クリスチャン・モアディーク博士(58)はダイムラー社におけるメルセデス・ベンツ ブランドの燃料電池開発部門のトップだけでなく、ダイムラーの完全子会社であるNuCellSys Gmbhの総責任者だ。NuCellSysは燃料電池技術の自動車への応用において現在世界的なリーダーとなっている。傘下の企業を含む、ダイムラーAGの燃料技術のカギとなっているモアディーク博士にGLC F-CELLのプレシリーズモデルおよび燃料電池の将来についてインタビューした。
──最初のGCL F-CELL車が年内に最初のカスタマーへ納入されますね。他の競合メーカーと異なり、ダイムラーは長きにわたってこの分野に貢献してきました。なぜこれほど燃料電池を重要だと思うのですか?
「燃料電池は我々の戦略の重要なカギとなる技術です。我々にとって燃料電池の排出物ゼロ、長い航続距離と短い補給時間というメリットは非常に明確であり、さらに乗用車からバスまでの幅広い応用先があります」
──ブレークスルーにはあと何が必要なのでしょうか?
「自動車の燃料電池技術は業界全体としてはかなり成熟してきています。もちろん、依然として水素ステーションなどのインフラ整備は課題です。しかし、ドイツだけでなく世界中で今水素ステーションが増えてきています。わが社についても、GLCをベースにした新たな世代のモデルとプラグインハイブリッド技術との融合により、航続距離や燃料補給方法の種類が増えてきています。もちろん、製作コストはひとつの課題となっているのですが、我々は着々と克服してきています」
──現在のところ、燃料電池に使われる水素は主に天然ガスなどの化石燃料から由来しています。これは本当の意味で“グリーン”なソリューションとは言えないのでしょうか。
「確かに現状ではそうです。しかし、これは燃料電池が現在の内燃エンジンの真の代替となれる為の第一歩なのです。水素が天然ガスから得られても全体で見ると二酸化炭素排出量は25%も削減できます。水素は風力や太陽光発電で得られたエネルギーを貯蔵するのに最適な媒体なのです。社会における再生可能エネルギーの割合が増える中、水素は全体のエネルギーシステムにおいてとても重要な役割を担うでしょう」
──燃料電池が自動車以外の応用先を持っているということですね。
「その通りです。水素燃料のポテンシャルは自動車だけではありません。現在、イノベーション・インキュベーター・ラボ1886とコンピュータの専門家たちと協力し、コンピュータ関連施設などの緊急電源としての燃料電池技術の開発を進めています。GLC F-CELL車両の燃料電池ユニットも研究に使われているのです」