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ロードスターレースのススメ


自動車専門誌『GENROQ』編集部員がワンメイクレースで勝利を目指す。そんな企画が昨年連載されていた。過去形なのは一旦連載が終了したからだ。とはいえ、今年も虎視眈々とレース参戦を目論むも結局一度も出場することなく季節は秋……。なんとか滑り込みで最終戦に参戦できたがはたして付け焼き刃の結果は? 本誌に掲載されたリポートの裏ストーリーをウェブ用にアップする。

自動車専門誌『GENROQ』はいわゆるスーパーカー雑誌だが、この数年、サーキットで試乗することが増えた。それはわれわれのメインディッシュであるスーパーカー、スポーツカーの類いがもはや一般公道ではその性能の1割も発揮できないレベルに達してしまったからだ。いや、20世紀のスポーツカーだって、公道では充分に性能を発揮できる範囲になかったことは重々承知なのだが、その速さはもはや破壊的と言ってもいい。だから小誌は「えー! 『GENROQ』で軽自動車かよ」と言われながらも、ホンダN-ONEのワンメイクレースにも積極的に参戦したりしてきた。ローパワー車でもクルマを操る技術を身につけたり、エンジンを全開にする爽快感を味わったり、なにより大手を振って全開にできるサーキットを身近に感じるためである。




昨年筆者はマツダ・ロードスターを使ったワンメイクレースのパーティレースⅢに参戦していた。2002年から続く、ナンバー付きワンメイクレースの老舗で、最近話題の86/BRZはガチのぶつかり稽古のようになっているそうだが、パーティレースはぶつかるとノーポイントのため、寸止めの美学が徹底されている。連載は終了したものの、いまいち結果が残せなかったそのワンメイクレースへのふたたび参戦できないかと機会をうかがっていた。しかし日程が合わずに結局出られることになったのは10月1日に開催される北日本シリーズの最終戦である。




正直なところレースでシリーズの最終戦に参戦するのはあまりうまいやり方ではない。シリーズを追ってきたレギュラー参戦陣は腕もマシンも熟成が進んでピークに達しているからだ。だから翌年の参戦に向けての腕試し、あるいはテストでもなければ、突然出場しても上位は望めずに徒労に終わる可能性が高い。だが今回はどうしてもこの北日本シリーズ最終戦に出場したかった。前述のとおり、昨年東日本シリーズ1戦、西日本シリーズ2戦にスポットで参戦し、おまけで年末の日本一決定戦にも参戦し、今年は残る北日本シリーズにスポットでも参戦できれば全国制覇(優勝はしていないけど)……と目論んでいたのだ。本当はこの日も取材の予定があったが、その取材はN編集長に押しつけて、レースを優先してしまった。

万難を排して臨むからには、最終戦のスポット参戦とはいえ“参加することに意義がある”というレベルに終わらず、ある程度の結果も残したいところ。昨年は練習の甲斐あって、4戦出場して一度だけ表彰台に立てた。しかし北日本シリーズの開催されるスポーツランドSUGOはあまり走行経験がない。しっかり練習しないと勝負にならないのは明らかだ。




ところで小誌ではレース修行の際にコーチをつけることを推奨している。右も左もわからないビギナー(筆者もシリーズ参戦は2015年から)が闇雲にサーキットを走ってもいいことはない。そこでコーチを依頼したのが『GENROQ』本誌でもおなじみのプロレーシングドライバー、田中哲也氏だ。トップカテゴリーで活躍するレーシングドライバーであり、日産R35 GT-Rの開発にも携わった一流ドライバーである。今回もコーチとなる田中哲也氏との二人三脚でレース本番まで準備を進めたいところだ。




しかし超多忙のコーチとはなかなかスポーツ走行の日程があわない。そこで筆者が10月のレースを翌週に控えて、訪れたのは東京・町田のTCRジャパン。知る人ぞ知るロードスター使いの加藤彰彬(てるあき)氏のガレージである。2004年から12年までパーティレースで圧倒的な勝率を収め、10年に立ち上げたTCRジャパンでスーパー耐久レースやニュルブルクリンク24時間レースに参戦するなど、ロードスターレースからプロレーサーに羽ばたいたひとりだ。




