花咲徳栄(埼玉)が29日、練習納めを行った。この日、取材に訪れた。部員たちは順番に昼食中。「こんにちは」とあいさつを交わした。来客への全体での一斉あいさつや、気合の入ったあいさつを徹底させている高校ではない。“素”に近い高校生が見える。
5年ぶりにアマチュア野球取材を務めた。特に高校野球現場では「ちわっ」「こんちわっ」が減り、自然な笑顔で「こんにちは」とあいさつしてくれる高校生が間違いなく増えた。センバツ出場が有力な横浜(神奈川)や健大高崎(群馬)も「こんにちは」だ。
部員で話し合い、来客に一斉あいさつすることを始めた強豪校もある。スタイルはいろいろ。正解はない。ただ「結局部活を離れたり、社会に出てからも普通にあいさつできなければ、何も意味がない」とある高校の指導者は話すし、それこそ本質でもある。
慶大・清原の0からの挑戦、早大・印出のボキャブラリー、法大・篠木の言語化能力、健大高崎・箱山のリーダーシップと高校野球観…今年のアマ球界にも多くの“才能”があった。
ただ、この1年間で最も記憶に色濃い人物は、彼らではない。
6月、高校野球神奈川大会の抽選会。168チームの主将やマネジャーたちが一斉に集う場だ。私たち日刊スポーツ取材班は会場に早く着きすぎて、スーツ姿で開場を待っていた。
多くの野球部員たちが同じようにやってきて、私たちの前を通り過ぎ、開場を待つ。時に“チラ見”しながら。数十人が通り過ぎ、初めて「こんにちは」とあいさつしてくれたのが、弥栄の梶彩香マネジャー(3年)だった。
梶マネジャーのあと、何校もの部員たちが私たちとあいさつを交わす流れになった。なぜ見ず知らずの大人にあいさつしたのか。後日、彼女に尋ねた。
「人通りが少なく、私たちのように抽選会に来た以外はあまり人がいなかったので。関係者の方だろうなと思って。あいさつしない選択肢がなかったです」
これこそ形式的なものの対岸にある、“本物”のあいさつなんだと思う。果たして自分が同じ立場だったら同じようにできるか。100%の自信はない。
取材の録音にドアの開閉音が入らぬよう氷点下の屋外で10分も待ってくれていた別海(北海道)の坂野下瑛太マネジャー(1年)にも心震えた。
若い野球人に多くを教わった1年が終わった。25年は西武担当を務める。手負いの獅子。あいさつと同じこと。チームや社会に何かを生み出そうと動く人の挑戦を、しっかり目撃したい。【金子真仁】