<新春インタビュー>
五十にして天命を知る-。侍ジャパン井端弘和監督(49)が新年のインタビューに応じ、26年3月のWBCを見据えた25年シーズンの抱負を語った。すでに現役日本人メジャー選手と直接会い、出場の“内諾”を取るなど精力的に動いていることを明かした。ドジャース大谷翔平投手(30)にも、再び二刀流での活躍を期待。今年5月に50歳を迎える侍指揮官が、世界一奪回とWBC2連覇の「天命」を全うする。
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429日後、またあの熱狂がやってくる。侍ジャパンが臨む26年WBC開幕戦は3月6日。予選通過チームとの初戦で始まる2連覇への戦いまでまだ1年以上ある。その中で、日本人メジャーリーガーから出場への強い意思表示が相次いでいる。井端監督は名前こそ伏せたが、直接その意欲を聞いたからこそ、この1年は自信を持って準備にとりかかる。
井端監督 非常にありがたい。このオフ、こっちで(日本人メジャー選手)何人か会いました。いい返事をもらってる選手もいるので、ありがたいなと思います。もう1シーズン(25年)終わってまだ時間がある。今の段階で意思表示だけ聞いておけば。向こう(メジャーに)行って試合に出ているということは、力がある選手であることは間違いない。本当にメジャーリーガーの力は大事になってくる。だからけがだけには十分気を付けてほしい。
カブス今永、鈴木、レッドソックス吉田、タイガース前田、エンゼルス菊池、メッツ千賀、パドレス松井、ダルビッシュ、ドジャース山本と、そうそうたるメンバーが、メジャーでしのぎを削っている。大谷翔平も、出場を“公言”した1人。昨年12月10日の合同インタビューで「呼んでいただけるのなら何度でも出たい」と出場への意欲を示している。今年は2年ぶり二刀流復活間近。再び世界の頂点を目指すため、日の丸を背負って、打って、投げる必要不可欠な存在だ。
井端監督 メジャーリーグでMVPを取るような選手。そこを目指している選手が日本にもたくさんいる。その象徴であるのは間違いない。また前回同様、来ていただけるならチームをどんどん引っ張っていってくれれば。当然、打つ方でも投げる方でも、両方期待しています。
世界一という天命が、50歳にして自ずと舞い込んだ。引退を決断した「不惑の年」から今年でちょうど10年。5月12日に50歳を迎える。「四十にして惑わず、五十にして天命を知る」と、50歳は「知命の年」と言われている。小学1年生で阪神岡田彰布モデルのグラブをはめてから歩み始めた野球への道。22歳にして飛び込んだプロの世界で、すでに半分以上を生きてきた井端監督は、果たすべきことがハッキリとしている。半世紀を生きながら、ここ10年で天命の輪郭は次第に色濃くなってきた。
井端監督 日本野球が世界の頂点に君臨したい、ずっと君臨していたいということは思っている。そういった選手が出てきているのは間違いない。自分が野球をやっていた頃、メジャーリーガーは雲の上の存在だった。小学生、中学生の頃は到底、日本は追いついていないと思っていた。現役のときも力の差を感じた中で、今だいぶ縮まっている。スーパースターになる選手が出てきて縮まっている。イチローさんをはじめ、大谷選手もそう。
10年間、激変する野球界に指導者として身を置き続けた。引退翌年からコーチへ転身。侍ジャパン、巨人だけでなく、20年からは社会人野球NTT東日本でも臨時コーチを務めた。U12、U15日本代表監督も歴任。世代、カテゴリー問わず、野球を学び、変化も感じ取ってきた。
井端監督 ちょうど現役やめて10年。長くやってきた自分のイメージと今の野球、やってたときとは10年たてば変わっているのは分かる。その中でなんとかコーチも経験させてもらって、こうやって監督やらせてもらって、なんとかついていっている感じです。
昨夏、メジャー視察したときには、練習風景を見て衝撃を受けた。内野手のノックをフルスイングし、強烈な打球を繰り出す光景に、メジャーの変化を察知した。「パワーだけでなくディフェンス、走塁っていうところにメジャーが力を入れだした。(ノックを)フルスイングして振り切っていたのは驚いた。(メジャー球団の)コーチやアナリストに聞いたら『より実戦に近く』ということだった。それも1時間みっちり」。野球の母国のプライドをかけて変貌を遂げようとしていた。打倒日本-。本気になっているのは米国だけじゃない。昨年11月のプレミア12では決勝で台湾に屈した。侍包囲網はすでに敷かれている。
井端監督 人生半分過ぎたかなという年。野球に携わるのもあと数年くらいかなと思ってますけどね、自分の中で。目いっぱい、全精力傾けて終わりたいなと。
いつだってヘビ年は上下左右、波を打ちうなりを上げるように、巡航と逆境の繰り返しだった。中学2年だった89年、グラウンドに出る機会が極端に減った。右肘を痛め、投げることも打つこともなく、10月は巨人が3連敗から4連勝で近鉄を下した日本シリーズ7試合をテレビで見届けた。01年は中日入団4年目。140試合に出場し遊撃手としてレギュラーに定着した年だった。その12年後の13年は中日ラストイヤー。オフに右足首と右肘の手術を受けた後、巨人に新天地を求めた。
井端監督 悪い、良い、悪いでいいんじゃないですか。だけど、肝心なのは次の26年ですから。
今年3月(オランダ戦)と11月(未定)に強化試合を予定。メジャー視察は、「シーズンの邪魔はしたくない」とキャンプ時期を検討。前回大会出場したヌートバー(カージナルス)同様、日系人選手にも注視する。就任から強化試合を含め15試合14勝1敗。たった1敗、されど1敗。この悔しさはWBCで晴らす。
井端監督 現状でどの選手も満足していないと思う。そこを上げてくれれば日本のレベル、総合力も上がる。今年は大会がないので選手にはとにかくレベルアップと、成績を上げてもらえれば。まだ選ばれていない選手にも十分チャンスはある。24年は決勝まで全勝でいって、最後負けて結果は準優勝。良いか悪いといったら悪いとしか思わない。でも切り替えて次、WBCに向けて、そこで勝てばいいとしか思っていない。
○…井端監督は25年への思いを「新」の1文字に込めた。「また新たに世界一に向けて戦う。挑戦したいという気持ちがありましたのでこの字を選びました。また新鮮な気持ちでやれたらいいなと思っています」。昨年は「結」を選び侍としての結束を高めた。「どんどん新戦力も出てきてくれればありがたい。やっぱり新しい力がまた日本のためになるんじゃないかなとは思っています」と、新年の誓いをたてた。