
<広島2-0阪神>◇30日◇マツダスタジアム
小さな巨人が大きな1歩を踏み出した。阪神ドラフト1位左腕の伊原陵人投手(24)が、プロ初登板で2回を1安打無失点。上々の1軍公式戦デビューを飾り、敗戦の中で光り輝いた。
威風堂々、マウンドに立った身長170センチの背中が大きく見えた。「自分は自信を持って投げないといけないタイプ。そのための準備をしてきました」。終始、プロ初登板とは思えない落ち着いた表情で、テンポよく両コーナーを突いた。
0-2の6回からの3番手。菊池、石原を内野ゴロに抑え、森は143キロの外角直球で見逃し三振に斬った。7回も簡単に2死を奪い、小園も左飛で完全デビューかと思いきや、前川が目測を誤って二塁打に。それでも動じず、続く4番モンテロをフォークで空振り三振に仕留め得点を与えなかった。「必要なところで絶対出番がくると思っていた。良い緊張感の中で投げられた」と納得の表情だ。
伊原はドラフト指名直後から「ゼロへのこだわり」を口にしてきた。「勝ち星や防御率を残したい思いはもちろんある。でもとにかくゼロに抑えることを大事にしていきたい」。
原点は高校時代の苦い記憶だ。母校智弁学園(奈良)の恩師、小坂将商監督(47)は当時の伊原を「勝負弱い投手」と表現する。「僕からしたら勝ち運がない。3年のセンバツは行きましたけど、2年夏も3年夏も県大会で天理に負けましたからね」。伊原も「精神的にしんどい3年間」と振り返る。0で抑えれば負けない。勝負強い投手を目指し大商大、NTT西日本ではチームを全国大会へ導いた。あの夏の悔しさを糧に1軍初登板でも躍動した。
「良かった点もあったけど、反省点を次に生かしていきたい」と早くも前を向いた。藤川監督も「しっかりといい結果でまた次を迎えると思います」と左腕への信頼を深めた。「阪神のドラ1」という重責に負けず、プロ初登板という節目のマウンドで勝負強さを発揮。背番号18への期待がますます高まる。【山崎健太】
◆伊原陵人(いはら・たかと)2000年(平12)8月7日生まれ、奈良県出身。智弁学園3年春の甲子園に出場し、初戦(2回戦の)の日大山形戦は5回2失点で勝利投手。3回戦の創成館(長崎)戦は9回途中1失点と好投したが敗れた。2学年上に阪神村上頌樹らがいる。大商大ではリーグ戦15勝1敗、防御率0・91でドラフト候補に上がったが指名漏れ。NTT西日本を経て、24年ドラフト1位で阪神入団。契約金1億円、今季年俸1600万円(推定)。170センチ、77キロ。左投げ左打ち。座右の銘は「負けられません、勝つまでは」「初志貫徹」。
▽伊原の恩師、智弁学園・小坂将商監督 練習中だったので結果だけ見ましたが2回27球、良かったと思います。高校時代からマイペース。一見何も考えていないように見えますが、そこが良いところでもあります。(同校OBで開幕投手の)村上も良かったですね。前川も含めて、教え子がそろって頑張ってくれているのはうれしいです。伊原はまず任されたところで、頑張っていってほしいです。