軽量かつ高剛性で自動車にとって理想的なシャシー素材であるCFRPだが、一般化に際しては高いコストと低い生産性がネック。このふたつの問題を一気に解決する可能性をもった技術を名古屋大学ナショナルコンポジットセンター(NCC)が発表した。それが熱可塑性CFRPを使った低コスト・高サイクルを生み出す“LFT-Dシステム”である。
次代の自動車を語る上で欠かせない要素のひとつが軽量化。軽くすれば燃費は向上するし、EVであれば重いバッテリーをその分プラスして積めて航続距離の延長が見込まれる。その軽量化を実現する施策のひとつは素材の選定が握っており、特に樹脂系素材に関心が集まっているのは周知の通り。そうした現状を反映して開催された展示会「国際プラスチックフェア(IPF JAPAN 2017)」で、注目すべき展示物が名古屋大学ナショナルコンポジットセンター(NCC)によって持ち込まれた。
真っ黒なバスタブ型モノコックシャシーは一見してCFRP製と判断できるが、問題はそのCFRPの素材が熱可塑性であることだ。現在、レーシングカーや一部の高価格帯モデルに採用されているCFRPシャシーの素材は熱硬化性が一般的で、自動車に必要な強度をCFRPをオートクレーブで焼いてもたせている。
しかしNCCが世界初の開発に成功したCFRPシャシーは、熱を加えることで融解する熱可塑性素材を用い、LFT-D(Long Fiber Thermoplastic-direct)成形システムと呼称される。熱可塑性樹脂原料ペレットに添加剤を加えて溶融・混練したものに、さらに連続炭素繊維を混練して押し出す。こうして出来上がったLFT-D押出素材(通称“フトン”)を最大荷重3500kNの大型プレス成形システムにかけて成形加工、という流れだ。熱硬化性CFRPではオートクレーブで加熱・加圧して成形するため時間がかかるが、LFT-D成形システムではプレスのみだから時間は大幅に短縮できて生産性に優れ、結果としてコストも熱硬化性CFRPよりも下げることが可能だ。また、加熱することで柔らかくなる性質は接合技術の併用が容易なため、大物構造の製造組み立てに力を発揮する。
これまでの熱硬化性CFRP製パーツのネガを払拭し、CFRPをより一般化させる可能性を秘めたLFT-D成形システム。その実現と熟成が次代の自動車を大きく変えていく。