横浜F・マリノスのスポーティングダイレクター(SD)に就任した西野努氏(53)が横浜市内の事務所で会見し、世界で戦えるクラブチーム作りを自らのミッションとして掲げた。
強化責任者として「大事なことはマリノスがこれまで掲げてきたアタッキングフットボールという基本を変えず、一方でサッカーもどんどん変わって進化していきますので、その環境の中で国内で勝ち、アジアで勝ち、継続的に世界で戦えるクラブチーム作りというところで何ができるか」と基本方針について語った。
チームだけでなく、支えるクラブ組織の強化も見据えて「オープンネス」「競争」がキーワードになるという。「意思決定者は我々クラブなので、しっかり軸を持って意思決定することを前提に、情報をオープンにしてコミュニケーションを図っていきたい」。競争はチーム内のポジション争いだけに終わらず、クラブがグローバルな視点での選手獲得競争に勝つこと、またチームパフォーマンスの面でも海外に出て勝つことを意図している。
西野氏は国立の神戸大からJリーガーとなった文武両道の人。浦和などでプレーし、現役引退後はリバプール大へ留学。さらに産能大教授を経て19年に浦和のテクニカルダイレクターに就任した。そして今年6月末で退任し、横浜という新たな場所でクラブ作りに邁進する。
クラブはシティ・フットボール・グループ(CFG)との連係を更に深めていく。西野氏が9月からCFGと話し合い、新監督にスティーブ・ホーランド氏(54)を迎えることとなった。決め手の1つとして「アシスタントコーチとしての実績と名声、おそらく経済的なものも得ている人間が、異国の日本に来て監督としてのチャレンジをしたいという強い思い。面談の中で感じることができた。目標に向かって必死にやりたいんだという気持ちがすごく強い。54歳になってから挑戦したいという気持ちに共感した」と明かした。
横浜が掲げるアタッキングフットボールとは、西野氏の定義は「ゲームの主導権を握り、相手陣内の高いポジション、ゴールに近いところで試合をやり続ける」こと。ファイナルサード攻略に主眼を置く。近年は守備的なチームが結果を残す傾向が強まっている中、攻撃力を前面に押し出し「見る人を興奮させる」スタイルで名門再建に挑む。
来季のチーム編成に取り組んでいる最中だが、攻撃力がある反面、守備に課題を残した。上島拓巳が福岡へ完全移籍し、エドゥアルドも長崎への移籍が決定的となっている中、センターバックは大事な補強ポイントとなる。「外国籍選手を含め、鋭意動いている」。来季もアジアチャンピオンズリーグ・エリート(ACLE)との過密日程が予想される中、それを乗り越えていけるチーム作りを進めている。
また、西野氏は自身の“右腕”となるポジションにOBでクラブアンバサダーを務める栗原勇蔵氏を強化部門に迎えることも明かした。「クラブを熟知しているし、チームの文化を含めて理解している人に僕の近くにいてもらって、アドバイスをもらいながら、彼にもチーム強化の仕事を覚えていってもらいたい」。
CFGとの関係をより強固なものにする横浜。世界戦略を見据える上で、欧州とのパイプは大きな利点となる。2026年からJリーグもカレンダーが欧州と同じ秋春制に変更されることにより、移籍市場はより活性化する。
「ヨーロッパの強豪国と一緒になることで、選手は出て行きやすくなるし、選手も入ってきやすくなる。そういう意味で彼ら(CFG)が持っているネットワークと情報は、移籍市場での立ち回りというところで、その資産はすごく活用できる」。アジアを勝ち、世界に出ていく上で重要なポイントとなる。
加えて「若い選手らがマリノスへ来ればヨーロッパへ行きやすくなるという。適性なキャリアパスをデザインできるのは強みだと思うし、そういう体現を大事にしていきたい」とも話した。
さまざまなアイデアや意欲の詰まった所信表明。グローバルな視点をもった新たな船頭を得て、マリノスは世界進出の航海を更に進めていく。