東京モーターショーに登場した各社のコンセプトカーのデザインを、難波治さん(スバルの前デザイン部長で首都大学東京准教授)と見て回るシリーズに第3弾は、スバル。次期WRXを強く示唆するモデル、VIZIV PERFORMANCE CONCEPT。古巣の作品を難波さんはどう見たか?
東5ホールの日産からお隣のスバル・ブースへ移動。折しも、ちょうどVIZIV PERFORMANCE CONCEPTをメインにしたイベントの真っ最中だった。VIZIV PERFORMANCE CONCEPTがダイナミックに動き、バックの大きなスクリーンにさまざまな風景が映し出される。スバルのメッセージ「走る愉しさ」が存分に伝わってくる、なかなか素敵なショーだ。これを難波さんとしばし楽しんだ。
難波さんは、2008年から15年までスバルのデザイン部長、CED(Chief Executive Designer)だったので、スバルはいわば“古巣”。かつての部下、後輩が作ったコンセプトカーには、なかなかコメントしずらいのでは、と思ったのだが、そんなことはまったくないご様子。
では、いきますか、難波さん。
難波「あのね、スバルのブース、楽しいでしょ? さっきまで大きなスクリーンだったのが、いまは一枚一枚に分かれてるでしょ?(注:ステージイベントが終わったら、一枚の巨大なスクリーンだと思っていたものが、分かれてそれぞれ別の場所に動いていた)動いてるでしょ? わかってなかったでしょ? 僕はこれを待ってたんですよ。こうなるんですって」
ーわかってませんでした。これすごいっすね、面白い! 楽しい!
難波「だから、要するにスバルは楽しいブランドなんですよ。それをブース全体から演出しようという意図があるんです。ただのスクリーンをやりたかったわけではないんです。ひとつのメッセージを訴えたいときはスクリーンをひとつにまとまってワイドにやるっていうことなんです。おもしろいでしょ?」
としゃべっている難波さんに、多くのスバルの関係者が声をかけてくる。
「たとえば、ルーフの後ろの居住空間なんかもクーペ調に殺すことなく、わりと4ドアですって残したうえでも、十分にパフォーマンスのあるクルマに見えるじゃないですか? これってスバルくらいしかないかもしれないですね。そういう意味ではすごく意味のあるモデルだと思うし、モデルそのものも出来がいいですよ。それから、タイヤ周りの黒いガーニッシュ、あれはスバルXVみたいなものと思いがちですけど、いま光っている部分があるでしょ? あそこって水平にちょっと出っ張っているんです。あれはね、たぶん、操縦安定性を高めるための空力デバイスだと思います。そうでなかったら、このクルマにはそういうものは絶対に使わないはずなので。スバルはね、元々からギミックはやめよう、実際には空気は入らないのにエアインテークみたいに見せるのはやめようという考えがずっとあるんです。あれもああいうふうにやっているということは、絶対に走行安定性が保てる機能があるはずです。だからそれでタイヤ周りがしっかりと見えますよね。走るクルマって見えるじゃないですか。あれがあって、フェンダーでもボディ色部分がすごく薄く見えるんです。元々昔から走るクルマってタイヤが大きくて、フェンダーが薄いんですよ。そういうことも演出しているし、なかなかいろいろとわかっている人たちが作っている感じがしますよ。
ーでも、次のWRXってもう実は出来ているわけでしょ、かなりのところまで?
難波「どうなんでしょうかね。そのあたりはほんとに知らないです。わからない」
ー出来ているとこから逆算してきて、このあたりでこれを見せておくか、というようにモーターショーを使うこともあるんでしょ?
難波「うーん、たぶん、まだこれが先にありき、なんだと思いますけどね。そうあってほしい。VIZIV PERFORMANCE CONCEPTがベースで次のWRXができてくるって」
難波「出来はとってもいいと思います。スタンスもいいし、とにかくまずスタンスがいいです。ま、さっきも言いましたが、これだけ全幅があれば、なかなかスタンスの悪いクルマは作りにくいんですけど。前後のバランス。普通に置いてあっても前に進もうという感じがするでしょ。これはなかなかいいですよ。細かい不必要なモチーフも入ってないし、綺麗で強いからいいです。
難波「これ、なかなかよし。魅力的な一台だと思います」