<寺尾で候>
日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。
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プロ野球監督という職業には“定年”がない。ただいつまでもしがみつくことのできるポジションではない。また短命で辞めざるを得ないケースも出てくるし、逆に長期政権もある。
オリックスの指揮をとった仰木彬は70歳だったし、野村克也が74歳で楽天監督だったのが最年長記録になっている。複数球団にまたがって「名将」にふさわしい永年勤続といえる。
このほど阪神監督を退任した岡田彰布が、球団フロント入りし、新たに設けられた『オーナー付顧問』に就任することが正式発表された。今月は67歳を迎える誕生日月だ。
その肩書が「横文字」「カタカナ」でないからホッとした。「SD」「SEA」「TA」「SA」って…。今まで何をするポストなのか理解に苦しむネーミングに出会っていたからだ。
阪神で采配を振った7シーズンで、2度のリーグ優勝、日本一。監督という職業が想像の域をはるかに超えた激務であるのは、その座に就いたものにしかわからない。
今シーズンが2年契約の最終年だったとはいえ、それが更新されることはなかった。球団からは、続投の打診、要請もない。日本一監督はあっさりとユニホームを脱ぐことになった。
プロ入りした経緯から相思相愛だった阪神で育った岡田の心中は察するにあまりあった。心労だろうか。本人がもっとも大事にして、陰で支えた「京都岡田会」も延期になった。
そのギャップか、新ポストが決まって、徐々に体調も回復し、解き放たれた岡田の表情は穏やかだった。一時は体重70キロを切ったが、今では4、5キロは戻ってきたという。
大阪市内の病院で1週間の検査入院を経て、スパッと禁煙も決め込んだ。最近は再びゴルフにも興じている。これから高知・安芸の秋季キャンプにも4、5日間滞在するようだ。
今後については、まだ具体的ではないが、阪神球団を中心にしてフリーに動くらしい。現場をはじめとして球団サイドも様々な案件で助言を求めていく姿勢のようだ。
監督を辞した岡田の退任後のポストについては“権限”が注目されていた。だが球団からは、チームの最高責任者にあたる「GM職」ではなく、決定権もないという説明だった。
しかし、彼の実績に裏打ちされた存在感から、ことあるごとにメディアはとりあげるし、ひょっとすると“岡田発言”はそれらの役職以上に注目されることが予想される。
もともと人脈、ネットワークは豊富で、阪神の歴史と伝統の継承を重んじている。まだまだ体調さえ良ければ、阪神球団はもちろん、その内外に影響力を大きくもつ可能性がある。
最近の米大リーグのWシリーズを制覇した監督では、22年ヒューストン・アストロズを率いた名監督ダスティ・ベーカーの73歳が最高齢記録のようだ。
そこで近い将来、どこかで監督として再登板する可能性について聞くと「なに言うてんねん」と一蹴された。健康が回復してきた証拠だと思った。
これからは新たに就いたポジションの動きもスポットを浴びることだろう。(敬称略)【寺尾博和】