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冒険から競技へと進化したダカール・ラリー 「常勝軍団・日野チームスガワラ」が魅せた底力!


2018年1月6日~20日、ペルー、ボリビア、アルゼンチンの南米3ヵ国に渡って開催されたダカール・ラリー2018。1991年に日本の商用車メーカーとして初めて参戦した日野自動車は、今年も日野レンジャーを駆り、約9000kmを走破。連続27回目の完走、排気量10ℓ未満クラス9連覇、そしてトラック部門のオーバーオールで前回の8位を上回る6位という好成績を残した。

砂漠や土漠、荒野を走り、総合タイムを競うダカール・ラリー。過去にはパリ・ダカールラリー、通称パリダカ(某カップラーメンのCMでご存じの方も多いはず)と呼ばれていたが、主戦場であるアフリカの政情不安により、2009年から南米大陸に舞台を移している。日野自動車はパリダカの頃の1991年に日本のトラックメーカーとして初めて参戦。政情不安のために中止となった2009年以外はすべて参戦している('93〜'95年、'98〜’05年は、菅原義正氏が率いるチームがプライベーターとして参戦。日野自動車は車両のみ貸与)。




ダカール・ラリーは、2輪、クワッド(4輪バギー)、4輪、UTV、カミオン(トラック)の5部門


で構成され、車両に改造があるかないかで、市販車部門と改造車部門に分けられ、さらにディーゼルクラスとガソリンクラスに分けられる。5部門合わせて、毎年500台以上が参戦し、競技者は約2週間を費やして約8000〜9000kmの道なき道を走る。完走率は50%に満たない過酷なレースだ。




日野自動車は、改造車部門と排気量10ℓ未満クラスにエントリーする。車両は、初参戦以来、一貫して同社の中型クラスである日野レンジャーで参戦している。菅原義正(1号車)・照仁(2号車)の父子ドライバーによる2台体制だ。昨年、この車両を試乗会を含めて3回取材する機会を得た。

前年の2017年1月に大会が終わると、すぐさま改善項目を洗い出し、菅原照仁氏がドライブする2号車を7月のシルクウェイラリーに持ち込んで改善項目の効果を確認した。写真は、シルクウェイラリーへの参戦前に、同社のテストコースで開かれたプレス向けの取材会でのバンクを試走する2号車。(PHOTO@宮門秀行)

改造車クラスに移行すると同時に、キャビン下に搭載していたディーゼルエンジン(A09C型)を前車軸の後方に移した。いわゆるミッドシップレイアウト化した。2018年仕様では、タービンの改良を行ない、コンプレッサーハウジングの体格はそのままに、内側の加工を追いこむことで、径の大きなインペラーを採用。翼の面積が増えた分、1回転あたりの風量が増えている。(PHOTO@宮門秀行)

日野自動車のダカール・ラリーにおける車両開発の変遷を振り返ると、2009年にアフリカから南米大陸へのステージ変更が転換期となる。2007年までのアフリカ時代はトラック部門の総合順位で一桁をキープしていた成績が、2009年の南米に移ると一桁順位を確保することが厳しくなってきた。相対的な戦闘力の低下、とくにパワー不足が明確だった。


「アフリカで行なわれた頃は未開の地を走る冒険的な要素が強かったが、南米に移ると意図的に用意した厳しい場所が主戦場になり、レースとしての成熟度も増し、クルマへの負担が大きくなっていた」と、菅原照仁氏は当時を振り返る。これを機に、日野レンジャーは、進化のページが向上する。






トラック部門にエントリーするライバルたちは、1000ps級のエンジンを搭載する。対して、日野レンジャーの最高出力は500psにも満たない状態。新しいエンジンを投入しないと勝負にならない。2014年大会のとき、父・義正氏がドライブする1号車のエンジンを、排気量8.0ℓのJ08C型から現在の排気量9.0ℓA09C型にスイッチ。載せて出すレベルだったが、13.0ℓエンジン用のタービンに換装して600psを確保した。




