
<阪神-巨人>◇25日◇甲子園
阪神OBの田淵幸一氏(78)が声を詰まらせた。
「いや…」と言って、目頭を押さえてしばらく沈黙。「泣けてくる。懐かしい。昔を思い出す。年を取ると涙もろくなるって本当なんだな」と両目に涙を浮かべた。
体調が不安視されていたOBの江夏豊氏(76)が、サプライズでファーストピッチセレモニーに登場した。当初は田淵氏と掛布雅之OB会長(69)だけが発表されていたが、江夏氏の来場も実現。車いすでマウンド付近に到着すると、立ち上がった。実際にはボールを投げなかったが、かつてのダイナミックなフォームを想起させるように左腕を振り、拍手喝采を浴びた。
捕手役の田淵氏は、立つことは知らされておらず、驚いたという。「やっぱりみんなが見て、この懐かしいマウンドで俺は立たなきゃという気持ちが、立たせたんだと思いますよ」
ともにプロ入りは阪神。田淵氏が入団した69年から江夏氏が最後に在籍した75年までの7シーズンだけだったが「黄金バッテリー」として数々の栄誉と名勝負を刻んだ。その1つが、71年の球宴で達成した伝説の9連続奪三振だ。
この日、控室では9連続奪三振の思い出話にも花が咲いたという。後輩の掛布氏も交えてのひととき。同じく球場を訪れていた江本孟紀氏(77)とも会話した。「今日は3人で懐かしの思い出作りができてよかったよ。タケ(江本さん)はいい後輩だわ。俺の肩を貸してくれたり、電話くれたりして」と穏やかに笑った。
藤川球児監督(44)には「頑張って。胴上げを我々に見せてくれ」と伝えたという。レジェンドデーだったこの日は「ミスタータイガース」がテーマだった。好調の佐藤輝の話を振られると「私は(足を)骨折して『ミスッたタイガース』になっちゃったけどな。今年の佐藤はひと味違うよ。(巨人)岡本とタイトル争いすると思う。やっぱりミスターというのはファンが期待して、ここで頼むよというところで打つのが本当のミスタータイガースになる条件だから。これが誰になるか分からないけどね。掛布のあとに誰が継いでくれるかな。そういうものが出てきたら、優勝しているよ」と期待を寄せた。
甲子園のグラウンドに立つ感動も改めて口にした。「いつ来てもいいね。ここでいろんなドラマがあったなと。そうだ、デッドボールで倒れたこともあった、サヨナラホームランを打って、柵を乗り越えてファンと一緒に旗を持って。昔のファンは面白かったなあという思いもしながら。語り尽くせないくらい思い出のある球場ですよ。また呼んでいただければ。もう涙は流しません。今日は3人がいたから、グッとくるものがあったけどね。良かったね」と、何度もうなずいた。