
<三浦知良プロ40周年特別記念試合 JFL:鈴鹿3-3三重>◇6日◇第15節◇三重交通Gスポーツの杜鈴鹿
58歳130日、日本サッカー不世出のキング・カズここにあり-。鈴鹿FW三浦知良が、プロ40周年を銘打ったホーム三重戦のピッチに先発出場を果たした。言わずもがなのJFL史上最年長記録。前半45分間で途中交代となったが、前半早々に絶妙なスルーパスを披露するなどファンを魅了した。試合は序盤に3点リードをされながら、チームはカズさながらの不屈の精神を発揮。終了間際のPKで3-3のドローに持ち込んだ。
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絵になる男-。プロ40年目、カズの夏祭りが鈴鹿で燃え上がった。会場に集まった観衆はクラブ史上最多の約5000人。試合開始3時間前から周辺道路は大渋滞し、多くの県外ナンバーの車が列に並んだ。不世出のキング・カズの雄姿をひと目見ようと集まった。
夏の強い西日に照りつけられた午後6時。母由子さんも駆けつけた。試合前には花束を受け取り、記念撮影に納まった。クラブのスポーツダイレクター(SD)を務める兄泰年さんは、いつものように陰から見守った。キャプテンマークを巻いたカズは、試合開始とともに懸命にボールを追った。しかし前半2分、早々に先制点を許す。ピッチで仲間を鼓舞した。すると同6分、昔と変わらぬ華麗なプレーで観衆を魅了した。
左サイドでスローインを受けると、ワンタッチで前へボールを置き、相手と入れ替わった。すぐさま左前方を走るFW三好辰徳へスルーパス。スタンドからは「うめー!」。どよめきが起こった。三好はすぐさまゴール前へ折り返しのボールを送り、走り込んだFW桐蒼太が押し込んだ。カズを起点に同点ゴールか。そう思われたが、副審の旗が上がってオフサイド。得点にはならなかったが、カズらしい技術が詰まったプレーだった。
最前線に立ち、相手と体をぶつけ合った。競り合った際には両手から前のめりに倒れた。白髪が目立つ58歳が、20代の屈強な男たちと本気で戦う姿に偽りはない。妥協のないプロ意識がファンの心を熱くする。58歳の今もピッチに立ち続けられる理由はそこだ。
1982年(昭57)に静岡学園高を中退し、16歳でブラジルへ単身で渡った。王国でプロになる-。下積み生活の厳しさに1度はプロになることを諦めた。だがある時、現地の貧しい子供たちの姿を目にし、踏みとどまった。プロへの下地となったのはハングリー精神だ。86年2月に「サッカーの王様」ペレを輩出した名門サントスとプロ契約。そこから始まったサッカー人生は40年目に突入した。常にあるのは“今日よりも明日”。新たな自分への期待と向上心で、体にムチを打ち続ける。
最年長記録を更新し続けるカズはこう言う。「今までの積み重ねがあって。特に自分の年齢で思うことはない。まだまだ試合でもっと自分らしさを出せるプレーをしたい」。あるのはアスリートとしての矜持(きょうじ)だ。
W杯に出たことはない。それでも誰からも一目置かれる理由は、その飽くなき挑戦心ゆえ。記録よりも記憶に残る男が、自らのサッカー人生に新たな章を刻み続ける。【佐藤隆志】
◆カズの年長記録 J2横浜FC時代の17年3月12日の群馬戦でゴールを決め、50歳14日でJリーグの最年長得点記録を更新。「リーグ戦でゴールを決めた最年長のプロサッカー選手」としてギネス世界記録に認定された。21年3月10日の浦和戦ではJ1の最年長出場記録を54歳12日に更新。フランス紙レキップは「三浦は60歳までトップレベルでプレーするつもりだ」と驚きを持って伝えた。ポルトガル2部オリベイレンセでは56歳だった23年4月22日のビゼウ戦で途中出場し、同国の最年長出場記録を塗り替えた。