21日(火)、新潟地方気象台より、北陸の3か月予報が発表されました。今冬は暖冬で、降雪量は少ない見込みとなっています。但し、一時的でも強い寒気が南下すると、短期の局地的な大雪となる可能性もあります。最新情報に注意して下さい。「雪は天から送られた手紙である」は、雪氷学の礎を築き、随筆、絵画、科学映画などにも造詣が深かった中谷宇吉郎が残した言葉です。
▶中谷宇吉郎 雪の科学館(外部リンク)
●気象台発表の最新の3か月予報 平均的には暖冬少雪の傾向
この先、冬型の気圧配置が弱く寒気の影響を受けにくいため、向こう3か月の気温は高く、降雪量は少ない予想です。
その背景には、
地球温暖化の影響などにより、全球で大気全体の温度が高くなっていること、
正のインド洋ダイポールモード現象の影響が残ることと、エルニーニョ現象の影響により、上空の偏西風が日本付近で蛇行し、平年より北を流れるために、本州付近に寒気が流れ込みにくいということがあげられます。
ただし、「この時期に大きな影響を与える北極振動の予想は難しく、現時点では考慮できていません。予報には不確定性があり、常に最新の1か月予報等をご覧ください。」の重要な但し書きがあります。
1か月予報や3か月予報、暖候期予報、寒候期予報などの季節予報は、日別の天気を予報するものではありません。ここから分かるのは、あくまでも北陸平均のおおまかな天気傾向のみとなっています。更に言えば、この季節予報から日常生活へどのような影響があるを想像するのは極めて困難です。
雪の原料である水は日本海から供給されており、海面水温が高い状況が続いています。一時的にも北極の寒気が分裂し、負の北極振動が強化されると、偏西風が大きく南へ蛇行して、北極から強い寒気が南下、短期的局地的な大雪となる可能性があるものとして、対策を怠らないことが大切です。
●暖冬とは 暖冬傾向と短期的な寒気の南下は同時に起こり得る
3か月予報で暖冬とは、冬(12月~2月)の予想平均気温が、平年値の作成に用いる30年間の中で高い方の10年の範囲に入れば「暖冬」となり、夏(6月~8月)の予想平均気温が、平年値の作成に用いる30年間の中で低い方の10年の範囲に入れば「冷夏」となります。
この「暖冬」や「冷夏」は、大変誤解を招きやすい文言です。「暖冬」予想だから、「注意報級以上の大雪がない」或いは、「暖房要らずで冬の期間を通して北陸でも自動車が夏用のノーマルタイヤで過ごせる」などと言うことでは決してないのです。
上の図は、2002年1月の北半球の500hpaの高度と平年偏差を示し、左は1日~30日の約1カ月間、右は1日~5日の5日間の状況を示しています。
日本付近は、左の図では北日本を中心に暖色系の色になっており、北陸地方でも1月の月平均気温は平年より高くなりました。
その一方、右の図で1日~5日頃は、本州付近全体が寒色系の色となり、寒気に覆われていることが分かります。この時は、富山や高田では年始の2日~3日にかけて降雪量が50センチを超える大雪となり、結果的に1月の月降雪量は平年より多くなりました。
この「気温が高いのに降雪量が多い」ということが、実際の現場ではおこり得るということです。短期的な大雪が年末年始の移動の時期や受験シーズンと重なれば影響は更に甚大になる可能性もあります。
地球温暖化の影響もあり、長期的には平均気温は上昇、シーズン降雪量は減少傾向となっています。ただ、北極の寒気が分裂、負の北極振動が強化されると、偏西風が大きく南へ蛇行して、北極から強い寒気が南下することがあります。この北極振動は、季節予報では十分に考慮できていませんので、今冬も、短期的局地的な大雪があるものとして、対策を怠らないことが大切です。
●「エルニーニョで暖冬少雪傾向」は一般論 時には大きな例外も
一般に「エルニーニョ現象が発生している時の冬は暖冬少雪傾向」「ラニーニャ現象が発生している時の冬は寒冬多雪傾向」とされています。一般論としてはうなづけますが、この文言だけをもってして、冬の気温や降雪量の見込みを語るのにはかなり無理があります。逆にその年の状況によっては、全く有益な情報に成り得ないということもあるのです。
今夏は、エルニーニョ現象下で、一般論である「日本は冷夏の傾向」に反して、平均気温は平年よりかなり高く、8月の北陸地方の平均気温は沖縄よりも高くなりました。
また、昨冬(2022年度)の冬は、ラニーニャ現象が発生していましたが、北陸地方全体では平均気温・降雪量ともに一般論通りにはならず平年並みとなりました。それどころか、降雪量は平年より「少ない」或いは「かなり少ない」地点もありました。
年度毎のエルニーニョ現象やラニーニャ現象の発生有無、正及び負のインド洋ダイポールモード現象の状況が確認され、且つ、福井・金沢・富山・高田の冬(12~翌2月)の合計降雪量がいずれも確認できる1952年度以降の冬の降雪量の多寡のランキングを見てみましょう。
降雪量の過去最多や過去最少を記録したのは4地点ともにまさかの平常年で、福井と富山は56豪雪の冬(1980年度)、金沢と高田はともに1985年度で、ともにエルニーニョ現象やラニーニャ現象も発生していない平常年となっていました。また、記録的な大雪として後世に語り継がれている38豪雪(1962年度)も、平常年となっていました。更に、多くの地点で過去最も降雪量が少なかった2019年度の冬も、平常年でした。更に言えば、富山で歴代2位の降雪量となった1976年度は、一般論で暖冬少雪傾向とされるエルーニョ現象下での出来事です。
最後は、エルニーニョ現象下で正のインド洋ダイポールモード現象の影響が残ると暖冬になり易いとされている件です。
1982年度の事例をみると、立春後の2/7~13にかけて、日本付近には強い寒気が南下して、まとまった降雪となりました。北陸4地点の福井・金沢・富山・高田(新潟)の降雪量は、北陸西部の3市で100センチ前後、高田では、200センチ前後にも達する大雪となり立春後の寒波となりました。
これは、季節予報で十分考慮出来ていない負の北極振動が強化されたこともあり、結果的に冬の期間を通して、気温は平年より低く、降雪量は平年よりかなり多くなったものと考えられます。
寒気の動向やどこでどのくらいの降雪量が見込まれるかということは、直前まで見極めをしないと分からないということです。