世界中で脱プラスチック社会への取り組みが加速する中、プラスチックの代替素材である「バイオプラスチック」の需要が拡大しています。本記事では、4兆円市場に急成長を遂げると予想されているバイオプラスチック市場と、その成長をけん引するスタートアップの取り組みをレポートします。
深刻化するプラスチック問題
国際連合(UN)の調査によると、世界の年間プラスチック生産量は4億トンを上回っているにも関わらず、リサイクルされているのはそのうち10%以下になっています。年間1,900万~2,300万トンのプラスチックが海や川に流れ込み、マイクロプラスチック(※)が生態系破壊を引き起こす原因となっています。
また、プラスチックによる温室効果ガス問題も懸念されています。経済協力開発機構(OECD)は、2060年までにプラスチックのライフサイクルから排出される世界の温室効果ガスの量が2019年の2倍以上に増加し、43億トンに達すると予想しています。
(※)直径5mm以下のプラスチック粒子のこと。
バイオプラスチックとは
化石燃料への依存を減らし、温室効果ガスの排出量の削減に貢献する手段として注目されているのが、「代替プラスチック」とも呼ばれる「バイオプラスチック」です。バイオプラスチックは、以下の3つに大きく分けられます。
1)植物などの再生可能な資源を原料とするバイオマスプラスチック
2)酵母などの微生物の働きで二酸化炭素と水へ分解する生分解性プラスチック
3)その両方に該当するプラスチック
バイオプラスチックはすでに私たちの生活に浸透しており、身近なところではレジ袋や食品容器、医薬品包装、衣類、自動車や家電製品の部品などに使用されています。
欧州のバイオプラスチック産業協会European Bioplastics(ヨーロピアン・バイオプラスティックス)の試算によると、世界の化石燃料ベースのポリエチレンをバイオベースに置き換えることにより、年間4,200万トン以上の二酸化炭素(CO2)の排出量を削減することができます。
革新的なアプローチで成長を後押し!海外スタートアップ3社
革新的なアプローチでバイオプラスチック市場の成長を後押ししているのが、スタートアップです。注目されている3社を見てみましょう。
使い捨てバイオプラスチック素材「Notopla」
ロンドンを拠点とするNotopla(ノットプラ)は、マイクロプラスチックを放出しない、100%生分解(※)が可能な使い捨てプラスチック容器やプラスチックペーパーなどを開発しています。例えば、同社の技術をベースとするコーヒーバッグは、カップに入れてお湯を注ぐと溶けてコーヒーと一緒に飲めるため、包装ゴミをゼロにすることができます。
(※)微生物の働きによって、最終的に分子レベルまで分解し、水と二酸化炭素となり自然界へ循環してゆく性質のこと。
食品廃棄物由来の生分解性PHAプラスチック「Genecis」
食品・医薬品などの製造工程で発生する有機性廃棄物を焼却処分、あるいは埋め立て処分する際に排出するメタンガスや二酸化炭素(CO2)は、深刻な環境負担の要因となっています。
カナダのGenecis(ジェネシス)はソリューションとして、有機性廃棄物からPHAプラスチック(※)を生成する技術を開発しています。同社のPHAプラスチックは柔軟性に優れており、自動車部品のような硬い素材から繊維のような柔らかい素材まで、多様なプラスチックの代替品として利用することができます。
(※)微生物由来の熱可塑性ポリエステルのこと。熱可塑性とは、加熱することによって柔らかくなり、冷却すると固くなる性質のこと。
メタンガスを再利用する生分解性PHAプラスチック「Mango Materials」
シリコンバレーのMango Materials(マンゴ・マテリアルズ)は、メタンガスの再利用とプラスチック削減という2つの環境問題のソリューションを提供しています。同社の技術はメタンガスをバクテリアの「エサ」として活用することにより、100%堆肥化(※)できるPHAプラスチックを生成し、洋服などの原料として使用するというものです。
(※)微生物の働きを活用して生ごみなどの有機物を分解・発酵させ、有機肥料を作ること。
2030年には4兆円市場に急成長?
コロナ禍で一時的にバイオプラスチック市場の成長ペースが落ちましたが、現在は欧州がリードする脱プラスチック社会への移行や新たなイノベーションの出現を追い風に、再び急成長に転じています。
インドの市場調査企業Custom Market Insights(カスタム・マーケット・インサイツ)は、世界のバイオプラスチックの市場規模が2022年から2030年まで年平均17.56%のペースで成長し、2030年にはおよそ298億ドル(約4兆1,422億円)に達すると予想しています。
Wealth Roadでは、引き続きバイオプラスチック市場の動向をレポートします。
※為替レート:1ドル=139円
※上記は参考情報であり、特定企業の株式の売買及び投資を推奨するものではありません。
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