静岡県浜松市から長野県上田市を結ぶ国道152号線。
その全長は約260kmにもおよび、途中で 2ヵ所、
国道が分断されていて迂回を強いられる。
そんな、日本屈指の「ザ・酷道」を、プジョー308で完全走破する。
TEXT:小泉建治(KOIZUMI Kenji) PHOTO:平野 陽(HIRANO Akio)
とんでもない酷道の予感
青崩峠とヒョー越
東名高速を浜松ICで降り、北島交差点から国道152号線の旅を始める。新東名高速の浜松浜北IC、天竜二俣駅を過ぎ、秋葉街道と呼ばれる区間に入る。
予想に反し、対向2車線の快走路が続く。交通の流れもまずまずだ。ずっとこんな感じなら楽勝かも。だが「飯田99km」の道路案内板を見て、途方に暮れる。飯田なんて、全行程の中間地点にもならない。
「いま30~40km/hで走っているから、そのままのペースで走ったとして3時間。でも撮影を挟むし、そうすると……」とかなんとか、無意味だとわかっていながら不毛な計算をしてしまう。
浜松から1時間半ほど北上を続けると、水窪(みさくぼ)という町が現れる。聞き慣れない地名だし、事前に地図で確認したときには限界集落のような寂しげな町並みを想像したが、なんだか妙に活気がある。
人口が多いはずもないし、とくに目立った産業があるわけでもなさそうだ。青崩峠の手前であり、東西方向に走る幹線道路と交差しているわけでもない。最果ての地と言っても差し支えあるまい。
結局、なんで活気があったのか理由ははっきりしなかったが、行ってみなければわからないことは多いということだけは確かだ。
水窪を過ぎて8kmほど進むと、いよいよ最初にして最大の難関、青崩峠とヒョー越への分岐点に辿り着く。どこまで行けるか知らないが、とりあえず青崩峠を目指す。
「林道青崩線」に向けて分岐を右へ逸れれば、いきなりグググ~ッと道幅が狭くなり、期待通りの酷道険道のお出ましだ。
うっそうとした森の中を牛歩戦術で前進すると、ほどなくして左手に鳥居が現れる。いかにも樹齢何百年といった立派な木々に囲まれ、これぞ日本の原風景と言うべき、神々しさに溢れている。
本ページ最上段のメイン写真が、まさにその場面である。神社が道に面しているというより、道そのものが神社の一部で、そのなかをクルマで走らせてもらっている感覚だ。なんだか自然と背筋も伸びてくる。神社の名は足神神社といい、かつて峠越えで足を痛めた北条時頼がこの地で治療し、その感謝の意を込めて祠を建立したのが始まりだという。
秘境がオアシスに見える?
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苦行の先に安楽が待つ───まるで人生である
地蔵峠を越え、ラリーのスペシャルステージのようにタイトでツイスティな山岳路を楽しんだかと思えば、しばらくは再び広々とした快走路で淡々と距離を刻むことになる。そして分杭峠の手前でまたもやスペシャルステージを迎え、峠を越えるとまたまた穏やかな快走路が広がる。
国道152号線は、言ってみれば快走路と酷道の繰り返しである。安楽の先に苦行が待ち構え、それを乗り越えるとまた先に安楽がある。永遠に終着点に辿り着かないんじゃないかという絶望感にも似た錯覚に陥りつつも、このメリハリのおかげでなんとか正気を保っていられるのかもしれない。
分杭峠を過ぎ、左手に美和湖が見えてくれば、おめでとう、いわゆる酷道はここまでである。まだまだ先は長いけれど、高遠を境に秋葉街道から杖突街道と名を変え、ここからは風光明媚な観光道路になるのだ。杖突峠もツイスティなワインディングロードだが、しっかり中央線の引かれた2車線道路であり、もはや牛歩戦術は必要ない。
そして中央道をくぐれば、今度は大門街道を名乗り、ビーナスラインと交錯しながら白樺湖周辺のリゾート地を駆け巡る。平日とはいえ交通量も多く、明らかに観光客とわかる県外ナンバーのクルマが目立つ。
とはいえ、自分たちもそのうちの一台にしか見えないのだろう。俺たちはあんたたちとは違うんだ、などと、いったい誰に主張しているのかよくわからない意味不明な心境になる。
上田市に入り、国道18号線にぶつかる大屋交差点で国道152号線の旅は終わる。総走行距離は288kmにおよび、撮影や休憩も含めて要した時間は12時間に達した。
撮影がなく、最小限の休憩で走りに徹したとしても9時間は見ておいたほうがいいし、週末であればそれでも12時間くらいかかるかもしれない。自宅から浜松や上田までの距離にもよるが、例えば関東在住であれば、日帰りは避けた方が無難である。まぁ、こんな馬鹿げた酷道険道ドライブをやってみようという奇特な方がいらっしゃたら、の話だが。
ただ、日本屈指の酷道を完全走破したいま、その達成感は筆舌に尽くしがたい、とだけは言っておこう。
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【プジョー308SWアリュール ブルーHDi】
▶全長×全幅×全高:4585×1805×1475mm
▶ホイールベース:2730mm
▶車両重量:1400kg エンジン形式:直列4気筒SOHCディーゼルターボチャージャー
▶総排気量:1560cc ▶ボア×ストローク:75.0×88.3mm
▶圧縮比: 17.0 ▶最高出力:88kW(120ps)/3500rpm
▶最大トルク:300Nm/1750rpm ▶トランスミッション:6速AT
▶サス ペンション形式:ⒻマクファーソンストラットⓇトーションビーム
▶ブレーキ:ⒻベンチレーテッドディスクⓇディスク
▶タイヤサイズ:205/55R16 ▶車両価格:323万8000円
Vol.1「酷道険道は日本の宝である!【顔振峠から秩父へ(酷道険道:埼玉県)】」はこちら!Vol.2「恐怖! クルマで渡れる驚きの吊り橋!【井川湖、そして接岨峡へ(酷道険道 :静岡県)】」はこちら!Vol.3「フィアット・パンダで本格ダート林道を走ってみる【中津川林道へ(酷道険道:埼玉県)】 」はこちら!