会社や行政などで受ける機会のある健康診断ですが、結果をきちんと見たことはありますか?返ってきた結果に「問題ありません」や「○○に気をつけましょう」と言われて、軽く心にとどめる程度だったりしていませんか?
血液検査ではどんな内容を調べるのか、どんなことが分かるのか、ということを調べてみました。ここ5年以内でも血液検査の新しい研究発表が相次いで行われていたり、日進月歩の技術開発が進められています。そんな血液検査のこれからについても知ることで、ぜひ、ご自身の健康にも役立ててみてくださいね。
血液検査の重要性とは
体をくまなく流れている血液。その血液に含まれている細胞や酵素、抗体などの数を数値化して、病気の診断やリスクを見つけるのが血液検査の役割です。生活習慣病の中には、自覚症状が現れる前に病気が進行してしまっているものもあります。早期にリスクを知ることで、生活を改善したり予防に役立てることもできます。血液検査で分かる主な病気は貧血、肝臓の異常、腎臓の異常、高脂血症、糖尿病などです。
コレステロール値などを気にして、検査の数日前から食事量を減らしてみたり、運動したり…なんて経験はありませんか。この『にわか対策』も実は検査で見抜かれてしまいます。きちんと診断してもらうためにも、普段の生活を意識して検査を受けることをお勧めします。中性脂肪や血糖など、空腹でないと正しく評価できない項目もありますので、受診する施設の注意事項に従ってくださいね。
どんなことが検査で分かるのか
検査を受けて、返ってきた自分の数値。アルファベットや数字の羅列でよく分からない、お医者さんと話していた項目はどの項目だったか分からなくなってしまった、という経験のある方も多いのでは。そこで、それぞれの検査項目を分かることとともに記載してみます。過去の検査項目を片手に見てみてはいかがでしょうか。
☆肝臓系
・AST(GOTともいう)、ALT(GPTともいう)「アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ」、「アラニンアミドトランスフェラーゼ」
肝臓が傷ついていると数値が高くなります。また心臓や筋肉の病気でも数値が高くなります。
・AL-P「アルカリフォスファターゼ」
胆汁の流れが悪い場合や骨の異常で数値が高くなります。
・LDH「乳酸デヒドロゲナーゼ」
肝臓だけではなく、心臓などの臓器や筋肉、骨、血液などの病気でも数値が高くなります。
・Ch-E「コリンエステラーゼ」
脂肪肝、腎臓病、甲状腺機能亢進症などで数値が高くなり、逆に、慢性肝炎、肝硬変、栄養失調などで低くなります。
・γ-GTP「ガンマグルタミルトランスフェラーゼ」
慢性肝炎の活動期や肝硬変、胆のうや胆管の病気で胆汁の流れが悪くなると数値が高くなります。飲酒でも高くなります。
・T-Bil、D-Bil「総ビリルビン」、「直接ビリルビン」
黄疸の程度が分かり、肝臓や胆道に異常があると高くなります。
☆腎臓系
・BUN、CRE「尿素窒素」、「クレアチニン」
腎臓の働きが低下すると数値が高くなります。
・UA「尿酸」
通風や腎臓病の検査のために測定します。
☆脂質系
・T-CHO「総コレステロール」
数値が高いと動脈硬化や心筋梗塞の危険があります。
・HDL-cho「HDLコレステロール」
『善玉コレステロール』と言われていて、数値が低いと、脂質代謝異常、動脈硬化が疑われます。
・LDL-cho「LDLコレステロール」
『悪玉コレステロール』と言われていて、数値が高いと心筋梗塞や脳卒中のリスクがあります。
・TG「中性脂肪」
数値が高いと動脈硬化や心臓病、脳卒中の危険があります。
☆糖
・血糖値(FGP)
数値が高い場合は、糖尿病、膵臓癌、ホルモン異常が疑われます。
・HbA1c「ヘモグロビンA1c」
