
<阪神5-2広島>◇17日◇甲子園
この上なく大事なイニングだと、誰よりも本人が自覚していた。先制点をもらった直後の5回表2死。阪神大竹耕太郎投手(29)は広島モンテロを3球三振に仕留めると突然、ほえた。
剛速球だけが気迫の象徴ではない。持ち味の緩急に全身全霊を注ぎ、広島打線を手玉に取った。直球の最速140キロと超遅球77キロの球速差は実に63キロ。8回途中2失点で今季初勝利を手にして、カープキラー健在を印象づけた。
「プロ1勝目とか1勝目にもいろいろあるけど、今回の1勝もすごく重みがある。満員の中で投げられるありがたみを感じました」
キャンプ終盤に下肢を痛め、開幕2軍と出遅れていた。今季2戦目で白星をつかみ、胸をなで下ろした。
4番末包から超遅球で2打席連続凡退に仕留めるなど、7回まで5度の3者凡退で無失点。8回こそモンテロに2ランを浴びたが、安定感が際立った。「球速表示とかじゃなく一生懸命投げようと。かわしていくことが得意であるが故に、力を入れなきゃいけないところで体が動いてくれない」。5回3失点と苦しんだ7日2軍戦の反省も生かし、これで広島戦は通算14試合登板で10勝1敗、防御率1・35となった。
開幕当初のファーム調整中、思い返したのはソフトバンク時代の2軍生活だった。当時は1軍に呼ばれても「打たれたらどうしよう」。今春もネガティブな思考にのみ込まれかけた。「あの時に戻っているような感覚というか…」。それでも冷静に心を整えた。
2軍調整中は「プラトー現象」という理論に助けられた。
「人間は成長していく段階で絶対に1回戻る。成長はらせん状。段階的には1個上だというもの。成長しているからこそ元に戻っている。楽になりました」
2年連続2ケタ勝利で迎えた今季。悩んでいたソフトバンク時代とは目指す数字も立場も大きく変わった。「当たり前の基準が上がっているから、そこで落ち込める」。冷静に自分を客観視し、マウンド上では気迫をむき出しにした。
「非常に大きなピースが帰ってきた」。藤川監督の大竹評が存在の大きさを物語っていた。【塚本光】