
<全国高校野球選手権:組み合わせ抽選会>◇3日◇大阪・フェスティバルホール
春の王者が、最強世代といわれた偉大な先輩の歴史に挑む夏が始まる。第107回全国高校野球選手権大会(5日開幕、甲子園)の組み合わせ抽選会が3日、大阪市のフェスティバルホールで行われた。春夏連覇を目指す横浜(神奈川)は、第3日の第1試合で敦賀気比(福井)と初戦を迎える。秋の明治神宮大会と春夏の甲子園を制したのは、松坂大輔氏を擁した98年の横浜のみ。史上初、2度目の大記録へ。主将の阿部葉太外野手(3年)は、部員71人の結束力で挑むと誓った。
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誰もが阿部葉の右手に注目していた。抽選順で横浜がコールされると、場内が一瞬、水を打ったように静まり返った。村田浩明監督(39)に「オマエが一番これだと思う札を引け」と言われた通り、迷いなく向かって右側のカードを引いた。
「横浜高校、6A」
阿部葉が大きな声で読み上げると、一斉にざわめいた。初戦は15年センバツ優勝の敦賀気比に決まった。
「会場が静まり返ってビックリしましたよ。でも、それだけ注目されているんだな、って思いましたけど。僕も緊張しました」と話す村田監督とは対照的に、落ち着いた表情だった。「どこが初戦できても大丈夫という心構えでいました」。その右手には、部員71人の思いが込められていた。怖いものなんてない。自信にあふれていた。
涙が自信を生んだ。昨秋の明治神宮大会、今春センバツを制覇。公式戦27連勝だったが、春季関東大会準決勝で専大松戸(千葉)に敗戦。6月には大阪桐蔭に練習試合で敗れた。試合後、3年生だけでミーティングし、1人ずつ約3分、本音を語った。阿部葉は、林田大翼マネジャーが涙で訴えた言葉に胸を打たれた。「みんなで甲子園に行きたい。僕を日本一のマネジャーにしてほしい」。切実な思いに、涙があふれた。「選手を断念してマネジャーをやってくれている。それなのに…僕らは自分の結果に一喜一憂している」。涙をぬぐうと、仲間にこう呼びかけた。「自分のプライドを捨て、横浜のプライドだけをもってやろう」。
チャンスには手堅くバントでつなぎ、勝負に徹するのが横浜野球。夏本番を前に「全員野球」に回帰した。6月29日の背番号渡しの日には、保護者やチームメートの前で涙で宣言した。
「みんな我が強い部分はあるんですが、本当に仲間のためを思って行動ができるメンバーがそろっていると思っています。未来の横浜のためにも、この夏をしっかり戦い抜きたい」
夏の神奈川大会ではメンバー外の選手が、4回戦終了後からはシート打撃中に一、三塁側ベンチ前に並んで声援を送った。5回戦からは試合前のシートノックで、スタンドから練習と同じように声を張り上げた。いつも心に響く、仲間の熱い声。全員で戦い抜き、1戦ごとに唯一無二の一体感を持つチームに成長した。
涙を乗り越え、笑顔で甲子園に帰ってきた春の王者。次に流す涙は、偉大な先輩たちに並んだ時。それは、笑顔にあふれた、うれし涙に決まっている。松坂世代のようなスーパースターはいないが、部員71人の「思い」が詰まった、最高の夏が始まる。【保坂淑子】
◆甲子園の春夏連覇 過去7校が8度達成。横浜は98年に達成しており、2度目なら12、18年大阪桐蔭に次いで2校目となる。横浜は昨年秋の明治神宮大会も優勝。秋→春→夏の全国大会3連覇なら97、98年横浜に次いで2度目となる