
日刊スポーツ評論家の里崎智也氏(48)と田村藤夫氏(65)による「ダブル解説~あなたはどっち派~」をスタートします。同じ試合を両氏がそれぞれの視点から解説します。ロッテの同じ背番号「22」を背負った捕手出身の解説者として、異なる野球観から、勝敗の分岐点を探ります。2日に行われた中日-巨人戦(バンテリンドーム)から、中日のルーキー捕手・石伊雄太(24)にスポットを当てます。
【田村藤夫の解説】
6回2死三塁。柳と石伊のバッテリーのしぐさに、私は吸い込まれるように見入っていた。打者はヘルナンデス。カウント3-2のフルカウントからの7球目だった。
柳はマウンドで首を振っていた。受ける石伊はプロ初スタメンマスク。私にも経験がある。初スタメンで、はるか先輩でそれも実績ある投手に首を振られて、それでも自分の考えを押すことは、ちょっと想像できない。
恐らく、私の推察だが石伊はスライダーか、フォークのサインだったのではないか。これに対して、柳が選択したのは外角真っすぐ。石伊は外角真っすぐにリスクを感じていたのだろう。
柳がセットポジションに入り、さらに足を上げてもまだ、両手を大きく開きながら「広く、広く」というジェスチャーをしていた。これが意味するのは、ボールになってもいいから、コース甘くならないように、ということだったと思う。
石伊はこの外角真っすぐに対して、心の奥底では納得していなかったのではないか。しかし、柳は真っすぐで押したい。であるならば、せめてボールになっても構わないからと、ギリギリまで意識づけをしたかったのだろう。
だが、投手は本能的に四球は避けたくなるもの。それがいい悪いではなく、投手とはそういうものだ。一塁は空いている、続く打者は甲斐。ヘルナンデスと比べれば甲斐で勝負という攻め方もあっただろう。
ヘルナンデスの打球は右中間への二塁打となり、ダメ押しの2点目が入った。打たれて石伊はあらためて思ったはずだ。マウンドに行くなり、タイムをかけるなり、もっとやれることはあったのではないかと。
この打席、柳と石伊はフルカウントにいたるまで、非常にうまく攻めていた。外角スライダーを続けて1-1、内角に真っすぐを見せてボール先行も、低め変化球で空振りを奪い2-2。外のスライダーでフルカウントになり、6球目は外のボール気味のスライダーでファウルを打たせた。
私は2球目、4球目、6球目の変化球への対応が、変化球を待っての打ち方ではなく、真っすぐ狙いのスイングに感じた。何とかバットに当てた、もしくは空振りしていたように見えた。ゆえに、石伊は最後も変化球で勝負と描いていたのだろう。仮に真っすぐだったとしても、外角ではなく内角だったのではないか。
石伊には悔いが残る1球になったはずだ。そして、これはルーキー捕手のつらさであり、捕手としての長い道のりの最初の1歩になった。
試合後、先輩の柳とどんな会話をしたか。そこから石伊が再び同じシチュエーションになった際どうすべきかの貴重な教訓を得る忘れがたい1球にしてほしい。いや、そうしなければならない。(日刊スポーツ評論家)
【里崎智也の解説】
プロ野球が開幕して、私がひそかに期待しているのは、12球団で新しい捕手の台頭はあるのか、ということだ。
後述するが、捕手は評価を上げることが他の野手に比べ困難な特殊ポジション。ゆえに、新しい力が芽吹くことに、厳しくも温かい視線は常に持っていたい。中日の石伊は今季初スタメンで、ディフェンス面での確かな技術を感じさせてくれた。
先発柳を巧みにリードしていた。球種が豊富な右腕を、特定の球種に偏らずまんべんなく、かつ緩急を駆使していた。1点ビハインドの6回1死三塁。岡本には初球から4球連続で内角を攻めた。5球目は外角へスライダーで目線を外に広げさせておいて、最後はフォークで腰を引かせての二飛。
勝負球へのプロセスを描きつつ、臆することなく内角を使った。及第点と言える。さらにブロッキングもいい。しっかり前にはじいている。さすが日本生命を経てプロ入りしただけのことはある。
スローイングでは4回、柳が岡本にモーションを盗まれていたが、それでも捕ってからの送球動作と制球は十分に通用する。
4回と6回に岡本、キャベッジに完全にモーションを盗まれた。柳が足を上げる前にスタートしており、クセがあるのかもしれない。こうした点は捕手としては見過ごせないと感じていると8回、3番手の左腕橋本とのバッテリーで、1死一塁でしっかり走者キャベッジにけん制を入れていた。
私は見ながら「そうそう、分かってるな」と言葉が漏れてしまったが、捕手としての観察眼も学習能力も十分に備えているなと、感じさせてくれた。
石伊は8回の第3打席で代打を送られた。ある意味、私にとっては理想的な初スタメンでの結末だった。そう、冒頭で触れたように捕手は自身のプレーを、他力でなく評価されるのは打撃だけ。守備面は投手の力量に左右され、現に盗塁ではクイックの質に大きく影響される。
つまり、いくら配球で最少失点に抑えても援護がなければ負ける。勝つか、打つか、そのどちらかでなければ評価されない捕手の宿命を、代打を送られた中で、よくかみしめてほしい。
試合終盤に代打を送られる捕手は正捕手ではない。単なる1番手捕手でしかない。ディフェンスで一定のレベルにある石伊は勝負できる立ち位置にある。だから打つしかない。そこだけを目指してほしい。未来の侍ジャパンも夢ではないのだから。(日刊スポーツ評論家)