
<日本生命セ・パ交流戦:阪神8-2オリックス>◇7日◇甲子園
プロ7年目で1000安打にスピード到達した阪神近本光司外野手(30)が打撃技術を自ら解説した。「投高打低」の時流にあらがって、毎年変わらず安打を量産。その裏で決断した知られざるフォーム改良とは。現代では珍しく「ものまね」しやすい個性的な打撃フォームには、誰にもマネができない秘密があった。【取材・構成=柏原誠】
◇ ◇ ◇
右足を高々と上げて、弓を引くようにトップを作る。野球ファンならすぐにイメージが湧く、あのフォルム。野球少年はみんな、1度はマネしています-。そう伝えると、近本はうれしそうに笑った。
「特徴的ですよね。マネしたくなる気持ち、分かります。あの足を上げた形は、自分でも結構好きです。たとえば、イチローさんの振り子打法はバットの直線と体の曲線が交ざっていて、シルエットがすごく美しいから好きです。自分も、シンプルで美しいデザインでありたいですね」
もちろん、美しさを求めてたどり着いたわけではない。少年時から足は高く上げていた。体の構造に合った自然な形だった。「今は意識して上げてはいません。(体に)任せている。だから時期によっても、昨日と今日でも上げ方は違うと思う」。投手の動きを見ながら始動。あのフォルムは、すべての準備を終えて投球を待ち構えている姿だ。あとは「そこが全て」と言うタイミングを合わせることに集中する。タイミングが合えば、積極的にスイングをかけていく。
足を上げるのは左足に体重を乗せて軸を作るため。ただし入団1年目と比べ、構えも足の上げ方も変わった。左膝を内側に絞るようになり、足上げの高さは控えめになった。改良の裏には、意外な“事情”が関係していた。
「前はクイックピッチとかがあまりなくて、みんな同じように投げてきた。でもコロナ明けくらいから、走者がいなくてもクイックしてきたり、逆にゆっくり投げたりしてくる投手が明らかに増えましたね」
理由ははっきりしないが、事実として20年からセ・リーグでは3割打者が年々減少。投手への対抗策を迫られる中、あらかじめ体重を軸足に乗せておく待ち方にシフトした。余計な動作を省き、瞬時の対応力を少しでも高めるためだ。
「以前は重心が後ろ7割で待っていた。クイックピッチが入るようになった頃から、後ろ8~9割くらいに変えました。最初から体重が軸足に乗っているから、足の上げ方はそう重要ではない。ただタイミングをとることだけに使っている感じ。ほかに重要なことがあるので、足上げの意識を少なくしました」
重心のほとんどを後ろに残す典型的な軸回転。前への重心移動が少ない分、パワーは伝わりにくいが、再現性、確率を優先してきた。プロ入り以来の成績を見れば説得力がある。
「100点か30点か、ではなく、70~80点を確率よく出したい。ポイントの分布を多くするというか。タイミングを崩されたとしても、いつも自分のスイングができることが目的。それができれば、ある程度(いい打球になる)可能性は高くなると思うので」
野球はタイミングの外し合い。その勝負で負けないよう、研鑽を重ねてきた。静止画では同じように見えても、決まった「型」は存在しない。ものまねしやすいのに、誰にもマネができない。技巧の極致といえる芸術的フォームだ。
▽阪神高寺(チーム随一のものまね名人で、近本もレパートリー)「やりやすいですね。軸足を内側に入れて、バットのヘッドを前に倒して構える。足を高く上げて、あとは打ち終わりも。かっこいいです」