今回どうしても田中コーチのスポーツ走行レッスンが、レース直前の週まで都合がつかなかったため、加藤氏の所有するレーシングシミュレータでSUGOの攻略法を伝授していただくことになった。シミュレーターというとプレイステーションレベルのゲームを想像するかもしれないが、最近のシミュレーターはプロが練習に使うほどリアルなので侮れない。以前のシミュレーターはドライバーの前方に囲むように3つのモニターを置いてコースを表示していたが、現在はゴーグルをするVRシミュレーターが増えつつある。右に首を振ればその景色がリアルタイムで表示されるので、よりリアルな練習ができる。シミュレーターの練習を終えたあとは、ロガーでデータをチェックできるので、ブレーキや操舵のタイミングで模範となる加藤氏と大きなタイム差が出ることが明らかになるのだ。




筆者のように「とりあえずコーナーがどっちにどのくらい曲がっているか」くらいのレベルから、1000周こなしてコースのすべてを熟知するところまでシミュレーターの有効範囲は広い。ただしVRは人によって体質が合う合わないもあるので、一括りにして薦められないが、もしも酔うことがなければぜひこれで練習してほしい。

本物で走行する前にこれで多少精神的に落ち着いた。レーシングシミュレーターの練習を経て、いよいよ田中コーチの日程のあう練習走行日がやってきた。この日は週末のレースに向けて、86/BRZやフィットが多数走行していた。ちなみにこの日は「How Match走行会」というSUGO主催の走行会で、走った分だけ料金を支払うという仕組みだ。まずはいつもどおりに田中コーチがロードスターでコースインして、クルマのポテンシャルを確かめる。タイヤ空気圧の高低も試しながら、頃合いを見て筆者に交代。まずはコースに慣れるところからだ。10周ほど走ってはピットインを繰り返す。GPSロガーのデジスパイスと車載カメラを取り付けてあるので、走るごとにコーチとから修正点を確認する。ロガーとカメラで熟練のコーチと未熟な筆者の差は明確だ。




田中コーチが序盤の数周で出したのは1分47秒2。最終的に60周をこなして筆者は1分48秒6。結構頑張ったのだが1.4秒遅れだ。差はどこにあるのか? データロガーでは1コーナーのブレーキングと3コーナーの旋回速度、ふたつのSPコーナー……まあ、それ以外もまんべんなく遅い。「1コーナーは上りですからもっと突っ込めます。ピットから見ているけど、まだ余ってますよ」と厳しい指摘。3コーナーやSPコーナーはブラインドなので慣れないとどうしてもアクセルが踏めない。「あとはロガーと車載映像でイメージをつくることです」と言い残し、田中コーチは大阪に帰っていった。今週末はポルシェ・スポーツ・ドライビング・スクールがあり、田中コーチはレース本番には来られない。今回のレッスンはここまで。しかし、これでも単独練習よりも10倍以上のペースで速さを身につけている。もとより、どこまで頑張れるか、どこを突き詰めていくべきかが、ひとりでは掴めないだろう。教えを元に週末まで脳内走行で鍛錬するしかない。

パーティレースは日曜のワンデイ開催だが、前日にはたいてい練習走行が用意されるから、夕方の練習走行枠を目指して、筆者も土曜日の朝、東京を出発した。このND型ロードスターの美点は60周の練習走行をこなしても、タイヤは見た目に角が削れているくらいで、ラップタイムはほとんど変わらない。雨でも降ればさすがに新品とタイムが変わるだろうが、見た目の可憐なスタイリングとは裏腹にサンデーレーサーにはありがたい頑強さが魅力だ。もちろん毎回万全のメンテナンスを施してくれているマツダE&Tスタッフにも感謝である。




