本田技研工業(ホンダ)が9月1日に発売した、新型2代目「N-BOX」。2011年12月の初代発売からの累計販売台数がすでに112万台を超え、ホンダの国内四輪販売における屋台骨を支えているこの背高軽ワゴンには、要素が多くアグレッシブなデザインが多い昨今のホンダ車とは大きく方向性が異なるエクステリアが初代に続き与えられている。その狙いと想いについて、新型N-BOXのエクステリアデザインを担当した、本田技術研究所 四輪R&Dセンター デザイン室1スタジオ研究員の杉浦良さんに聞いた。
--N-BOXは初代の頃から、最近のホンダ車の中では珍しい、極めてシンプルなデザインが与えられています。新型でもその路線を踏襲していると思いますが、その狙いは?
杉浦 新型N-BOXでは「N for Life」を象徴的な言葉として掲げていますが、やはり先代からNシリーズはお客様の生活に根ざした考え方があります。クルマだけが生活の中で目立つのではなく、いろんなお客様の生活、ライフスタイルがある中で、どのようなライフスタイルにも馴染んで似合うのがNシリーズの特徴と考えています。
その結果、シンプルなデザインで、クルマが目立たないで、お客様の生活の方が豊かで目立つような、そういった中でクルマ、モビリティが溶け込むようなスタイリングを実際に目指しています。ゆえにシンプルなスタイル、という形になっています。
--要素を足してデザインするのは簡単で、シンプルにデザインしていく方がむしろごまかしが効かなくなり難しくなるように思えるのですが、そういった面で特にこだわったポイントは?
杉浦 まさにおっしゃる通りで、注意するポイントは非常に多いんですよね。まずは軽規格という非常に厳しいサイズの制約があり、その中でさらにN-BOXは空間価値が非常に高いクルマですので、エクステリアデザインを担当している私からすると、外寸も決まっていて、内側からも広く、ということで、デザイン代(しろ)がどんどんなくなっていくんですよね。
そういった中で、いかにシンプルで、でも先代よりモデルチェンジしたという新しさを生み出すか、ということに非常に時間を割きました。
--新しさとN-BOXらしさをどう両立するか、ということでしょうか?
杉浦 そうですね。そういった部分では、やはりまず、パッと見た瞬間にN-BOXに見える要素はありますので、そこはしっかり大事にしながら、一方で今回モデルチェンジした一番の価値として「洗練」「上質」を掲げ、その要素をしっかりと入れ込んでいきました。
そのための工夫として特徴的ななのが、サイドのキャラクターラインです。先代ではこのキャラクターラインがありませんでしたが、今回こういったプレスラインを入れることで、軽の限られたサイズの中で大きく長く見せるという視覚的効果とともに、ここで一回内側に折ることで、断面に張りを持たせ、豊かな面を作ることができました。
--この張りというのは見た目だけではなく、N-BOXのような背高軽ワゴンではパネル1枚あたりの面積が大きく、しかも重量やコストの面から板厚を薄くしなければならないですから、物理的な面でも入れる必要があったわけですよね?
杉浦 そうですね。さらに、ドアハンドルまわりのキャラクターラインにはインバース(逆反り)面を作っていますが、そうすることでそれ以外のポジティブな面が強調されるよう、視覚的効果を狙っています。このように、軽自動車の厳しいサイズの中で、視覚的トリックのようなことをたくさん活用して、立派に大きく見せることをしています。
--軽自動車で定番となっているエアロ仕様の「カスタム」は、他社がよりコテコテに仕上げる傾向が強い中で、新型N-BOXのカスタムはむしろシンプルな方向に戻した印象があります。
杉浦 それはまさに狙ったところです。やはりNシリーズはお客様の生活に溶け込むものでありますので、そのデザインはシンプルな手法になっていきます。カスタムについてもそれは同様で、基本的にはシンプルな中でも標準仕様よりは少しスポーティで高級感があり、背伸びした雰囲気があるような、そういった違いに留めようとしていますね。
従来のように何かを付け足していくというよりは、基本はシンプル、お客様のライフスタイルが第一優先、という考え方は、標準仕様もカスタムも同じです。
--新型N-BOXのように、シンプルな面構成の中に明確な主張を盛り込んだデザインは、上質感がありながら存在感は強く、しかも飽きが来ないという点で非常に好印象です。ぜひこの方向性を、軽自動車だけではなく他のグローバルモデルにも展開してほしいと思います。ありがとうございました。