カブス今永昇太投手（31）は、メジャー1年目で15勝3敗、防御率2・91をマークした。先発ローテを守り抜き、勝利、防御率ともにリーグ3位。パイレーツ・スキーンズ、パドレス・メリルらとともに新人王候補に挙がる。「投げる哲学者」と称される男が異国の地で好成績を残した1年目を振り返りながら、今後の夢についても語った。【取材・構成＝久保賢吾】
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9月10日のドジャース戦、今永は初回に先頭大谷からベッツ、フリーマンと「MVPトリオ」に4球連続で速球を投じ、3者凡退に抑えた。日本時代と同様に力勝負を挑み、強打者をねじ伏せる姿は見る者に勇気を与えた。
「メジャーの打者は真っすぐを見逃さないんで、怖いですけど、そこから逃げないようにしたいなと。ボクシングで言えば、ストレートをよけたら、もう当たらないと思って、次は違う攻撃を仕掛けられるみたいな感覚。打たれてなくしてしまえば、打者も次が予測しやすくなると思うんで、なくしちゃダメだろうなって気持ちはあります」
ダンキンドーナツの注文時には「マイク」と名乗り、ロッカーの名札は「マイク今永2世」にするなど、ユニークかつ人間性の高さが地元のファン、メディア、チームメートからも愛される。
「そこはベイスターズでの経験が大きいです。ロペス、エスコバーやオースティンとかは『おはようございます』と言ったり、日本を受け入れようとする気持ちが伝わってくる選手だったので、僕らも頑張って英語で話そうとしてましたし、そういう姿勢を見てきたんで、僕も姿勢を見せることが大事だなっていうのは思っています」
グラウンド内外で、何事にもチャレンジする気持ちが、今永を日々進化させる。米国での生活が半年以上過ぎた夏ごろ、それまでは通訳に頼り切りだったホテルでの荷物回収の電話を自らトライした。
「電話って一番怖いんですよ。顔が見えないんで。でも、頑張って、フロントの方に『I have big luggage』とか言って、『Can you？』みたいに言うと、自分が想像した10倍以上の英語が返ってくるんですよ。とりあえず『イエスだろ、ここは』と思って言ったら来てくれたので、良かったなと（笑い）」
マウンドでは変化を恐れず、日々の生活でもそのスタイルは貫いた。新たな経験を重ねる中で見える世界は広がり、自身の心の成長にもつながった。
「マインドの部分で変わったのが、アメリカ人って自分が思ってるよりも僕のことを見てないなって。僕が何か失敗したとか、英語を間違えたとか、誰も気にしてないなと。最初の頃は困ったら『イエス』とか『グッド』とか使ってたんですけど、『ん？』と言ったり、『もう1回』とか言ったり、外国人にビビらなくなったのが、マインドの成長としては大きいです」
レギュラーシーズンは162試合行われ、10連戦以上の連戦、時差を伴った移動など過酷なスケジュールを消化。「こんなにも野球中心なんだ？」と驚きながら、“今永流”のリフレッシュ法も構築した。
「観光はしたことないですけど、ナイターの時は午前中にその場所にしかないお店に買い物に行ったり、でも、絶対に毎回1つだけするのは、（移動の）バスに乗る前に一番近くのカフェを探して、カフェのテーブルに座って、動画とか見ながら、『今、満喫してるわー』みたいな感じで、ちょっとハードルの低い楽しみをしてます（笑い）」
ともにリーグ3位の15勝、防御率2・91の好成績でメジャー1年目を完走した。周囲の期待、注目も高まる中、今永が抱く夢は、先輩メジャーリーガーが切り開いた道を広げ、次世代へとつなげることだった。
「こっちに来てつくづく感じるのが、今の時代に挑戦した僕はすごく恵まれてるなと。なぜなら、認めてもらえなかった時代の方々がいらっしゃるわけじゃないですか。『日本人は活躍できるの？』って言われた中、結果を出してきてくれた方のおかげで今がある。去年で言えば、（メッツの）千賀さんがあれだけ活躍してくれたので、僕の評価も上がりましたし、そういった意味では、先人の歴史の上を歩いてるな、歩かせてもらってるんだなっていうのはすごく感じます。だから、僕がこのメジャーリーグでやらなきゃいけないのは、次に来る世代の選手たちの評価が高くなるように頑張らなきゃいけないなって、そういう勝手な使命感は持っています」