さて、練習だが、もちろんコースのさらなる習熟のためと、ライバル達の速さのほどを測るために一緒に走る。だが筆者は昨年練習しすぎの消耗しきったタイヤで決勝を走った結果、序盤でハーフスピンをして表彰台を逃すというトラウマがあり、レース前はついクルマ(タイヤ)を温存したい気持ちにかられる。しかし、今年北日本シリーズで2位につけている旧知の兼原洋治選手に聞くと、トップは1分46秒台で走っているという。ちなみに兼原選手はトヨタ自動車のエンジニアで、パーティレースには自己研鑽のために参戦しているベテランである。




ともあれ、2秒落ちではまったく勝負にならない。タイヤ温存云々の前にさらなるコース習熟をするべく周回を重ねた。その結果、田中コーチの0.1秒落ちである1分47秒3まで縮められた。ピットのモニターを見るとトップはやはり46秒台だが、これならなんとか真ん中くらいに並べそうだと安堵した。GPSロガーデータを田中コーチと見比べてみても、懸案だった1コーナーはほぼ遜色ない。まぐれかもしれないが、これを明日の予選で再現しなくては意味がない。走行イメージを心に刻んでサーキットを後にした。とはいえ練習で30周近くも走ってしまったのは……やはり不安だ。タイヤから心なしかバイブレーションも伝わりはじめ、嫌な予感がよぎる。

だが、迎えた決勝の朝は晴れてくれた。心配の種がひとつ減った。この日はパーティレースにとっては間延びしたスケジュールとなっていた。ワンデイレース故に早朝7時ドラミ、8時予選、そして決勝は14時である。同日開催で86/BRZレースやヴィッツ、フィット、スーパーFJもあり、立て込んでいるためだ。ただし、他のレースは土曜に予選が開催され、2デイレースとなっている。日にちが増えると予算も嵩むのでサンデーレーサーにはワンデイの方がありがたい。




それはさておき、まずは予選だ。田中コーチ曰く「ミスがないとほとんど抜けない」から、ここで少しでも前に出ておきたいところだ。1分46秒台はまったく見えないが、とりあえず前日の練習のイメージのまま少ないパワーを丁寧に伝えるように走った。タイムは47秒2。12台中6位で目標の3列目に並ぶことができた。トップ4台までが46秒台を出している。とりあえずのタイムが出て安心していると、TCRジャパンの加藤さんが現れ、激励してくれた。同時に「もっとスリップ使わないと」とアドバイスもくれた。そうか! 筆者はほとんど単独で走行していたが、たしかにロードスターは空気抵抗が悪いためか、スリップストリームがよく利く。しかし時すでに遅し。まあ、それに気づいたとしてもレース経験未熟な筆者はスリップで先行する他車のスリップをうまく使いこなすことなどできなかっただろうが。




ポールポジションは#122八田新一選手だが、この予選で輝いたのは3位の#90高橋光介選手だ。このレースがデビュー戦の26歳はこれまでサーキットトライアルなどで修行を積んできたという。ホームコースの日本海間瀬サーキットにアップダウンが似ているというSUGOで速さを見せた。




6時間のインターバルを挟んで8周で争われる決勝は3列目から無難なスタート。昨年のロードスターレースではフロントローで欲をかいたばかりにフライング判定を受けたレースもあったから慎重に発進した──この続きの決勝の様子は自動車専門誌『GENROQ』(2017年12月号)の「勝利への道2017」というコーナーでリポートしているので、ご覧いただけると幸いである。ちなみにパーティレースのウェブサイトでもその内容や結果はみられたりもするのだが。




ともあれシミュレーターの重要性やコーチのいることの効率性はぜひこれからも伝えていきたい。サーキットなら堂々と全開走行できる。これからのクルマ好き、走り好きが通らなければならない道なのである。ちなみにタイトルの「ロードスターレースのススメ」は小誌にて連載中の「サーキットのススメ」の次のステップでもある。

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