J2清水の元日本代表MF乾貴士(36)がJ1復帰の立役者になった。勝てば自動昇格圏の2位以内が決まるアウェー栃木戦で1-0の完封勝ち。頼れるベテランも70分間奮闘し、勝利に貢献した。22年、規律違反を発端にJ1C大阪を退団し、その後清水に加入。「俺を拾ってくれたクラブ」と感謝の思いをピッチで体現し続けた。来季は3シーズンぶりにJ1の舞台に戻ってくる。
待ち望んだ瞬間に湧いた感情は安堵(あんど)だった。乾は後半25分にピッチを退き、ベンチから歓喜の時を迎えた。うれし泣きするチームメートを見て、自身はグッとこらえた。「見られたら恥ずかしいやん」。涙は流さず、少年のような笑顔を見せ、「内容はよくなかったけど、勝ててよかった。ホッとした」と胸をなで下ろした。
感謝の思いをピッチで体現し続けた。22年に規律違反を発端にC大阪を退団。「引退も考えた」という。無所属選手となり、J2岡山には練習生として参加。移籍先を模索していた中で清水からの獲得オファーを受けた。「問題を起こした俺を助けてくれた。エスパルスの力になりたかった」と再起を誓った。
だが、加入した22年は成績が振るわず、J2に降格。チームに残って迎えた昨季は10得点10アシストの活躍を見せた。それでも、J1昇格に届かなかった。クラブ初となる2季連続でのJ2。主力流出が危惧されていた中で、1番に契約を更新した。「落としてしまったので、上げなければいけない。サポーターとみんなで最後に笑いたい」。
今季はケガの影響もあり、27試合出場で5得点。乾は「全然ダメ。納得のシーズンとは言えない」と話すが、ピッチでの存在感は健在だ。乾も以前から「あと何年やれるか分からない。やれるなら上のリーグでやりたい」と話していた。来季は3季ぶりのJ1。オレンジのユニホームで躍動する姿を、サポーターも待ち望んでいる。【神谷亮磨】
◆乾貴士(いぬい・たかし)1988年(昭63)6月2日、滋賀・近江八幡市生まれ。野洲2年時に全国高校選手権優勝、横浜を経て08年6月に当時J2のC大阪へ移籍。10年にJ1復帰を果たし、11年8月に当時ドイツ2部ボーフムに移籍、その後はドイツ1部Eフランクフルト、スペイン1部エイバル、ベティス、アラベス、エイバルに所属。日本代表では18年W杯ロシア大会に出場。国際Aマッチ通算36試合6得点。今季は28試合出場5得点。169センチ、63キロ。右利き。