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脱炭素化とエネルギー危機で需要拡大!急成長中の「ヒートポンプ」市場動向


省エネ・省コストに役立つ技術として、外部の熱を活用した「ヒートポンプ」が世界各国で脚光を浴びています。本記事では、欧米を中心に需要と投資が急拡大している背景と、今後の成長に向けた課題について考察します。

ヒートポンプとは

ヒートポンプは、空気や水、地面から収集した熱を圧縮・膨張させることで熱エネルギーを増やし、熱が必要なエアコン・給湯器などへ移動させるための装置や技術のことです。

化石燃料を使用せず、少ない熱源で熱エネルギーを利用できることから、電力供給の安定化と脱炭素化を支える重要な技術として、期待が高まっています。国際エネルギー機関(IEA)によると、近年のモデルはガスボイラーより3~5倍エネルギー効率が高く、普及が進めば2030年には世界の二酸化炭素(CO2)排出量を5億トン以上削減できる可能性があります。

世界のヒートポンプ関連企業の売上高が2年連続で2桁成長

エネルギー危機による光熱費の上昇や脱炭素への取り組みを背景に、世界のヒートポンプの売上高は2021~22年にわたり2年連続で2桁成長しました。ヒートポンプの需要が急拡大している欧州で約40%増を記録したほか、米国においてはガスセントラルヒーティング(※)の売り上げを上回りました。

(※)建物内の熱源装置で熱を作り、各部屋のパネルヒーターなどに送って建物全体を温めるシステム。

ヒートポンプに対する政府支援や投資が急加速

政府による支援や投資も増加しています。現在、30ヵ国以上がヒートパンプの導入促進策や金銭的インセンティブを打ち出しており、一部の国・地域は製造能力の強化に向けた投資戦略を展開しています。

2023年には、EU(欧州連合)委員会がヒートポンプ製造能力強化に総額50億ユーロ(約7,800億円)弱、米国エネルギー省が国内の電気ヒートポンプ製造能力拡大に総額2億5,000万ドル(約362億5,000万円)を投資する計画を発表しました。一方で、一般家庭における導入促進策として、補助金を交付している国も増加傾向にあります。

例えば、イタリアは建築物の省エネ改修サポート制度の一環として、ヒートポンプの購入価格の最大110%、米国はインフレ削減法により30%が税額控除として返還する制度を設けています。

日系メーカーにも海外事業拡大のチャンス?

世界のヒートポンプ市場の活性化は、同分野で世界をリードする日系メーカーにとっても、海外事業拡大のチャンスとなる可能性があります。

最近では、ダイキン工業が推定3億ユーロ(約468億円)を投じて、欧州最大のヒートポンプ式暖房機工場を、ポーランドに新設する計画を発表しました。その一方で、パナソニックは欧州のヒートポンプ式給湯暖房機及び水循環型空調事業の成長戦略として、チェコ工場の製造強化やスウェーデン・システムエア空調事業部買収などに、総額800億円を投じています。

三菱電機欧州研究開発センターは2023年5月、アイルランドのアラン諸島にヒートポンプを制御するシステムを構築し、エネルギー自立化への有効性を検証する実証実験を開始しました。これは、離島のエネルギーの自立化を支援するプロジェクト「REACT」の一環で、同社はイタリアのサンピエトロ島でも同様の実証実験を予定しています。

ヒートポンプにおける今後の課題

とはいうものの、2021年にヒートパンプが世界の暖房需要に占めた割合はわずか10%と、2050年までの「ネットゼロ目標(※)」の達成には程遠い状況です。目標を達成するためには、この割合を20%以上へ引き上げ、2030年までに世界のヒートパンプの在庫をほぼ3倍に増やす必要があると、IEAは推定しています。

(※)世界のCO2排出を実質ゼロにするための国際目標。

つまり、世界的な普及の拡大が必須となるわけですが、その一方で「設置容易性の改善」「小型化」「低コスト化」「政府支援・インセンティブの強化」「設置業者不足」「新興国における認知度の低さ」など、解決を要するさまざまな課題が横たわります。そのため、課題解決に役立つ革新的な技術の研究・開発も、重要なカギとなるでしょう。

近年は、建物や工場で排出される排気や排水、排熱を回収し、加熱に利用するヒートポンプ技術や、ヒートポンプのパワーを調節できる可変速型コンプレッサー(※)など、環境負担やコストを軽減し、ヒートポンプの効率性を向上するための技術開発が加速しています。

(※)ヒートポンプに内蔵されている冷媒器。

ヒートポンプ市場は今後の成長に期待

欧米だけではなく、日本を含むアジア諸国においても、ヒートポンプ普及拡大への取り組みが進んでいる現在、今後の成長が大いに期待できる領域です。Wealth Roadでは、今後もヒートポンプ市場の動向をレポートします。

※為替レート:1ドル=145円、1ユーロ=156円
※上記は参考情報であり、特定の銘柄の売買及び投資を推奨するものではありません。

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