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マツダのSKYACTIV-Xとは何が優れているのか?


破竹の勢いのSKYACTIV。欧州規制をNOx触媒なしでパスしたD2.2をはじめとし、ガソリンエンジンにおいても過給機一辺倒の世界のトレンドに安易に流れず、圧縮比と膨張比の追求から高効率を成し遂げた。そんな成功体験に満足せず、さらに世界中の度肝を抜く夢の技術を実現したという。SKYACTIV-Xの圧縮着火技術とは何がすばらしいのか。


TEXT:三浦祥兒(MIURA Shoji)

 2019年の市場投入が予告されたSKYACTIV-Xは、2010年以降のSKYACTIVテクノロジーの当面の着地点と言える。と同時に将来が危ぶまれる自動車用の内燃機関にとって、延命策以上の革新をもたらすかも知れない。


 


 その技術的焦点であるHCCI(予混合圧縮着火)を要約すれば、①より高い圧縮比で、②希薄燃焼を行う、ということになる。これまでに述べてきたように、ピストンエンジンで熱効率を上げるためには圧縮比(幾何学的容積比)を上げることだ。もうひとつの方策は一回の燃焼あたりの燃料使用量を抑制すること。具体的にはガソリンエンジンの最適混合比である14:1より空気量を増やして燃料を少なくすることだ。


 


 しかしどちらの方法も、ガソリンエンジンの場合あるしきい値を超えると運転が困難になる。圧縮比14と空気:燃料混合比14:1という数字だ。


 


 圧縮比は高いほど高出力化が可能になるけれど、同時にノッキングの危険性が増す。ノッキングはエンジンの損傷に繋がるから、その兆候をノックセンサーが検知すると、点火時期を遅くしたり、燃料を余計に噴いて冷却したりするが、それによって効率はガタ落ちになってしまう。


 


 一回の燃焼あたりの燃料噴射量を抑える希薄燃焼は、これまでにも多くの試みがなされてきたが、燃焼が悪化して出力が出ない、過剰な空気で燃焼温度が高くなりNOxの生成量が増える等の問題を完全には解決できずにいる。


 


 だが、どちらの手法もガソリンエンジンではなく、ディーゼルエンジンでは当たり前のことだ。その実HCCIとはガソリンを燃料に用いて「予混合圧縮」を行う以外、ディーゼルそのままの手法を採ったエンジンなのである。ただし、ガソリンは軽油に比べて着火点が高い(火が点きにくい)ので、高負荷では運転が難しい。そこで高負荷時には従来通りプラグによって点火し、軽負荷定常運転時に圧縮着火に切り替えるということが、SKYACTIV-Xの着眼点である。








 

SKYACTIV-D 2.2。ディーゼルエンジンは正しくいえば「後混合圧縮自着火」だが、現代のDEは運転サイクルによって多段噴射していて、一部予混合を含めている。PCCIと称される燃焼法で、PはPremixの略。

ダイムラーのM274は希薄燃焼を採用した例のひとつ。リーンバーン運転は一部領域とし、NOx対策としてはSCRを用いている。

「そんな面倒なことするのならディーゼルのままでよいのでは?」とか、「高負荷時にはモーターアシストする方が簡単で効果的なのでは?」という疑問が湧いて当然であろう。単に効率を求めるだけなら、それでよいだろう。しかし、ディーゼルエンジンはVW問題以降RDE対応の困難さから、ほとんどの新規開発がストップ。また、原油を精製すればガソリンと軽油の両方が出来てしまうから、ガソリンはガソリンで使い道を模索しなければならない。トラックや船舶、産業用のディーゼルエンジンはほぼ100%がディーゼル。ガソリンエンジンは乗用車用でしか存在できないから尚更だ。ハイブリッドはハイブリッドでシステム価格と保守信頼性の問題で、僻地・新興国向けにおいそれとは導入しにくい。つまり、ガソリンエンジン単体で移動体動力としての生き残りを模索したのが、SKYACTIV-XのHCCIエンジンだと見ることができる。




 来年になれば中国を中心とした電動化は益々加速し、欧州の48V化とその眼目であるマイルドハイブリッド車も続々姿を現すだろう。その時に敢えて内燃機関の洗練で挑むマツダの戦略が、どう評価されるのか。自動車動力の未来を見据える上で注目せざるをえないだろう。

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