき:昭和42年6月3日・9日~10日
ところ:東京農工大学
広島県三次(みよし)東洋工業テストコース
座談会:東洋工業本社会議室
独自のロータリーエンジン完成
「チャター・マーク」の解決
近 藤 チャター・マークというのは、どのくらいの波長で現れるもので、その原因は一体、何だったのですか。
山本(健) チャター・マークは、エンジンの運転条件でいろいろと変わるものですが、私たちの実験では、大体17000cpsくらいの振動現象のようなものが起きてくるので、これが原因となる一種の摩擦振動であり、このために摺動面とシールの間の摩擦の特性、それからシール自体の振動の特性などいろいろのものが、からんでいます。
隈 部 トロコイドの内面はめっきしてあるのでしょうが、このチャター・マークでめっきがとれてしまうことがあるのですか。
山本(健) これが進行すると、結局はめっきがはげてしまいます。これではエンジンも回らなくなりますし、破壊ということになってしまいます。
隈 部 どのぐらいで起きるのですか。
山本(健) これも運転条件によってちがいますが、最も起きやすいのは、高速回転で、スロットルを全開にしてやりますと最初の頃は100 時間ぐらいでその兆候がでました。それで、シールをいろいろと研究しまして、これに小さい孔をあけて(これをクロス・フロー式と呼びましたが)みたところ、大体、3倍ないし、5倍寿命がのびました。最終的にはシールに、金属を使わず、カーボン・シールというものを考えました。これですと、チャター・マークは全然発生しません。
亘 理 さっきの17000cpsというのは何の振動数ですか。
山本(健) これは、アペックス・シールの曲げの振動数です。
隈 部 プラグの汚れの問題も、重大と思いますが、これは、どう解決されたのですか。
山本(健) 最初はプラグを1本でやっていたのですが、低速回転時の始動が、なかなか難しかった。ちょっと、チョークを引きまちがえたりすると、プラグが濡れてしまって、始動がうまくいかない。もちろん、プラグの性質、プラグ付近の孔の形状をいろいろと変えたのですが、一番問題となるのはプラグの位置だということがわかりました。現在のエンジンはプラグを2コ使っていますが、一方は濡れに非常に強いという意味でつけています。もう一方は性能に対して、よろしい、というわけで、このふたつがあいまって、自動車エンジンとしての性能をカバーしています。
心配ないプラグや潤滑関係
研究を重ねたギヤの取り付けなど
宮 本 燃料はどんなものですか。
山本(健) 普通のレギュラーガソリンでいいのです。
平 尾 もうひとつ気になるのは中央のギヤですが、あのギヤは、技術的には問題はないのですか。
山本(健) 実は、これも苦労した点のひとつなのです。最初の頃は、このギヤがよく壊れました。ある特定の回転数で壊れるわけです。スロットル全開の時というわけでなく、回転数に関係があるのです。これも、基礎からということで、歯車荷重の解析から始めました。そして、これには、燃焼圧力というものがエキサイティング・フォースのひとつとして働いていることがつかめました。それで、燃焼室の形状とか、プラグの位置、ローターの慣性モーメント、ギヤの取り付け法などをいろいろと変えて、現在では、ギヤの破損ということはまったくなくなっています。
平 尾 一種のローターのねじれ振動みたいなものがでてくるわけですね。
樋 口 NSUのに比べてオイル量が大変少ないようですね。NSUはシングル・ローターで4リッター以上のオイルを必要としているのですが、コスモの方は少ないですね。
山本(健) NSUのことはよく知りませんが、コスモのものも最初の頃は、ずい分オイル消費が多くて、排気管から白煙がモウモウという状態だったのですが、その後オイル・シールの開発の結果、実用的な線にまでもってくることができました。
それから、オイルが、冷却剤としても使われているので、オイルの汚染ということを心配しました。ガス・シールによるブローバイによって、オイルが汚れはしないかという研究もやりました。しかし、私たちのエンジンは、ブローバイ・ガスについては非常に条件が良い。つまり、サイド・ポート・タイプの吸入口は、サイド・シールとオイル・シールとの間に必ず位置するチャンスがある。それで、サイド・シールからの濡れたガスをリサーキュレートさせることができるので、オイルの汚染は、非常に少なくなっているのだと思います。