最高速はレギュレーションで140km/hに制限されている。なので、そこまで達する時間を短縮する加速性能(しかも、パワーバンドを広く)が開発のポイントとなる。出力向上の目標を750psと設定し、ターボ特性の見直し、吸気系の効率化、オーバーラップを増やす方向のカムシャフトの採用など年々改良を加え、Ver.4となった2017年大会のエンジンは670psまで引き上げられた。1000ps級のパワーを誇るライバルたちと比較するとパワーは足りないように思えるが、車両重量はライバルより2トン近く軽い。パワーウエイトレシオ的には勝負できるスペックとなった。

エンジン出力の向上により、加速時にリーフスプリングの前側に局所的に高い応力がかかるようになった。2号車は新世代のテーパーリーフ式スプリングをチューニングして、高応力発生部位の板厚をあげると同時に、他の部位の板厚を微調整し、全体のばね定数を変えずに耐久性を向上させている。(PHOTO@宮門秀行)

ダカール・ラリーでは上位に食い込むためにもうひとつ重要なポイントがある。アクセルを踏み続けられる時間を長くすること、つまり平均車速の向上だ。そのためには、エンジンが生み出すパワーを受け止めしっかり路面に伝えるドライブトレーンやシャシー性能の改良も必須となる。トランスファーは16年大会まではパートタイム4WDだったが、センターデフ式(50:50)のフルタイム4WDに変更した。サスペンションは、路面への追従性向上と乗り心地を確保するため、テーパーリーフ式スプリングを採用。また、高速旋回時のロールオーバーステア特性を抑制するため、リヤサスペンションのリンクレイアウトを見直している。これはブレーキング時の挙動安定にもつながっていて、変更前と変更後では制動移行が45%低減している。




これらの操縦性安定性の向上は、レース時の上位車両との平均車速差を比較したデータからも一目瞭然。2015年大会では、1位との平均車速差は17.3km/h(総合16位)だったのに対して、2016年大会では9.2km/h(総合13位)、2017年大会では8.6km/h(総合8位)と縮まった。アクセルを踏み続けたまま走るための改善は確実に結果へと結びついてるのがわかる。






「走破スピードは格段に上がってきています。スピードが圧倒的に上がっている状況で、一定の成果が上がったと感じたのが2017年大会。2018年大会は細かい調整の位置付けで、またひとつ上の状況を考えている」と、照仁氏は取材時に述べていた。




2018年大会では、目標である700psを目指して改良に取り組み、17年大会仕様からタービンのコンプレッサーホイールを大型化して出力向上を図っている。17年仕様はターボの回転限界に達していたので、ターボ回転数を押さえつつ(1万回転ほど低い)、たくさんの空気をエンジンに送り込むようになった。平地だけではなくダカール・ラリー特有の高地ステージでも、高い信頼性を確保しながらも低回転から高回転までの全域で高出力を発揮できるよう改良。2017年仕様に比べて30ps向上させ、最高出力は700ps の目標に達した。パワーの余裕分は駆動力に置き換える方向で、リヤのみLSD式のデファレンシャルギヤに変更し、高出力に対応した。

お互いの健闘を称え合う父・菅原義正氏(右)と息子の照仁氏。連続35回目の出場となる義正氏がドライブした1号車は途中リタイヤとなったが、来年への出場にも意欲的だ。

総合6位に入賞した照仁氏(2号車)は2018年大会のダカール・ラリーを振り返り、下記のようにコメントしている。




「コース設定の厳しさは予想以上で、多くのチームがトラブルを抱えていました。しかし、今回の順位は相手のミスや幸運ではなく、それだけ車両が進化した成果だと思います。自分にとって20回目のダカールラリーで、このような結果を出すことが出来て良かった。現在のポテンシャルを出し切れたと思いますし、満足度は高いです」






車両が日本へ戻ってくると、すぐさま改善項目を洗い出し、次のステップへ向けてさらなる改善への取り組みが行なわれるはずだ。アクセルを踏み続けたまま走り続けるための「日野チームスガワラ」の挑戦はまだまだ続く。

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