一部でささやかれている「トイレ付きの高速バスって排泄物を路上に垂れ流しているの!?」という疑問。または「トイレのタンクの容量はどのくらい?」なんて疑問をネットでみかけることもあります。どのような仕組みになっているか、一度は疑問に思ったことがある人も少なくないはず。
そんな高速バスのトイレについて、交通機関の汚物処理装置で高い実績がある株式会社五光製作所に話を伺いました。
ちなみに、現在の高速バスのトイレは以下のようなもの。コンパクトながらキレイで使いやすいです。
バスのトイレの仕組み「循環式」「真空式」とは?
「循環式」「真空式」という言葉を、なんとなく聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。現在高速バスや電車などに採用されているトイレの方式です。
「循環式」は汚水を再利用し洗浄する仕組みのトイレ。「真空式」は空気の気圧差を利用して少ない水で洗浄する仕組みです。
高速バスに搭載されているトイレは、いかに少量の水で洗浄できるかがカギ。循環式は汚水を再利用する洗浄方法で、真空式は空気の気圧差を利用し少ない水で洗浄する方法です。主にこの2つの形式のトイレがバスや鉄道車両に導入されています。中でも現在製造販売されているのは、おおよそ95%以上が真空式のトイレだそうです。
真空式トイレは空気の気圧差を利用して汚物をタンクに送る仕組みで、最小限の水で汚物を流せるのが大きな特徴です。また、洗浄の際に清水を使用するためニオイの問題が解消されているのが大きなメリット。
洗浄の仕組みは次の通りです。便器に組み込まれている、排出弁などで閉め切られた移送タンクを真空状態にします。ここで排出弁を開くと便器の中の汚水が移送タンク内に吸い込まれます。移送タンク内の汚水は、今度は空気で加圧して汚物タンクの方へ送り込むという二段階になっているそう。真空状態は、ブレーキや自動ドアなどの原動力にもなっている「圧縮空気」を利用してつくられているとのことです。
真空式のトイレで1回洗浄するのに必要な水の量はどのくらい?
一般的な家庭用のトイレは1回の洗浄で10リットルほどの水が必要なのに対して、真空式のトイレで必要な水量は500ミリリットル。ペットボトル1本分の水量で済むそうです。積んでおける水量が限られる乗り物に適した仕組みですね。
1度に積んでおける水量は、車体により40~80リットル、汚物タンクの容量は小さいもので50~60リットル、大きなもので80~100リットルほどだそうです。洗浄できる回数は50回から100回です。
たまった汚物タンクの処理は各バス会社の車庫に戻ってから行うのが一般的です。専用の地上側ホースとつなぎタンクを空にできる仕組みで、特別な資格などは必要ありません。同時に水の補給も行います。
ちなみに新幹線など鉄道に導入されているトイレも、高速バス搭載のトイレより種類は多くあるものの、ほとんど同じ仕組みだそうです。
バスや電車のトイレはいつからあるの?
真空式トイレの普及でバスや電車で快適に用を足せるのがほぼ当たり前になっていますが、そもそもバスや鉄道車両のトイレはいつから普及していたのでしょうか?
まず列車のトイレ自体は古くからありましたが、古くは「開放式」でした。車内のタンクなどに溜めるのではなく、いわゆる垂れ流しです。その後、東海道新幹線の開業に伴い「貯留式」のトイレが採用されます。貯留式は汚物をタンクにためる方式です。新幹線は速度が速いため、開放式のままだとトンネルなどに入った際に、汚物が舞い散ってしまうのだそうです。ただし貯留式は現在の真空式や循環式のトイレと比べると、洗浄に使われる水の量が多く、そのぶん汚物タンクがすぐに一杯になってしまうのが欠点でした。
貯留式の次に乗り物に普及していくトイレは汚水を再利用し洗浄する「循環式」でした。五光製作所では昭和39年に運輸省研究補助金などにより循環式のバス用トイレを開発し、名神高速道路バス、幹線高速バス、長距離運行バス、遊覧バスなどに多数採用されていきます。
列車は線路の上を走るため、開放式のトイレの設置が可能でした。しかし、バスは公道である道路を走ります。そのため開放式のトイレを設置できず、バスのトイレの歴史は循環式から始まりました。その後、循環式のトイレは東海道新幹線をはじめ鉄道にも採用されていきます。
日本での「真空式」トイレの導入は比較的新しいとのこと。平成3年に五光製作所がスウェーデンの会社の技術を導入し製造販売を開始。その後、平成4~5年にかけてJR九州特急「つばめ」の車両に導入されたのが日本での始まりです。その後、他の列車や高速バスに採用されていきます。
まとめ
さまざまな軌跡があった乗り物のトイレ。ちなみに国内でバスや鉄道車両の汚物処理装置を製造しているのは、今回お話を伺った五光製作所を含め2社しかないそうです。たった2社で国内のほとんどのバスや鉄道車両など、交通機関のトイレを支えていると知り驚きました。それだけ高い技術が必要なのでしょう。
近年では、バスのトイレでいやなニオイを感じることもほぼないですし、広々とした洗面所などが併設されているトイレも珍しくなく、快適に利用できることが当たり前になっています。しかし、古くは循環式から始まったこと、開発製造する会社やバス会社のメンテナンスがあってこそ快適に利用できることがわかりました。
取材協力:株式会社五光製作所
(バスとりっぷ編集部)