樋 口 オイルは、説明書を読むと指定のオイルを使用のこととなっていますが、何か特殊のものですか。
渡 辺 いえ、この指定というのは、純正のものを使ってもらいたいという意味で、もちろん普通のものでよいのです。
定地燃費はリッター当り14.3㎞
パワーに比較してコンパクトな車体
本 誌 バンケルエンジンの話が大分長くなりましたが、話をコスモ・スポーツにもどして、コスモの開発にいたる経過などをお話し願います。
皆 川 コスモは、基本的な考え方として、ロータリーエンジンの特性を生かすことを目標としています。特徴はいくつもありますが、第一にパワーに比較してコンパクトであることと、高速性能が非常に良いことがあげられます。もちろん、低速性能を重視することも乗用車としては当然の配慮です。振動とか、騒音とか、耐久性などももちろん、レシプロエンジンに負けないということで、当初から、スポーツ・クーペをねらいました。それも最初は、純然たるスポーツカーということで高速の長距離ツーリングを重点に考えていましたが、やはり、現実の問題として、低速走行でも十分の性能をもたせる要求が出ました。宣伝にもうたってありますがトップで25㎞/hから加速可能というわけで、実際にはトップで市街地の走行も不可能ではないという実用的な車に成長していきました。
車のスタイルですが、これは「ロータリーエンジンは新しい技術だから、車自体もできるだけ新しいものとし、従来の観念を打ち破るようなスタイルがほしい」というわけで、社内の若いデザイナーたちの自由発想を生かしたまったく日本的なものです。
現在、コスモ・シリーズの第2弾として、次のセダン・タイプの車も計画しています。こちらは比較的需要度の高いものですが、やはりロータリーエンジンにふさわしい、ボディ・スタイルを、ということを念頭において考えています。
渡 辺 具体的にいうと、ロータリーエンジンの開発と歩調を合わせて、このコスモの性格も徐々に変わってきたということです。はじめは、単なるスポーティーカーということで変速機も5段だったし、ステアリングもシャープ、スプリングも硬めにして、サーキットを走行するような車だったのです。ところが、段々開発されて、非常にフラットな高性能が出てくるに従って、この車の性格をツーリングカー的にもっていこうということになったのです。
例えば、変速機も4段に直す、ステアリング剛性も下げる、クッションもセダンに近くするといった具合です。
ロータリーエンジンの特徴の数々
リヤ・サスペンションはド・ディオン式
宮 本 保証期間が2年間、50000㎞というのは立派ですね。ローバーや、クライスラーでやっていたガスタービンカーは消えてしまったようですが、ロータリーとガスタービンとは、得失はどうでしょうか。
山本(健) ガスタービンにも良いところがありますが、応用面で、ちがっているのだと思います。私の考えでは、現在開発されているガスタービンは、大型に向くのではないでしょうか。中型とか小型にはロータリーとか、レシプロエンジンが向くと莫然と考えています。
亘 理 リヤ・サスペンションにド・ディオン式を使ったのはどういう理由ですか。
渡 辺 これは、車高を低くして、重心を下げなければならないし、しかも中央のトンネルは、そんなに高くできないということになると、やはりコンベンショナルのサスペンションより、ド・ディオンということになるのではないでしょうか。
亘 理 ド・ディオン式で、問題は起こりませんでしたか。
渡 辺 やはり、最初は音で苦労しました。しかし、これも、大体解決がついています。一番の問題はいろいろな衝撃音が、ド・ディオンのマウントのあたりから入ってくるので、このマウントのしかたを変えたり、場所を変えたりして消しました。それから、スプライン・シャフトの音はよく問題になりますが、これはボール・スプラインで解決しました。あのクラスの車としてはいいところまできていると思います。
樋 口 私は、今日の試乗で、三次の悪路コースも走らせてもらったのですが、車の性格がツーリング的になったのだとすると、もう少し郊外のラフな道路やヒルクライム、クロス・カントリーなどもやりたくなりますね。
渡 辺 最低地上高はド・ディオン・チューブのところで140~145㎜くらいですから、米車などに比べるとずっと高いです。
スポーツカーとしては静かな音
素晴らしい高速性能