過去1、2ヶ月間の血糖値を推定します。糖尿病の治療に必要な検査です。
☆電解質
・Na「ナトリウム」
脱水、糖尿病、慢性腎不全などでは数値が高く、下痢や嘔吐、浮腫で低くなります。
・K「カリウム」
腎不全、熱傷、外傷で数値が高くなり、下痢や嘔吐などで低くなります。
・Cl「クロール」
食塩の取りすぎ、脱水、慢性腎臓病で数値が高く、尿崩症、嘔吐などで低くなります。
・Ca「カルシウム」
悪性腫瘍で数値が高く、ビタミンD欠乏症、腎不全で低くなります。
・IP「リン」
ビタミンD過剰症で数値が高く、ビタミンD欠乏症で低くなります。
☆貧血・炎症など
・WBC「白血球数」
炎症や感染症などで数値が高くなります。
・RBC「赤血球数」
数値が低いと貧血、高いと多血症の疑いがあります。
・HGB「ヘモグロビン」
数値が低いと貧血や息切れ、めまいなどの症状が現れます。
・PLT「血小板数」
数値が低いと出血が止まりにくくなります。肝臓や血液の病気でも数値が低くなります。
・PT「プロトロビン時間」
血液の固まりやすさが分かります。抗凝固治療の目安として用いられます。
・APTT「活性化部分トロンボプラスチン時間」
血液の固まりやすさが分かります。抗凝固治療の目安として用いられます。
・Fib「フィブリノーゲン」
数値が低いと出血しやすくなります。肝臓の障害で数値が低くなります。
☆その他
・TP「総タンパク」
栄養状態、タンパク質の合成や方に異常がないかを調べます。肝臓や腎臓の病気で数値が低くなります。
・ALB「アルブミン」
栄養状態が悪いとき、肝臓や腎臓の病気で数値が低くなります。
・AMY「アミラーゼ」
急性膵炎や急性耳下腺炎で数値が高くなります。
・CK「クレアチンキナーゼ」
急性心筋梗塞、筋ジストロフィー、甲状腺機能低下症などで数値が高くなります。採血前の運動は控えるべき項目です。
・CRP「C反応性タンパク」
細菌感染や関節リウマチで数値が高くなります。
・BNP「脳性ナトリウム利尿ペプチド」
心筋梗塞や心不全の診断に用いられます。自覚症状が出る前の、早期診断に有用です。
血液検査のミライは進行中
血液検査で「腫瘍マーカー検査」受けた、あるいは耳にしたことがある方も多いかと思います。腫瘍マーカー検査は主に、がん細胞が死ぬ際に出るタンパク質を検出するもので、ある程度がんが進行していないと発見が難しく、また正確性に課題が残されています。そこで国立がん研究センターなどのチームで『1滴の血液から13種類のがんの有無を同時に診断できる検査法』の開発プロジェクトが2014年から始められました。血液中のマイクロRNAという小さな機能性核酸を検査する方法です。また『がんの存在だけでなく、どの臓器かも診断できる新しい検査法』を米国カルフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームが発表しました。がん細胞周辺の正常な細胞が死んだ際に血液中に流れ出る遺伝子DNAを検査するという仕組みです。
2017年には『少量の血液からアルツハイマー病を診断する検査法』を京都府立医科大学の研究チームが開発したとの発表がありました。これまで厚生労働省が認可している検査方法は、患者の背中に針を刺して髄液を採取する方法が採られているそうですが、この新しい検査方法では看護士でも行うことのできる採血なので、血液検査にプラスして行え、高齢化社会となりつつある現代でより普及できると期待されています。
いずれの方法もまだ臨床応用までの道は半ばですが、体に大きな負担を強いることなく色々な検査ができる技術が、近い将来、当たり前になる、そんな日を期待したいですね。
参考
公益社団法人日本人間ドック学会
国立がん研究センター
ネイチャー ダイジェスト
京都府立医科大学