本日より5月となりました。旧暦での月名は「皐月(さつき)」。澄み切った青空の下、風が清々しく心地よくそよぎ、眩い光に新緑がきらめく時節です。全国各地で田植えがたけなわとなり、茶摘みが始まり、藤やツツジ、杜若やあやめ、菖蒲の花が次々と咲き出します。
皐月の「サ」は、「田植え」の意
四季が巡る国・日本で、一年で最も爽やかで清々しく光きらめく月、五月がやってきました。「五月」とは、旧暦で第5の月。通常「ごがつ」と読みますが、「さつき」とも呼ばれ、皐月、早月とも綴ります。
早苗月(さなえづき)ともいわれるこの月は、田植えが盛んで、まさに「早苗」を植える月。さつきの「さ」は神に捧げる稲の意もあり、「田植えの月」という解釈もあるのだそうです。
稲の苗である「早苗」、田植えをする女性を指す「早乙女(さおとめ)」、しとしとと続いて降る長雨を表す「五月雨(さみだれ)」など、さつきにまつわる言葉も様々。そして、もともとは梅雨どきに見られる晴れ間を意味する「五月晴れ(さつきばれ)」は、最近では、ちょうど今時分、五月のカラリと晴れ渡った日を指す言葉にもなっています。
明日5月2日は八十八夜。新茶の茶摘みも始まります
今年は、ゴールデンウィーク期間中の5月2日に迎えるのが「八十八夜」。この八十八夜は、日本人の生活体験から生まれた雑節の一つで、遅霜の害に喚起をうながすものでもありました。古くは伊勢歴にも記載されている大切な日です。
八十八夜の三日後が二十四節気の「立夏」。今年は5月5日で、ちょうど端午の節句と重なります。そろそろ全国各地で新茶の茶摘みが始まるころ。茶畑では日々新芽がすくすくと伸びています。青く広がる空の下に鯉のぼりがはためき、新緑の山々には藤が咲き、きらきらと降り注ぐ陽光に青もみじが透けて見え、季節は今まさに初夏。吹き抜ける薫風に誘われて、足取り軽やかに戸外へ出掛けたくなる折です。
万葉集や伊勢物語の中でも詠われた「杜若」が咲くころ
あやめ、花菖蒲、そして、杜若。いずれ劣らぬ品よく美しく、よく似ていて区別しづらい花々の中で、いち早く五月に咲くのが「杜若(かきつばた)」です。名の由来は、いにしえの染色方法、摺り染めにこの花の汁が使われていたことから。花摺に用いられ「書き付け花」と呼ばれたことからこの名になったそうです。
かきつはた衣に摺りつけますらをの着そひ狩する月は来にけり
このことがよくわかるのが、大伴家持が天平16年4月5日(現在の5月21日)に詠んだこの歌。5月5日の宮中行事であった薬狩の晴れ着は、この杜若を着物に摺りつけたもので、盛装して天皇の供をするのを心待ちにしていた心情が詠われています。
また、「杜若」にちなむ歌としては、「かきつはた」の5文字を歌の各句の第一音に入れた、あまりにも有名な歌もあります。
(か)ら衣(き)つつなれにし(つ)ましあれば(は)るばるきぬる(た)びをしぞ思ふ
都の男(在原業平)が、ある事情から遠く東国まで来た気持ちを、水辺に咲いていた杜若にかけて詠み込んだこの歌。お供の人々も涙して、食していた乾飯がふやけてしまったというオチもなんとはなしに微笑ましい、伊勢物語の東下りの一話です。
紫色にすっと白い筋が入った、気品あふれる佇まいの杜若の花。この花が咲くたび、いにしえ人が詠んだ歌が思い起こされ、私たちの国の歴史が、絵巻物のように甦ってくるようです。
※参考/現代こよみ読み解き事典、万葉植物事典