
高校からの「直メジャー」で、新たな道を切り開く。東京の進学校、桐朋高からアスレチックスに入団した森井翔太郎投手兼内野手(18)が、プロ野球を経由せずに大リーグ入りを決断した理由、投打二刀流のこだわりなどを語った。
無条件にメジャー行きを決めたわけではなく、考え抜いた末の結論だった。将来的なメジャー志向を持つ高校生たちのモデルケースになるか、注目されている。【斎藤直樹、平山連】
■契約金うれしかった
森井は偏差値71の進学校から、日本もしくは米国の大学どころか日本プロ野球も経由せず、米大リーグに直接進む。2月の記者会見では「早いうちからアメリカに行って慣れた方が、メジャーに上がった時にすぐに活躍できるんじゃないか」と理由を語った。契約金は151万500ドル(約2億2700万円)だった。
森井 正直、金額イコール評価になるので、そのぐらい評価をしてくれたのがうれしかった。アメリカは物価が高いので日本円換算したら今は円安なので高く見えますけど、1ドル100円だったら1億5000万円。金額が独り歩きしている。金額が決め手というより、幼い頃からメジャーに行きたくて、高校から入ってマイナーからやっていく方が幸せだと思っていた。
NPBでもドラフト上位指名が確実視されていた。日本の最高契約金は、出来高を含めても1億5000万円。やみくもに夢をつかみに行ったわけではない、現実的な線引きも踏まえていた。もし契約金が1万ドル(約150万円)程度だったなら。
森井 いや1万ドルだったら、行かないですね。さすがにやっぱり。メジャーで活躍したい思いはあるし、NPBが素晴らしいリーグだとも分かってます。やっぱりそれなりの金額がないと、アメリカで生活する一定レベルの食事だったりとか、住まいだったりを確保するのが厳しい。一定レベルの金額がないと、現実的な問題、行けないと思いました。
50万ドル(約7500万円)程度ならどうか。物価の高い米国なら、金額の半分程度に感じられるかもしれない。
森井 50万ドルなら、正直やっぱり食事とか、物価とかいろいろ考えたら、まだちょっと厳しいかなというのはありましたね。
頭脳は明晰(めいせき)で、米大進学に必要な英語試験TOEFLも68点をマークしていた。両親は大卒で、法学に興味もあった。佐々木麟太郎(花巻東→スタンフォード大)のような経路は考えなかったのか。
森井 頭の方で名門というよりは、野球が強い大学から(奨学金付きオファーが)来ていました。夏の大会が終わって考えていく中で、すぐにプロに入って、プロの球に慣れたり、プロの生活に慣れたかった。アメリカの大学という選択肢はだいぶ早めに消えました。
■こだわり投打100守99
ア軍からは引退後、学業補助金25万ドル(約3750万円)が支払われる。
森井 母(純子さん)が法律が趣味というか。大学は経営学部だったのに、法学部の授業に潜り込んでいたそうで。法律は知っていて損はないかなと。アメリカの大学に行こうとしていた時は「法学部」とあっせんしてくれる会社に伝えていた。野球がなかったら、挑戦したかった。
3月上旬に渡米し、マイナーのキャンプでもまれている。現在は内野手登録だが、最速151キロを誇り、高校から再度始めた投手兼任を希望している。
森井 ピッチャーは小学校の時は結構やっていて。中学校はコントロールが悪過ぎて、やっていなかった。どうにか直そうと練習しているのがすごい好きで。(今は)ピッチャーの練習が一番好き。最速はあまり関係なくて、平均でどれぐらいスピードが出せるのかが大事。究極、平均100マイル(約161キロ)を1つの目標にしています。
投打二刀流のドジャース大谷翔平はDHだが、森井は遊撃の守備も含めて“三刀流”を目指している。
森井 守備に対するこだわりは、ピッチングとバッティングに比べたら薄いかなと思うのですが。でも、守備が好きですし、ピッチャーとバッターが100だとしたら、守備が99ぐらい。ほぼ変わらないぐらいですね。こだわりは。
投手の目標はサイ・ヤング賞2度のデグロム(レンジャーズ)で、野手としての目標は驚異的な身体能力を誇るデラクルス(レッズ)だが、米国で練習した経験から現実も見据える。
森井 中南米の選手たちはバッティングはすごいイメージがあった。守備のうまさは衝撃を受けた。ルーキーの同じレベルの同じぐらいの年の人でさえ、とんでもない守備をする。どう戦っていくのかを考えた時に、肩で勝負できると思えない。ハンドリング、球際の強さ、確実性だったりとかで勝負するしかない。
5月からルーキーリーグの公式戦が始まる。1年目の目標は。
森井 もちろん上がりたいのはあるけど。その前に食事に慣れたり、監督、コーチとコミュニケーションを取ったり、英語をしっかり習得するとか基礎的なところ。あとは週5日の大変なスケジュールを1年間けがなく、こなす。
メジャー昇格へのロードマップは。
森井 4、5年目ですね。それぞれのレベル、ルーキー、ローA、ハイA、2A、3Aに1年ぐらいでいけたら。それでもすごくいい方なので。
マイナー生活に5年かけても23歳。「直メジャー」の利点を生かすつもりだ。
◆森井翔太郎(もりい・しょうたろう)2006年(平18)12月15日、東京都生まれ。小1から野球を始め、4、5年時に武蔵府中リトルで全国大会優勝。6年時には西武ジュニア入り。桐朋では1年夏から三塁手でレギュラー。2年秋からは遊撃手兼投手を務めるも、甲子園出場なし。高校通算45本塁打。184センチ、89キロ。右投げ左打ち。
◆日本プロ野球を経ないで大リーグに挑戦した日本の高校出身選手 これまで後松重栄(大曲工)川畑健一郎(天理)奥田ペドロ(本庄第一)ら50人以上が大リーグ球団の傘下マイナーに進んだ。メジャーに昇格したのは鈴木誠(滝川二中退→マリナーズ)多田野数人(八千代松陰→立大→インディアンス)田沢純一(横浜商大高→ENEOS→レッドソックス)の3人だけ。