
米国は、毎年5月の最終月曜日がメモリアルデーとなります。それは夏の季節の始まり、すなわち本格的な野球シーズンの到来を意味します。全米各地では気温の上昇とともに打球が飛び、本塁打が出やすくなります。野球の華とも言えるホームランの季節がやって来ます。
そこで、大リーグでは投手の完全試合(24人)よりも希少価値がある、今年4月26日にダイヤモンドバックスのユジニオ・スアレスで史上19人目となった「1試合4本塁打」という記録について注目したいと思います。なぜなら、この時期に数少ないながらも、多く達成されているからです。
まずは1894年5月30日、ビーンイーターズのボビー・ローが史上初の1試合4本塁打を達成。大リーグ18年間で生涯71本塁打という成績を見てもお分かりの通り、決してスラッガーとは言えない選手。しかも、身長172センチ、体重70キロ足らずの小さな体で、1イニング2発を含む4本塁打を放ち、大きな話題となりました。
20世紀になると、1932年6月3日にヤンキースの“鉄人”ルー・ゲーリッグが、近代野球史上初の1試合4本塁打をマーク。いつも同僚ベーブ・ルースの陰に隠れていた男が、ルースも成し得なかった偉業を達成しました。しかし、くしくも同じ日にジャイアンツの名将ジョン・マグロー監督が勇退。新聞の片隅に追いやられてしまったというエピソードも残っています。
59年6月10日には、インディアンスのロッキー・コラビトが1試合4本塁打。しかも、ロー、ゲーリッグに次ぐ史上3人目の4打席連続ホームランで記録しました。ちなみに、その年ア・リーグ本塁打王に輝きましたが、翌年のシーズン開幕前日にタイガースの首位打者ハービー・キーンと電撃トレードが成立。タイトルホルダー同士のトレードで、世間を驚かせました。
今世紀に入っても、2002年5月23日にドジャースのショーン・グリーンが、1試合4本塁打を打ちました。名門球団の長い歴史でも初の偉業を成し遂げ、その前年には球団記録の49本塁打をマークしました。その偉大な記録を昨年、ドジャース大谷翔平投手が23年ぶりに破ったわけです。
その後は17年6月6日にレッズのスクーター・ジェネットが、1試合4本塁打を達成。その偉業を成し遂げた時点で、彼はメジャー通算42本塁打しか放っておらず、つまり、生涯ホームラン数の約9・5%を1試合で打った計算となりました。これまでで、最もありそうもない記録達成者として話題を集めています。
さらに言うと、1986年7月6日のブレーブス時代に1試合4本塁打を放ち、翌年ヤクルトで“赤鬼”旋風を巻き起こしたボブ・ホーナーら、6月だけでなく、7月も5人の選手が1試合4本塁打を達成しています。こうして見ても、いかにこの時期に記録が多く生まれるかわかると思います。
したがって、2年連続本塁打王に輝く大谷にも、ひそかに期待したくなります。何しろ、昨年9月19日の「50-50」達成時に自身初の1試合3本塁打を放ち、今年は5月15日のアスレチックス戦で4回までに2本塁打をマーク。そして、何より例年6月に絶好調を迎えるからです。
また、今年は開幕から1番打者を務め、1試合に5打席、6打席立つことも可能です。それと2番にムーキー・ベッツがいるので、相手投手も大谷と勝負せざるを得ない状況。個人の記録よりもチームが勝つために自己犠牲をいとわないタイプだけに、記録に執着することはないにせよ、チャンスはあるかもしれません。
いずれにせよ、伝説の本塁打王ルースも成し得なかった偉大な記録だけに、いつか大谷に1試合4本塁打の偉業を達成してほしいと思います。【大リーグ研究家・福島良一】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「福島良一の大リーグIt's showtime!」)